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【ショート・エッセイ】 瀬戸内海

海と聞いてパッと思い浮かぶのは、穏やかで、打ち寄せる波があげる音も柔らかい海。海水浴は、内海での経験しかない子供時代。私の知っている海は、こわいところでも、暗いところでもない。

瀬戸内海を擁する山陽地方は、世界で何ヶ所かある、地中海性気候と認定される気候帯にあると、小学校の時、先生から聞いた。大人になってから、厳密には、地中海性気候の名前での区分にはならないと知ったが、たしかにそういう気候帯ではあるらしい。

オリーブ林で有名な、香川の小豆島や岡山の牛窓。この地帯で取れるオリーブは、国内生産のほとんど全てだ。

成人して、国外に住みだしてから、離れて日本を懐かしむ人たちと話す時、同国出身とはいうものの、イメージの違いの大きさを、よく感じた。あれを見ると日本を思う、とか、食べたくなるというもの。日本はいいねと思い出す景色。あたりまえといえばあたりまえだが、私の思う日本と、合っている時もあれば、違和感を持つ時もあった。

海が懐かしいよね、という時、思い浮かべる光景。

瀬戸内の海。緩やかで長く続く浅瀬。クラゲは出ても、サメやシャチなど、間違っても海岸線に現れることはない。津波は来ない。気候は温暖。

魚ひとつでも、私は、シャケ一匹とかマグロだのカツオだのに感慨がわくことはない。私が懐かしく思う魚は、小物ばかりだ。ママカリ。鮎。シャコ。牡蠣。しらす。

前に、テニスの錦織圭さんが、ノドグロが食べたいと発言して、その魚が知られるようになった。中国地方とはいえ、島根出身でない私は、聞いたこともなかった。

山陽地方は、中庸で快適で、適度に便利だ。とりたてて我慢できないようなところはない。でも、だからこそ、私は自分の出身地が嫌いだった。厳しい自然もなければ、激しい競争もない。食料事情をはじめ、何もかも恵まれている。でも、適度に。なにも、ずば抜けてでなく。ぬるま湯につかっているような。人を成長させないようで。

私が嫌だと思ってきた、山陽地方の特徴は、内海と呼ばれるところ一般の、特徴そのままだ。

不思議なことに、おとなになった私には、訪れてみたいとか、美しいと思う所が、いつしか、地中海の気候のあるところばかりになっていた。

自分の出身でなかったら、私は山陽地方にも、憧れたりしていたのだろうか。そう思うと、記憶の中の若い私が、身震いをしている。

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