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連れて行かれる

福岡県 Bさんから聞いた話。

Bさんは30代の会社員で、この話は彼が7歳の時に起きた体験談である。

ある冬の日のことだった。夜中にトイレに行きたくなり、目が覚めたBさん。真っ暗ななか一人でトイレに行くのが怖かったため、同じ部屋で寝ていた母を起こし、一緒についてきてもらおうとしていた。Bさん、妹、母という順番で、川の字になって寝ており、母を起こすためにはふたつ隣の布団まで歩いて移動しなければならなかった。

ごく近い距離ではあるが、小学生の彼にとっては暗闇は怖かった。トイレに行かずそのまま寝てしまうことも考えたが、我慢ができなさそうだった。Bさんは目をぎゅっと閉じ、静かに布団から立ち上がると、寝ている家族の足を踏まないように、ゆっくりと母が寝ている布団までうつむきながら歩いた。

一歩一歩と歩いているうちに、足元の感覚から、妹の布団を通り越したことがわかった。もう母が近くにいる。そう思って緊張が解けたBさん。母の枕元の方向に顔を向けて、パッと目を開けてみた。すると、寝ていたはずの母が、立ってこちらを見ていた。母と言えどもいきなり目の前に現れたので、Bさんはびっくりして「わっ」と声が出てしまった。

その瞬間だった、すぐそこに立っていた母が、一瞬で消えてしまったのだ。そして同時に、さっきまで母が立っていた足元で、もぞもぞと動きながら、本物の「母」が起き始めたのだ。目をこすりながら、Bさんに話しかけた。

「何かあった?こんな時間にどうしたの?」

どうやら、先ほど驚いた時に出た声で、目が覚めてしまったようだった。Bさんは慌てて経緯を説明したが、見間違いじゃないの、とまともに取り合ってくれなかったのだそうだ。怖かったが、ひとまず母にトイレまで連いてきてもらい、その日はそのまま布団に入った。

翌朝、朝食のときに、Bさんは昨晩の話をまた母にしてみた。すると母から、こんな言葉が返ってきた。いま考えると、息子を怖がらせるための意地悪な質問をしてみよう、と思っていたのかもしれない。

「その立っていた人、本当にお母さんだった?」

Bさんはその質問に対し、直感的に「違う」と感じたのだそうだ。はじめは母と認識していたが、よく思い返すと妙な点がいくつもあったからだ。本物の母と比べると、夜中見た母のようなものは、まず明らかに身長が大きかった。髪も長く、白い服を着ていた。そして何より、近くにいたはずなのに、どんな顔をしていたのかわからなかった。

「もしかしたら違うかも...」

そう言って、Bさんは先ほどの特徴を母に伝えた。さすがに母も怖くなったのか「じゃあ叔母さんに相談しておくね」と、Bさんを学校に送り出した。

さて、このBさんの叔母、つまり母の姉に当たる人物だが、仮にFさんとしましょう。Fさんは関東で霊能師をしており、そういった奇妙な出来事が起こったときによく相談に乗ってもらっていたのだという。母は、Fさんに電話をかけ、昨晩あったことを伝え、「霊視」をしてもらった。

夕方、Bさんが家に帰ってきた。気になるのは、母とFさんがどんな話をしたかだ。ランドセルを背負ったまま、母に話しかけた。

「ねえねえ、どうだった?」

母からの返事は意外なものだった。

「Bくんのおかげで、お母さん助かったんだよ。」

Fさんに霊視をしてもらってわかったのは、もしも連絡が遅かったら、Bさんの母が「連れて行かれる」ところだったのだという。

Bさんが住んでいた家の近くで、ちょうど母と同じくらいの年齢の女性が当時亡くなっており、ひとりで死ぬことが嫌だったからか、年齢が近かった母を道連れにしようとしていたそうだ。Bさんが真夜中に見かけたのは、まさに「連れて行く」最中の光景だった。もし早い段階で対処ができなかったら、事故や病気など、母に何かしら危害があったかも知れなかった。

7歳の男の子にはなんとも衝撃的な内容だったが、電話越しにお祓いをしてもらったのでもう大丈夫、とのことだったので、安心したそうだ。

もしもあなたの周りで奇妙なことが起こったら、身の回りの人に早めに相談することを、おすすめします。

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