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日本の現状分析と提言「日本企業の勝算」

アトキンソン氏の著書を読むのは初めて。

私自身1995年生まれでして、生まれてこの方ずっと「失われた20年」やら「失われた30年」やらと言われており、全体的にとても暗い状況が続く日本で暮らしてきたわけですが、どうにかもっと希望を持てる国にできないものかなと考えることも多く、そのヒントを探るためにいくつか読んでいた本のうちの一冊です。

以下、本書から印象に残った点を抜粋・コメントしておきます。

日本では、今後数十年にわたり、先進国の中でも突出したスピードで人口が減っていきます。減少の規模も突出しています。2060年までの生産年齢人口の減少幅は、世界第5位の経済規模を誇るイギリスのGDPを支えている労働人口3211万人よりも多い、3264万人にものぼります。

語り尽くされたトピックではあるけど、あらためて日本の推定人口減少スピードを見ると恐怖。

国全体の生産性を上げるためには、主に2つの方法があります。労働生産性を高める方法と、労働参加率を高める方法があります。

第2次安倍内閣の発足以降、総人口に占める生産年齢人口比率の低下の悪影響を緩和させるために、主に女性の労働参加率を高めることで、なんとか全体の生産性を維持してきました。つまり、アベノミクスの下ではあくまでも労働参加率が上がったことで全体の生産性が上がっただけで、労働生産性はそれほど上がっていないのです(図表1‐7)。さきほども述べたように、労働参加率を上げるのはすでにほぼ限界に近づいているので、今までのアベノミクスの生産性向上のための政策は限界にきていることがわかります。

計算上、2060年に現在と同じ560兆円のGDPを維持しているためには、生産性を今の1・3倍に高める必要があります。生産年齢人口の減少を加味すると、これを実現するためには労働生産性を1・7倍に引き上げなければならないのです

第2次安倍内閣の労働参加率を高める政策は一定の成果を得たが、それも今は限界。これからは、労働生産性の方にメスを入れていく必要がある。

生産性を決める要素は、主に以下の5つです。 ① 総人口に占める生産年齢人口の比率 ② 生産年齢人口の就業率(労働参加率) ③ 企業の平均規模 ④ 輸出率 ⑤ イノベーション  以上のうち、 ① と ② は国全体の生産性に影響し、残りは主に労働生産性に影響を与えます。

ふむふむ。

日本企業の平均規模はアメリカの 45・3% にすぎません。製造業以外だと、日本企業の規模はアメリカのたった 26・7% です。つまり日本企業は小さすぎ、それゆえに弱すぎるのです。企業の規模が小さくなればなるほど生産性が下がり、給料も下がるのは経済学の原則です。

日本の生産性が低い原因は、全企業の半分強の企業の売上が平均して5000万円しかないくらい、小さい企業が多いからです。簡単に言えば、日本では経済合理性の低い産業構造のまま、規模の小さい企業に労働者が大量に分配されてしまっています。だから、せっかく能力の高い人材が豊富にいるにもかかわらず、彼らの力が有効に活用されることなく、多くがムダにされているのです。その結果として、せっかくの技術力が発揮されない、給料が上がらない、過酷な労働環境で働かなくてはいけない、有給休暇が取れない、女性活躍が進まないなど、さまざまな弊害が生じてしまっているのです。

アトキンソン氏が本書で一貫して主張しているのは、日本経済衰退の原因、労働生産性が低い要因は、中小企業の多さとそれらへの労働力の集中にあるということ。(※読み進めるとわかりますが、小規模事業者やスタートアップ起業を推進することに反対しているわけではありません)

生産性の高い国は、大企業と中堅企業が中心となり、多くの労働者がこれらの企業で働いている産業構造を有しています。逆にもっとも非効率なのが、非常に小さい企業で多くの労働者が働いている構造です

日本では、従業員 20 人未満の企業で働く人の割合が 20・5% で、アメリカのほぼ倍です。国税庁の調べによると、2015年には日本人労働者の 29.9% が従業員30人未満の企業で働いていました。 こういった企業規模の問題は日本最大の課題です。

ギリシャ、イタリア、韓国、日本には、女性活躍が進んでいないという共通の特徴があります。一般的には、女性の活躍が進んでいないのは男尊女卑の風潮が強いからで、ゆえに生産性も低いと主張する人が少なくありません。しかし私は、この意見は違うと考えています。 女性活躍が進んでいないのも生産性が低いのも、いずれも小さい企業が多すぎる産業構造がもたらした「結果」でしかありません。もっとも根深い問題こそ、「非効率な産業構造」なのです。 産業構造が非効率になると企業の対応力が下がり、女性が活躍しづらい社会になります。

なるほど。女性活躍が進んでいないという課題が結果論であるという視点は新鮮。

日本全体では、労働者1人あたりの創出付加価値(労働生産性)は546万円でした。次に、企業の規模別の労働生産性の違いに注目してみましょう。  大企業の創出付加価値は1人あたり826万円なのに対して、中小企業全体では420万円。大企業の実に 50・8% と、ほぼ半分の水準です。  さらに中小企業を中堅企業と小規模事業者に分けて見てみると、中堅企業が457万円で、小規模事業者は342万円となっています。中堅企業は大企業の 55・3% ですが、小規模事業者はわずか 41・5% の水準でした。 

日本には「問題は大企業にある」「大企業病」「大きいことは必ずしもいいことではない」など、大企業を否定的に捉える傾向があります。しかし数字を見れば明らかなように、日本では大企業の生産性が圧倒的に高く、中小企業の生産性のほぼ倍なのです。

1社あたりの平均社員数を見てみると、大企業が1社あたり1308人なのに対し、中小企業はたったの9人です。この数字は小規模事業者を含めた平均です。  ふたたび、中堅企業と小規模事業者に分けて見てみますと、中堅企業が 41 人なのに対し、小規模事業者は3人という驚きの数字であることがわかりました。  日本では全労働者の 22・3% にあたる1044万人が、このようにきわめて規模の小さい小規模事業者で働いています。

EU 28 のうち、特に生産性の高い国と比べると、日本の中小企業の生産性の低さが日本全体の生産性の足を引っ張っている様子が明らかになります。たとえば日本の中小企業の生産性は、ドイツの 70・5%、フランスの 60・7%、イギリスの 57・6% しかありません。   第2章 で紹介したように、日本の産業構造は大企業が少なく、中小企業が圧倒的に多いという点でスペインやイタリアに似ています。スペインやイタリアと比較すると、やはり、日本の生産性が低いのは大企業ではなく中小企業に原因があるのがはっきりします

中小企業の多さが国全体の生産性の低さを招いている構造は、スペインやイタリアと類似。

もっとも歪みが生じやすい政策の組み合わせは、中小企業の規模の定義を小さくして、大企業を厳しく規制すると同時に、手厚く中小企業を補助することです。これはまさに日本で行われている政策、そのものです。 日本の大企業は常に解雇規制を緩和してほしいと要望を出しています。一方、中小企業は労働者を無理やり解雇しても、そのことがバレて罰せられることはあまりないので、解雇規制の緩和については大きな声を上げません。  このようにさまざまな分野において、日本の当局は大企業に厳しく、中小企業に優しいのです。優しいというより、中小企業に対して規制を徹底していないと言ったほうが正しいかもしれません。

中小企業というだけで受けられる以下のような優遇制度があります。 ① 法人税率の軽減 ② 欠損金の繰越控除 ③ 欠損金の繰戻還付 ④ 交際費課税の特例 ⑤ 投資促進税制 ⑥ 少額減価償却資産の特例 ⑦ 固定資産税の特例措置 ⑧ 研究開発費税制 ⑨ 消費税の特例  しかも、令和元年の補正予算と令和2年の予算を合わせると、中小企業庁の予算は5000億円を超えているのです。
なかでも、特に注目すべきなのは法人税です。法人税法における中小企業軽減税率の適用範囲は、「資本金1億円以下の企業」です。 2019年の消費税の引き上げに合わせて、中小企業が自ら規模を小さくする動きが見られました。資本金を一定の金額以下にすると補助金がもらえるということで、その補助金を目当てに減資をした企業が激増したと報じられています。規模を拡大させず、受けられる優遇措置を目一杯享受するのは、中小企業の経営者にとって合理的な行動ではあります。しかし、補助金目当てに中小企業のままでいようとする企業が少なからず存在するのは、看過してはいけない残念な日本の実情です。

中小企業に対する過度に手厚なサポートが、逆に成長しないことへのインセンティブとなってしまっている現状。

小売業の生産性の低さを話題に挙げると、「細々とお店をやっている爺ちゃん婆ちゃんをいじめるつもりか」「街が大企業のチェーン店だらけになっていいのか」「生産性の向上と町の肉屋さんを両立できる方法はないか」とヒステリックなことを言い出す人もいます。  ここで重要なのは、そういうことではありません。  人口減少が進む日本では、生産性を高めなくては社会保障を存続させることすら危うくなってしまいます。このことはけっして忘れてはいけません。 生産性の低い業種に貴重な人的資源を配分したまま放置してしまうと、社会保障制度を維持することはできなくなります。「爺ちゃん婆ちゃん」を守るつもりが、逆に彼ら彼女らを苦しめることになるのです。

数十年スパンで課題を捉えてかないといけない。

生産性の低い企業の経営者は、低い最低賃金を念頭に自ら生み出す商品の付加価値とその商品の単価を決めます。当然安い価格帯の商品が生み出されるようになるので、生産性も低くなります。最低賃金を引き上げると、単価を上げるために商品の付加価値を高めなければなりませんので、何らかの投資をする必要が生まれます。  しかし、低い最低賃金に慣れた経営者の多くは、生産性を高める術を持たないので、最低賃金の引き上げには大反対し「そんなことをしたら倒産するぞ!」と騒ぎたてます。こういう声を聞いた政治家が経営者たちの話を真に受けてしまうと、生産性の低い産業構造が永遠に固定されて、動かなくなります。「低生産性・低最低賃金トラップ」にハマってしまうのです。

日本の場合、1964年体制で中小企業が異常に多い産業構造ができ上がり、低い生産性と低賃金で人を雇う仕組みが生まれ、そのままの経済的均衡状態で固まってしまっています。  つまり、生産性が低いから最低賃金が上げられない、最低賃金を上げないから生産性が上がらないという悪循環が、ぐるぐる回っているのです。

賃金が低いと経営手法を高度化するインセンティブが働きづらく、ICTの普及率も低くなります。これは大変興味深い事実です。 日本には、ICTに関しては高い技術力を持っていながらも、普及率が低いという摩訶不思議な現実が存在します。

しかし最低賃金を引き上げると、さすがに経営者たちも対応するしかありません。社会保障負担の増加に苦しんでいるのにインフレがないこの国にとって、最低賃金引き上げは経営者に生産性向上を促す、大切な刺激策なのです。最低賃金引き上げは、生産性向上を実現するための大切なツールです。

ある種のショック療法となるかもしれないが、労働生産性の改善のためにも最低賃金の引き上げは必須。

効率のよい産業構造を持つ国には、以下のような特徴があります。 ① 大企業にだけ規制を厳しくするようなことはしない ② 中小企業の規模を大きく定義している ③ 中小企業を優遇する政策が限定的である ④ 最低賃金が相対的に高い  この中で、 ④ 以外の特徴を持ち合わせている国の典型がアメリカです。さすが、たくさんのノーベル賞経済学者を輩出した国です。
反対に、産業構造が非効率になる国には以下の特徴が見られます。 ① 中小企業の定義が非常に小さい ② 中小企業に対する優遇策がきわめて手厚い ③ 中小企業以外の企業に対し、厳しい規制が存在する ④ 最低賃金が低い(もしくは最低賃金の規制がない)  これらの特徴を持ち合わせている国の典型例が、スペイン、イタリア、ギリシャ、韓国、そして日本

日本の生産性は世界第 28 位で、先進国の中では非常に低い位置にいます。そうなってしまっている最大の理由は、優秀な能力を持つ人材が、その能力を発揮できないほど規模の小さい企業で、異常とも言えるほどたくさん働いていることです。簡単に言うと、人材をムダ遣いしているのが、日本の生産性が低い理由です。  現在の日本の産業構造は非常に非効率で、経済合理性に欠けています。

このような構造になってしまった原因は「1964年体制」にあります。  1963年に制定された中小企業基本法で中小企業を小さく定義した上で、それらの中小企業に対して手厚い優遇策が行われました。そのため、まったく成長しない規模の小さい企業が爆発的に増え、現在の経済合理性の低い構造ができてしまったのです。

アメリカとドイツには共通した特徴があります。大企業と中堅企業が中心となり、新しく生まれた企業も比較的早い時期に中堅企業や大企業に成長する一方で、成長できない企業には市場から退場してもらう仕組みになっているのです。これによって大変強い産業構造が生み出されています。

これから日本に人口減少時代が訪れることを考えれば考えるほど、優れた中小企業政策が本来果たすべき役割というのは、中小企業の規模の小ささをどう補完するかではなく、企業が最適な規模まで成長するための支援だと強く確信するようになります。

企業の規模を拡大するための促進策という「飴」と、最低賃金という「鞭」を中核とした政策に切り替える、これが日本を救う道なのです。何十年もかかる長い道かもしれません。しかし、この道を行く以外に「勝算」はないのです。

最低賃金の引き上げや中小企業向けの政策を見直すなど、生産性向上のために国ができることは山ほどあるなと思った一方、個人としては自分の仕事や関わるプロダクトを通して国の生産性向上の一助となれると良いなと改めて感じました。

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