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【エッセイ】吾文を以て百代の後に伝えん
「余は吾文を以て百代の後に伝えんと欲する野心家なり」
夏目漱石の言葉である。
都営大江戸線 牛込柳町駅の目と鼻の先、早稲田南町に、かの夏目漱石が生前暮らした山房があることを、ついこのあいだまで知らなかった。
今では邸宅そのものは取り壊され、「漱石山房記念館」というミュージアムになっている。
冒頭の一節は、漱石の門弟、森田宗平への手紙の中で綴ったものである。
旧千円札に映る理知的でクールな肖像の内に、これほどの野心を抱えていた漱石という人物は、いったいどんな人だったのだろう。僕は漱石の創作に対する内なる炎に驚き、同時に、なぜか漱石の人間らしさに親近感を覚えた。
僕はあと何年生きるのだろうか。
その中で唯一やりたいこと、否、心の底から実現したいことは、自分の生きた証を形として残すことだ。百年前の小説家を、後世の人が彼の残した文章を通じて、親しい隣人のように感じさせるのは、小説家の特権だ。
僕は三十歳の節目の年に、僕は改めて自分の使命を、小説家になるという夢を強く想う。命を燃やして、百代先まで残る物語をつくりたい。自分の着想によって、誰かの心を動かしたい。
散歩の途中で偶然出会った一節が、今も頭から離れない。
さて、何を書こうか。
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