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これから10年間、音楽で稼ぐには?「職業作曲家3.0」を提唱します。

 音楽ビジネスの生態系が構造的に大きく変わっていることは、このnoteに様々な形で書いてきました。本稿では、作編曲家などクリエイターサイドの音楽家にとっての意味をまとめたいと思います。日本はデジタル化が世界で一番遅れた国(約6年位遅れているイメージ)なので、日本で仕事をしていると見落としがちなのですが、ぼんやり過ごしているととんでもないことになります。既に音楽で生計を立てている作編曲家にも、これから音楽を始めたいという人にも、もちろんアーティストにも知っておいてもらいたい内容です。

まずは、現状を正確に把握しよう

 「山口ゼミ」というプロ作曲家育成プログラムを2013年1月から行い、受講生は500人以上となり、修了生によるクリエイターチーム「Co-Writing Farm」メンバーも150人以上になりました。僕はセミナーでは、タブー無く本音トークをする方針なので、著作権や音楽ビジネスについても最新の情報を伝えてきたつもりなのですが、ふと気づくと、身近にいるはずのCo-Writing Farmのメンバーですら、音楽ビジネスの変化を理解してない言動を見かけ、一度俯瞰して整理する必要があると思って、セミナーを行いました。本稿ではその時の内容を中心にシェアしていきます。

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 前半は、これまでの音楽業界と著作権の「復習」的な内容です。音楽業界は明文化されていない業界慣習理解も多いので、改めて説明しました。「5つの常識」というまとめ方をしています。ベースは2013年出版の『プロ直伝!職業作曲家の道』(リットーミュージック刊)に書いたもので、以前から変わらない基本的な知識の確認です。
 日本は世界第二位の豊かな音楽市場です。デジタル対応や説明の仕方には課題を抱えるJASRACですが、国際的に見て非常に優秀な著作権管理団体なのは紛れもない事実です。作曲家の印税収入は、様々な使用方法から徴収されて毎年1100億円以上が分配され続けています。

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 なので、まだ「夢の印税生活」を目指して、作曲家になるという選択肢は残っているというのが僕の認識です。「但し・・・」というのが本稿の趣旨なのですが、まずは基本知識をおさえましょう。

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 洗練されていますが、アナログベースの著作権徴収分配システムなので、時間がかかります。コンペで採用が決まってから作家の口座に印税が振り込まれるのには1年以上の期間がかかるのが普通です。

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 僕が、業界慣習を「村の掟」に喩えるのは、どこにも明文化されていないけれど、業界の中の人(村人)はアタリマエのこととして知っている不文律のようなものだからです。時代遅れになった業界慣習は変えていかなければいけませんが、まずはその存在と背景、理由を理解してほしいので、「山口ゼミ」では、具体的にそして、できるだけ丁寧に説明しています。

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 一つの音源には、著作権だけでなく、原盤権と実演家の著作隣接権があるということはプロの音楽家なら基本中の基本として知っておいてほしいことですね。

 音楽界にたくさんある「業界団体」の成り立ちについても知っておくと良いことのひとつです。僕は音楽事務所の団体である「日本音楽制作者連盟」の理事を8年務めましたので、業界団体の事情についても理解しているつもりです。

グローバルルールを知らなければ始まらない

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 基本編から、今日的な内容に進みます。これからの日本人作曲家が知っておくべきポイントが3つあります。

1)日本では音楽出版権は、アーティスト側がコントロールするのが業界慣習。欧米では(そして今やアジアでも)出版権は、作曲家に紐づく。アーティストに提供する職業作曲家にとっては、音楽出版権の意味が全く違い、海外作家との格差が生じている

2)欧米の音楽出版社では、権利を持たずに徴収分配を受け持つ「アドミニストレーター型」が始まっている。日本人作曲家は理解している?

3)作曲家にとっての原盤権。DAWで宅録の時代に、原盤権をレコード会社が持つのは合理的なの?編曲料が原盤制作費の大半を占めるケーズが多いとい現実から、作曲家が原盤権を意識するべき時代になった。

まずは、1と2の海外格差について、説明しようと思います。日本の業界慣習の特殊性がグローバル化の中で際立ってしまっています。

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外国人作曲家の「逆差別」問題

 これはグラフにすると衝撃的です。同じコンペで勝った作曲家が、外国人だった場合と日本人だった場合の比較です。
 日本では作家事務所が3〜5割という(事務所がよほど育成したりフォローアップしたりと付加価値を付けていない限り、不当に高いという印象を僕は持っていますが)ケースが多いので、4割とすると、全体の15%ということになります。
 これが外国人作曲家だとジャニーズ事務所やLDHも作曲家が出版権を取ることを認めますので、実質的には音楽出版社取り分も含めて45%と、外国人というだけで3倍の印税を受け取るということになる訳です。流石にこの「逆差別」は、長く続けるのは無理があると誰でも思いますよね?

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 ちなみに、この「外国人作曲家」についてはパスポート提出等チェックの慣習はありません、海外の出版社からコンペに参加していれば、「外国人作曲家」扱いになります。「Justin」というペンネームで、LAの音楽出版社からコンペに参加した作家は、本名は鈴木穣一で下北沢に住んでいてもわからない訳です。業界慣習的にはそれこそ「掟破り」になりますが、これだけ受取額に開きがあれば、わからないようにやっている作家がいても不思議はないと僕は以前から思っています。

作家事務所のフィーは代表出版社が負担するべき!?

 この件は、音楽出版社協会に講師として招かれた時にも問題提起しました。僕は日本の音楽業界で育ったこともあり、ビジネス上のリスクを負うアーティスト側が出版権をコントロールすることに違和感は無く、不当とは思わないのです。但し、外国人作曲家との逆差別と、作家事務所のフィーの高さは大きな問題だと思っています。いずれも日本の音楽出版社の問題です。「作家事務所の報酬は代表出版社が自らの取り分から払って、作家分は本人に渡す」などの、日本の新たな業界慣習が必要ではないかと思っています。正当な対価のないところには才能は集まりませんし、育ちません。作曲家の能力開発は音楽出版社の本分ですから、そこを作家事務所が補ってくれているのであれば、出版社取り分で対応するべきではないでしょうか?

出版権を持たないアドミン型音楽出版社の隆盛

 さて課題の提示を終えて、この辺からが、本稿の本題です。まずは最近のグローバル事情を把握しましょう。KobaltやDownTownという振興の音楽出版社がシェアを伸ばしています。この2社は、デジタルサービスの交渉、徴収、利用状況調査などに強みを持ち、自らは出版権を持たずに、作曲家にサービスを提供して、従来よりもかなり低率の手数料を受け取るエージェントスタイル(アドミニストレーション型)という新しいビジネスモデルです。

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 この二社の強みは配信事業者との交渉力やデータ解析などのデジタルサービス対応です。ストリーミングや動画UGMなどデジタルサービスが音楽の主戦場になっているという背景があります。

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 ここからが、上記3:原盤権の話に繋がります。昨今のメジャーコンペで勝てるクオリティのデモが作れる作曲家は、リリースして遜色のない音源を制作できるスキルを持っています。配信サービスでのリリースはTunecoreなどのアグリゲーターサービスを使えば誰でも手軽にできるようになった今では、アーティストとして楽曲を配信することはやりたければすぐにできる訳です。実際、たくさん行われています。その場合の考え方などをまとめました。

デジタル化で揺らぐ原盤権の存在意義

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 アーテイストの立場でインディペンデントに配信リリースをするということは、レーベルの疑似体験をするという意味もあります。音楽の生態系が構造的に変わっていることを実感できるでしょう。音楽ビジネスにおける「個へのパワーシフト」は、日本でも少しずつ始まっていて、これから加速しています。

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 音楽ビジネスの構造が変われば、プロの作曲家に求められる役割が変わっていくというのが僕の予測です。これは必然的で不可逆的な変化なので、具体の幅はありますが、大まかには「必ず起きる未来」です。

職業作曲家3.0の時代の到来とは?

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職業作曲家1.0=作家事務所を通じて、コンペに参加する受け身の業態。A&Rの下請けとしてのクリエイター

職業作曲家2.0コーライティングを駆使することで、作曲家同士がネットワーク化してコンペを経由するものの、歌詞も編曲も、時にはミックスまで音楽制作の実質的なイニシアティブを持つプロデューサー的ポジション

職業作曲家3.0=レコード会社や事務所が不要になってインディペンデントなアーティストと向き合い、一緒に創作、制作するプロフェッショナルクリエイター。、業界事情もビジネス構造も精通し、権利デジタルサービスでの拡散法まで理解しているアーティストのイコールパートナー。もちろん活動範囲はグローバル市場。

 プロの音楽クリエイターが生き残っていく姿は、この職業作曲家3.0型の、ビジネスも権利も理解した、アーティストのパートナーとなることだろうというのが僕の日本人作曲家への提言です。
 デジタル化の過激な変化は、去年までの常識が来年は続かないこと。日本の業界慣習にお行儀よく対応して、良い曲を作るだけでは作曲家が幸せになれないことを知って欲しいのです。
 アーティストにビジネスパートナーとしてのマネージメントや対外的な交渉力を持つエージェントは必要です。クリエイティブパートナーとしての3.0型作曲家、デジタルコミュニケーションに精通したマーケターというプロフェッショナルなブレーンに囲まれて、ビジネスについても自己責任でジャッジしていくのがこれからのアーティストの姿です。

LAで始まっている新しい音楽制作の形を知る

 実は、この「職業作曲家3.0」の到来が僕が思っていたより早いことを教えてくれたのは、LAで世界最高クラスの音楽家たちとネットワークを作って活動しているヒロイズムとの会話でした。LAでは既に、作曲家は音楽出版社にデモを持ち込まないし、アーティストはA&Rに楽曲を求めないという流れになっているそうです。アーティストと作編曲家が直接つながって、コーライティングして(英語では共作が当たり前過ぎて、WRITINGということ多いようですね)作品を完成させようとしているそうです。
 「個へのパワーシフト」の時代に当然の流れなのでしょう。現状の世界の音楽家の最新情報を共有をし、ディスカッションするオンライントークイベントを企画しました。是非、ご参加下さい。

蛇足:とは言え、今の日本ではまだ、コンペに勝って作品を世に出すのが作曲家。今はまだね。

 僕が「過激派養成」をしていると思われと困るのでww 最後に加えた蛇足もお見せしておきます。僕は自分が育てた作曲家たちに音楽家として幸せになってもらいたいだけで、「正しい主張」をやみくもに言うのがよいとは思っていません。

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 そして、近未来像を知ったことで、目先にある「コンペで勝つ」ことへのモチベーションが下がらないように、こんな喝!を入れておきましたww

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 コンペが仕組みとして残っているうちに、経験と実績と人脈作りを行うのが、今の日本の作曲家の基本的な戦略/やるべきことであることは、「まだ」変わりありません。ということで、プロ作曲家育成「山口ゼミ」はまだ、しばらくは続けるつもりです。副塾長伊藤涼は、作曲家の才能を見出し、磨くことをサポートしながら、自らコーライティングをディレクションする次世代型クリエイターとして実績を積み上げています。コーライティングを得意とするソングライターのネットワークが、Co-Wriring Farmというコミュニティを中心にどんどん大きくなっています。このクリエイターコミュニティへのアクセスが、今となっては、山口ゼミの最大の価値のような気がします。興味のある方はどうぞ。

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