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若い料理人のための食器案内 その6 備前

代表的器種

手鉢
沓鉢
徳利
陶板

特徴

備前焼はあらかじめ釉薬をかけないで焼く焼締陶の一種です。日本には備前以外にも信楽や常滑などレベルの高い焼締陶がいくつかありますが、歴史的に食器を生産してきたのは主に備前で、現代でもその傾向は続いています。代表的作品にも挙げましたが、手付きの鉢など大きな食器も多く焼かれています。ただし食器類には銘がついていないものが殆どなので、美術館のサイトなどでそれぞれの作例を見てみてください。酒器では徳利が多く作られており、和物で徳利といえば備前というようなブランドでもあります。当時は酒器としたわけではないと思いますが片口も良いものが多数あります。
造形としては土の可塑性を生かした、流れるような動きが特徴で美濃の影響を受けた形のものもより土の弾力を感じさせる物が多いように見受けられます。また大きな特徴としてあげられるのが焼け方のバリエーションが非常に豊富ということです。それぞれの焼け方の名称などはどこでも調べられるので割愛しますが、それにより多様なシチュエーションに使用することができると思います。現代のものでも概ね焼き締まりには問題ないのでそのあたりも余り気にせずに使うことが出来ます。ただし概ねです。

現代でよく見かけるようになった陶板も備前でよく作られました。しかし基本的には作品を焼成するための棚として使われたものを2次的に利用したものであったようです。現代では色んな産地で陶板が作られていますが、やはり備前のものが良いと思います。お寿司屋さんでは漆器の盛台と並んで、陶板が使われることがありますが、この陶板が箸にも棒にもかからないものである確率がなんと高いことか… 寿司屋では常に客の目の前に出ている器ですから何に気を使わなくともこれだけは良いものを使ってほしいと思います。

作家の紹介

安倍安人
一様式を打ち立てた、現代備前の大立者だと思います。自然釉がかかったりよく焼けている部分はとろけるような独特の質感を有しています。桃山のスタイルをよく研究した造形も良いです。

大森礼二
灰被りはおしなべて控えめの傾向ですが、肌に室町期のようなうっすらとした潤いがあります。

小出尚永
力感のある造形にしっかりした土肌です。比較的細かい土を使った作品でも土の様相がしっかり見て取れる良い土肌です。

森本良信
安倍安人の作風を受け継いでいます。最近はより落ち着いた土肌の良さを生かしたものも目立ちます。

曽我尭
古備前志向ですが、食器などはモダンな造形のものもあります。良いものは底光りするような肌です。

備前の作家は食器もよく作っているので個展に行けば様々なものから選べると思います。備前は土肌、造形、景色など見どころが多様な焼き物なので何を重視するか、自分の好みに従って選ぶと良いでしょう。備前は普通の品質のものでもそれっぽく見えるため、安易なチョイスを招きやすいジャンルです。なので備前を使う料理屋さんは現状でも多いと思いますが、「単に土っぽい陶器」以上の魅力を備えたものを使っていただければと思います。

写真の出典:https://webarchives.tnm.jp/

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