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作業時間の見積もりはクローズド・クエスチョンで

前回は、メンバーが自分でタスク管理できるように育てる方法について紹介しました。作業時間の見積もりをするときに、プロジェクト・マネジメントにおける三点見積もりという考え方を流用しました。数字の正確さを追い求めるのではなく、メンバーの気持ちに着目することで、時間見積もりが「少しずつ」できるような階段を作っていきました。

今回は、三点見積もりに登場した3つの数字を決めるときのちょっとしたテクニックを紹介します。メンバーの時間見積もりを改善するだけでなく、自分自身の時間見積もりにも使える、簡単な方法です。(もちろん、私も使っています)

三点見積もりは、次の3種類の値から算出するものです。

最頻値:実現可能性が最も高い(中略)所要期間またはコストの見積り値(見込み値)。

楽観値:最良のシナリオで実現される(中略)所要期間またはコストの見積り値(見込み値)。

悲観値:最悪のシナリオで実現される(中略)所要期間またはコストの見積り値(見込み値)。

三点見積もり』より

見積もり時間(の候補)を倍々にしていく

時間見積もりと言うと、普通は「◯◯という作業は何時間かかるだろうか?」とオープン・クエスチョンで考えますよね。

これを、こんなふうに変えてみます。

① 基準となる時間を適当に決める。たとえば「5分」とか。

② 「◯◯という作業は5分で終わるだろうか?」と、【①】で決めた時間で終わるかどうかのクローズド・クエスチョンで考える。

③ Yes(「5分で終わる」)なら、見積もり工数は5分とする。No(「5分では終わらない」)であれば、【①】の時間を倍(5分×2=10分)にする。

④ 「◯◯という作業は10分で終わるだろうか?」と、【①】の時間を倍にした時間で終わるかどうかのクローズド・クエスチョンで考える。

⑤ Yes(「10分で終わる」)なら、見積もり工数は10分とする。No(「10分では終わらない」)であれば、【③】で決めた時間を倍(10分×2=20分)にする。
※「さすがに10分はかからないから8分くらいかな」とはせずに、そのまま「10分」を採用する。

⑥ 上記手順を、Yesとなるまで繰り返します。

このように、見積もり時間(の候補)を倍々にして、クローズド・クエスチョンで確認していきます。タスクの規模にあわせて、①で決める基準の時間を5分、1時間、1日などと調整します。

正確さを求めても割りに合わない

なぜこの方法が有効かというと、人間の脳のつくりが関係しています。人間の脳が「時間」を感じる過程というのは、とても複雑なものです。複雑ゆえに、騙されやすい。ぜひ、引用記事の冒頭にある実験をやってみて、「騙され」てみてください。

前提として、時間知覚についての特殊事情がある。我々が、脳のどこで時間を知覚しているのか、ということだ。

「視覚には視覚皮質が後頭部にあると分かっていますし、聴覚にも聴覚皮質があります。運動は運動皮質があって、皮膚感覚みたいなものに対しては、体性感覚皮質がある。fMRIが出てきて20年くらいたって、脳の局所の活動って、もう大体わかってきているんです。でも、時間皮質というのは、見つかっていないんです。ということは、脳のいろんなところを全部使っているんですね。脳のグローバルなネットワークとしての活動の結果、時間の知覚というのが生まれるんだと」

ヒトの脳はどのように時間を知覚しているのか』より
結局、時間の知覚は、一筋縄ではいかない。さっきは、視覚と聴覚の違いに着目したけれど、ここでは時間の長さのスケールも関係しているようだ。

つまり──

ミリ秒単位のごく短い時間帯では、小脳や運動野がはたらき、1秒を超えると視覚野や聴覚野がそれぞれ関与し、ずっと長くなって何日、何年というふうになると記憶がかかわってくる。

時間の知覚とは、まさに脳をあげて行うもので、「時間帯」によって処理する部位が違いつつ、それらが時々、バッティングしつつも、結局は、シームレスにつながって「時間」といふうに感じられる。それ自体、驚異だ。

ヒトの脳はどのように時間を知覚しているのか』より

騙されやすい、言い換えると、間違えやすいので、「何時間で終わる?」とオープン・クエスチョンで聞かれても、たいした精度は期待できないわけです。

だったら、倍々の数字でクローズド・クエスチョンで聞いたほうが、よっぽど判断の根拠がはっきりしているし、かつ、判断が速い。また、慣れていない人はリスクを甘く見積もりがちなので、倍々にすることで自動的にリスクを見込んだ数字が出てきます。

見積もり時間は対話のきっかけ

もちろん、この方法を単純に適用すると見積もり時間が簡単に爆発してしまいます。なので、倍々で出てきた数字をそのまま使うというよりは、その数字をもとにしてメンバーと対話することが必要です。「1時間だとできなさそうだけど、2時間だとできそうと感じたのは、どういうところ?」と。

見積もりは数字ですが、見積もりができるように育てようとしたら、数字としての正確さだけを追い求めてはいけません。数字としての正確さだけを指摘するのであれば、エクセルがあれば十分で、そこにあなたという「人」の出る幕はありません。

タスク管理を身につけてもらうための見積もり方法』より

今回の論点は、「正確な時間見積もりをするには?」ではなく、「メンバーが正確な時間見積もりを身につけるためには?」です。

人を育てるという文脈においては、見積もりは、気持ちの受け皿であったり、リスクを具体化するためのコミュニケーション・ツールとして使うのが効果的です。管理する対象はあくまでタスク「だけ」です。人とは、管理ではなく、対話でもって向かい合う必要があります。人と対話できるのは、人「だけ」なのです。

タスク管理を身につけてもらうための見積もり方法』より

倍々での時間見積もりは、正確な時間をはじき出すものではなく、「リスクを具体化する」「コミュニケーション・ツール」です。ぜひ、メンバーと前向きな対話をしてほしいと思います。

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