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旅路

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儘ならぬ生活と旅
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2022年5月の記事一覧

あたらしい道を歩くための稽古

あたらしい道を歩くための稽古

 昼間に、まだ歩いたことのない道で帰るあそびをした。薄い手提げ袋には、財布とノートと一冊の本。音のない商店街、立ち入り禁止の草むら、家に張り付いた枯れた蔦。皮膚が直に熱を受ける感触があって、空と地面を交互に見てたら、日焼け止め塗ってくるの忘れたことを思い出した。

 歩いていると、何かの条件反射のように思い出すことばかりある。歩きながら当時やたらと聴いていた音楽が流れると、そのとき自分を通してみた

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Now playing

Now playing

 「今、どんな景色が見えますか?」

 この問いの前に立ち、もしかしたらいま、言葉でしか掬えないものの輪郭を掠めたかもしれない、その気配を感じられたかもしれない。

 写真を見なくても思いだせる景色があります。それは瞬間の連なり。目だけでは見なかったものたち。いつだったか「すべてこの星の出来事」と書きました。それを目の当たりにした時にいてもたってもいられなくなった時のこと。どうにかしてそれに触れた

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夜のための灯火として

夜のための灯火として

 ほんの少しの風通しの旅を終えて、そしてこれからの活動について。

旅のこと 自分の内側にお入りなさい、と好きな詩人が言っていたこと。どこにも居場所がない気がしてと泣いたら、おりたいとこに居ればいい、ともだちが言ってくれたこと。行き帰りの高速バスで、ひとりの部屋で、すこし賑やかなファミレスで、雑踏の中で、考えたこと。握りしめてきたことばのこと。温かくて柔らかい、手渡されたことばのこと。死にたいこと

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曇りのち夜

曇りのち夜

 しばらく月も星も見えない夜が続いて、私はあんなにも夜の美しさを愛していたはずなのに朧げな記憶に蓋をしてしまった気がしている。大好きな景色があった、ほんとうは今だって目を瞑れば鮮明に思い出せる。どんなに深い夜でも遠くに光る街が、走るトラックの音が、深夜にふらふら歩いていくコンビニが、帰り道の点滅信号が、まるで夜を揺蕩う切符のようにあったことを。まっくら闇のなかで、自分の輪郭や夜との境界線があやふや

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