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内線

山梨県 Tさんから聞いた話。

Tさんは50代の主婦で、夫と、80代の義父の3人で暮らしている。義父は妻に先立たれてから、ずっと離れに住んでいた。母屋には妻との思い出がたくさんあり、なんだか居づらいのだそうだ。代わりにTさん夫婦が母屋に住み、義父は用事や食事の時だけ母屋に顔を出していた。

離れと母屋には内線が引かれており、お互いにいつでも連絡が取れるようになっていた。ある日のこと、夕飯の用意ができたTさんは、離れにいる義父を食卓に呼ぼうと、いつものように内線をかけた。

ジリリリリ ジリリリリ ガチャリ

「あ、もしもしお義父さん。夕飯の用意ができましたよ。」

そう伝えたTさん。いつもならすぐに、はいはいと返事があるのだが、なぜかこの日に限っては違った。電話口から返事はなく、男性がボソボソと話している声と、遠くの方でコンコンと何かを叩いているような声が聞こえる。

「もしもし、お義父さん聞こえますか。」

相変わらず返事はない。故障かと思い、Tさんは内線を切り、直接離れに向かった。部屋の中を覗いてみると、客間で本を読んでいる義父を見つけた。

Tさんは食事の準備ができたことと、どうやら内線が故障しているようで、返事がよく聞こえなかったため離れまで来たことを義父に伝えた。しかし、義父は「今日はまだ電話はかかってきていない」と言い張ったそうだ。

ガチャリと受話器を取る音を、たしかに聞いていたTさんは、しばらく不思議に思っていたが、それ以降同じようなことは起きなかったため、気に留めないことにした。

そこから1年ほど経った日のこと。夜中に突然義父が倒れ、救急車で病院に緊急搬送されたのだが、治療の甲斐もなく、そのまま帰らぬ人となってしまった。悲しむ暇もなく、葬儀が行われることとなり、Tさんたちは喪主を務めた。

葬儀の当日のことだった。焼香が始まり、木魚が一定の間隔で鳴り、お経が詠まれているなか、参列者が声をかけてくる。Tさんは、不思議と最近も同じ体験をしたような感覚になっていた。そしてハッと気がついた。離れに内線をかけた時と同じ音を、今まさに聞いているのだと。

よくよく思い返してみると、あの時の声はお経のようだったし、コンコンと鳴っていたのは、たしかに木魚の音だった、とTさんは言った。未来に起きる義父の葬儀の音声を、受話器を通じて聞いてしまったのだ。

Tさんは、いったいどこに電話をかけてしまったのだろうか。

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