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中古の洗濯機

東京都 Iさんから聞いた話。

Iさんは20代の男子大学生で、この春、めでたく憧れていた会社に就職が決まり、愛知県から上京することになった。初めてのひとり暮らしと、社会人としての生活が始まることに、心を躍らせていた。

都心のオフィスに通うため、職場まで電車で1時間ほどかかる郊外のマンションの一室を借りることにした。実家からは布団や衣類は持ってこれるが、家具や家電は一通り揃える必要があった。引っ越しだけでもかなりの費用がかかるため、少しでも安上がりになるようにと、Iさんは洗濯機を中古の家電販売店で購入した。

その後、引越しは無事に終わり、Iさんの東京での新生活が始まった。はじめはちゃんと動くかどうか心配だった中古の洗濯機も、しっかりと仕事をしてくれている。慣れない家事にあたふたしながらも、楽しく毎日を過ごしていた。

ある日の夜のことだった。いつものように仕事を終えて帰宅したIさん。夕飯を済ませた後、洗濯機を回し始めた。そこから30分くらい経った頃だろうか、Iさんがテレビを見ている最中に、ゴロンゴロンと何か重いものが転がるような音が廊下から聞こえてきた。

慌てて廊下に出てみると、どうやらその音は洗濯機の中から出ているようだった。脱水している洗濯槽の回転に合わせて、何かが底の方で転がっている。スイッチを切り、濡れている衣服を取り出し、中を確認してみたが、とりわけ音の正体らしきものは見つからず、電源を入れ直すと今度は特に問題なく動き始めた。

しかし、この日を境に奇妙なことが次々と起こり始めた。洗った白いシャツが茶色に染まってしまったり、買ったばかりの下着が何枚もボロボロになってしまったり、動いていない洗濯機の中から壁面をバンッと叩いたような音がしたりと、これまでとは一変してトラブルが多くなってしまった。さすがに気持ち悪くなり、その日からIさんは家から離れた場所にあるコインランドリーを使うことにした。

それから数週間が経った頃だった。会社が繁忙期に入り、毎日残業続きだったIさん。家には深夜遅くに寝に帰るような生活を送っていた。その日も深夜遅くに家に帰ってきた。部屋には洗っていない衣服がたまり、クローゼットにはいよいよ明日着るものもなくなってしまった。疲れていたため、どうしてもコインランドリーまで行きたくなかったIさんは、しかたなく、例の洗濯機を使うことにした。洗うものをかき集め、洗濯機の蓋を開けた時だった。

「アアァーーーーッ アアーーーッ」

小さな子どもが大泣きするような、絶叫しているような声がその中から聞こえてきたのだ。大きな声だったので、部屋の中で反響しているようだった。

Iさんはあまりの恐怖に全身に鳥肌が立ち、着の身着のままで近所のファミレスまで逃げてきてしまった。そして、そのまま日が昇るまで時間を潰していた。

日が昇ってから部屋に戻ってきて、恐る恐る部屋の中を確認してみたが、特に変わったところはなかった。さすがに会社に行く気にはなれなかったので、仮病を使って会社を休み、洗濯機を処分することにした。廃棄するには手間と時間がかかるので、Iさんは以前利用した中古の家電販売店に引き取ってもらおうと考えた。

早速販売店に電話をして、経緯を伝えたところ、すんなり回収してもらえることになったそうだ。意外にもすんなりとことが進んだので、逆に不審に思い、電話の相手にその理由を聞いてみると、こんな答えが返ってきたという。

「私も詳しくは存じ上げないのですが、どうやら元々の所有者様が、その...子どもを虐待して死なせてしまったのだそうです。その方が手放してから、弊社が引き受けるまでにも数社経由しているのですが、同じように回収することがあったそうです。この度はご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。」

事実は誰もわからないが、もしかしたら、あの洗濯機の中で子どもが亡くなってしまったのではないか。Iさんはそう考えた。彼は今でも洗濯機を使うのが怖いのだそうだ。

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