20-0227-疲弊した街角7-yokonaga2

わからないのにわかった気になる日々

またしても「わかる・わからない」について書いていきます。
本当に「わかる・わからない」の問題は根が深く、あらゆる社会問題に通底している最大の要因だとぼくは相変わらず睨んでいる。

みんなで決めていく「民主主義」の制度のもとでは、国民全員の「理解力」を上げていく必要がある。民主主義をやめて独裁で行くなら、別に国民の理解力を上げる必要はない。

ロコナイウスルの件でニパックに陥っている人を見て「あれはチョメチョメだ」と言う人がいるが、チョメチョメだと言ったところで状況は変わらない。
人は「わからない」ものに対して異様な恐怖心を抱くものだ。ロコナイウスルは未知のものだから恐怖の対象になり、恐怖がニパック行動を引き起こすとすれば、わかることの重要性、は、は、は、はてしない。

1.わかるための技術と、わからない人々ばかりの社会

文章を文字通り読めることと、読んでわかることは違う。
最近は新井紀子さんの『AIに負けない子どもを育てる』を読んでいる。

『AI vs.教科書を読めない子どもたち』の続編にあたるこの本の中には「読めるとはどういうことか?」が書かれている。読めない子は単語を拾い読みしているのではないかとか、わからない単語があったときに辞書を引いてもわからない単語に出くわすので定義はずっとわからないままだとか、読み仮名を振っても理解度は上がらないとか、意外なことも書かれている。

その上で、新井さんが開発したRST(リーディングスキルテスト)というテストで測定できる「事実について書かれた短い文章を、正確に読むためのスキル」が紹介されている。スキルは6つに分かれており、具体的には本を読んでほしいのだが、ざっとまとめると以下のようになる。用語以外はあえて説明文を噛み砕いている。

①主語述語の関係など、文の構造がわかる力<係り受け解析>
②それ、あれ、これ、などが何を指してるかわかる力<照応解決>
③文の構造が違う2つの文章の、意味が同じかどうかわかる力<同義文判定>
④情報をもとに、そこから導かれる結論がわかる力<推論>
⑤文章と図を比べて、その内容が一致しているかわかる力<イメージ同定>
⑥定義をもとに、それに当てはまる具体例がわかる力<具体例同定>

新井さんの本を読んでいると、基本的に人はわかりあえないな…という思いが強くなってくる。上の6つの能力がどれも低い人は、何かの文章を読んでも、人の話を聞いても、その内容を正確に把握することができない。
文章を音や文字として、捉えることができているのに、内容がわからない。

雰囲気ではわかったような気にはなれる。
特にみんな揃っているときはその場の空気が形成されるので、どう振る舞えばいいか、勘のいい人はわかってしまう。
「いいね!」とか「面白かったです!」とか「わかりました!」と言って雰囲気で乗ることはできるのに、「で、どういう内容ですか?」と聞かれるとわからない。大問題である。すべては雰囲気にのまれていく。

「やってる感」という言葉で政治家を批判する言説をたまに見かけるが、雰囲気でOKな国民の前では、「やってる感」でいいのである。「やってる感」が出せるかどうかが、政治家の腕の見せ所になってしまっていることが、「やってる感」よりももっと大きな問題なのだ。

さて、自分も含め、理解力に乏しい人が世界の大半を占めているのだと想像すると、「誰かとわかりあえる」ことは、奇跡だなと思う。だから、ぼくのことをわかってくれない人がいても、全く、1000mgも驚かない。

新井さんの本で面白いのは、「理解力」を分解してスキルに落とし込んでいるところだ。自分がどういうときに、どういうところで理解のつまづきを起こすかがわかる。

2.イラストレーターとしての個人的な話

ここからはイラストレーターの仕事として考えてみる。とても個人的な話なので、イラストレーターすべてに当てはまる話でもない。

ぼくは個人的に、イラストレーターとして、上に列挙したスキルのうちの「イメージ同定」をあげていきたいと思っている。文章と図が正確に対応しているかわかる、という奴。
文章を読んでイラストを描くためには、文章を理解するだけでなく、その文章と図がきちんと対応できているかを理解する力が必要になる。

いまここでこんな文章を書いている理由は、図解って実はめっちゃ大変なんだよ、というアピールのためでもある。

まとめると、文章を図にするためには、

①「言葉で書かれた文章をまず理解でき」
その上で
②「理解した内容を、どう図にするかを理解できる」という2段階の理解が必要になる。


この2つの理解のうち、どちらかでも欠けていると描かれる図は破綻したものになる。だからぼくはイラストレーターとして伸ばしたい能力のひとつに、理解力のアップも入れている(そんなことをやってるから、画力が伸びないのだ、という説もある)。新井さんの本を読んで、その「理解力」をより具体的に把握することができたと思う。

しかし図解に限らず、「ビジュアルの仕事はすべて、イメージ同定だ」と言ってしまっても良いのかもしれない。クライアントの意図を汲むのも理解力、その意図をビジュアルに落とし込むのも、また別の理解力=「イメージ同定」だと言える。



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