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若い料理人のための食器案内 その5 唐津

代表的作品

松文大皿(絵唐津大皿:出光美術館)
秋の夜(奥高麗茶碗)
山雀(斑唐津茶碗)

唐津焼というと茶色か鼠色をしている粗い土の陶器という印象をお持ちの方もいるかも知れませんが、それは偏ったイメージですので早々に払拭してください。
唐津焼は美濃と比べるとあまり技巧によらない、比較的焼き締まりの強いものが多い使い勝手の良い陶器です。昔のものも窯ごとにスタイルの違いはありますが、ガッチリと「密に焼きしまった」土肌が特徴的な焼き物です。
美濃は主に高級品として流通しましたが、唐津は桃山時代から生活のための焼き物としての生産も活発でした。ただし美濃の影響を受けた轆轤で作ったものを変形させた形に絵付けを施したものや、四方に切込みを入れたものなど手が込んだ食器も生産されています。それ以外の器種としては単純な造形の皿や鉢は大量に焼かれましたし、サイズは大きめのものも揃っています。片口や徳利、盃に使えるような酒器に適した器も生産されました。特に盃は名品がいくつも生まれており、現在でも多く焼かれています。また古唐津は単純な造形のものであっても轆轤から生じる自然な動きがありながら、適度な轆轤目による力強さを兼ね備えています。
現代においてはスタイルも様々ありますが、文様がなく色の薄い釉薬をかけた無地唐津、緑色の釉薬をかけた青唐津、絵付けを施した絵唐津、白濁した釉薬を用いる斑唐津位を抑えておけばよいでしょう。(上記の代表的作品にある奥高麗は便宜上無地唐津の一種と捉えてください。)美濃ほどは劇的な違いはないので、同一の作家がいろんな手を手掛けていることが多いです。また李朝系の焼き物も同時に作っている人が多いですが、いずれの作家も唐津系のものを薦めます。昔の唐津は概ね硬く、汚れにくく作られていますが、現代のものは汚れやすいものも意外と多くありますので気をつけてください。ただ下記の作家はそういった事はほぼありません。
色合いはそれほど鮮やかではありませんが、緑の青唐津、白の斑唐津、黒の黒唐津など様々ありますので、何か色を探しているときは唐津から探しても良いかもしれません。


作家の紹介

丸田宗彦
しっかり焼けた土肌に、土に染み込むような釉薬の焼けが特徴的です。無地のものや絵唐津、斑も良いです。造形に唐津らしい力強さが見られ、テクニカルな形の向付もよく手掛けています。

梶原靖元
朝鮮系のものもよく手掛けていますが、唐津系のものを薦めます。多彩な土を使用しており、概ね砂粒が寄り集まったような土肌に魅力があります。造形に独自性が見られます。

山本亮平
小物成窯という緻密な土肌の磁器に近い古唐津を写したものがとても良いです。もちろん釉薬が施されているのですが、まるで土肌がそのまま見えるような趣です。

矢野直人
黒唐津などモダンによったものもありますが、クラシックな造りのものを薦めます。無地唐津は一見おとなしいですが、良い味のつき方をします。

唐津はスッキリした印象の器も多いので和食など懐石料理以外の店にも使える物が多くあると思います。無地唐津の単純な造形の皿など活用してみてください。また、唐津は使い込んだときの景色が美しい焼き物です。最初は地味でも徐々に貫入に色が入り、釉内部に見える土がより鮮明になりそれに伴ってパッと見たときの立体感が出てきます。そのように綺麗に汚れが入るのも良い唐津の条件ですから、まずいくつか購入して個人的に使うことから始めていただくとより魅力を正確に捉えることができると思います。


写真の出典:https://webarchives.tnm.jp/

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