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難から解へ

本づくりで自分にできることは何か?をボヤボヤと考えているイラストレーターです。考えたり調べたりするばかりで他に何もしていない、というのが正しいところで、そこにガッカリする人が万が一いたら申し訳ありません。先に謝っておきます。

なんとなく文章を連ねることの簡単さ。

ネットの情報には怪しいものが多い。と仮定しながら書いていく。
なぜネット情報には怪しいものが多いかといえば、誰にでも言葉を並べることができてしまうからだ。言葉を並べることの簡単さは、キーボードを打ちながらよく感じる。

単純に言葉を並べることができる人は増えたのに、精査する人は少ないままだから、怪しい情報の比率は相対的にどんどん高まっていく。書籍も刊行点数を増やし続けた結果、怪しい情報でも世に出るようにはなっているかもしれない。精査するめんどくささに比べて、書き連ねる簡単さのバランスが取れていない。インターネットはそのバランスがひどく、書き連ねる人が相対的に多すぎ。書籍は精査する人のバランスが取れている。うまくいけば書き手1に対して編集と校正の2が入るから、1:2である。

ぼくもネットでしか文章を書いていないし、アップする前に誰かに読んでもらうわけでもないので、この文章も怪しいもののひとつである。堂々と論を展開しているように読めるかもしれないが、実はただ展開している風なのであって、本当にそうか?はとても怪しい。

もちろんそんなインターネッツに漂う文章の中にも、ときに多くの人の関心を惹きつけることはある。だけど多くの人の関心を集めるものと、情報の真偽は一致しない。それはネッツの情報も書籍の文章も関係ないことだけど、まずこの前提を確かめておきたい。関心を集めるから情報が正しいわけでもない。逆に情報が正しいだから関心を集めるということももない。関心が集まるようなきっかけと内容があるから、関心が集まる。

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劣化したAIみたい

新井紀子さんの『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読むと、AIには意味を掴むことができない、と説明されている。

AIはわかったふりができるだけで、本当にわかって動いているわけではない。コンピュータは数式と確率と統計で成り立っている。AIはビッグデータを利用して、統計的に「わかったような振る舞い」を導き出していく。AIの心境を言葉にすれば「よくわからないけど、みんなそうしているから正しいはずだ。だから私もそうする」になると思う。そうやって目の前にあるものへの「回答」を導き出していく。(という理解)

AIのできることとできないことを知ると、じゃあ人間はAIにできないことをしようか、と大抵はそうなる。だけど新井さんの本を読むと、僕も含め、ほとんどの人間はAIにできないことができないだけでなく、AIにできることもできない、「劣化したAIにすぎない」なのではないかとも思えてくる。意味を掴むことができない人間は、劣化したAIである。劣化というと、よかったのに悪くなったみたいな意味に取れるので、「できそこないのAI」「未完成のAI」などのほうが近いかもしれない。

ぼく自身、まだわかってない、と思っていてもわかったふりをしながら動くことは多い。動くことのほうがわかっているよりも評価に直結しやすいからである。

意味をつかめるかどうか

インターネットが本と違うのは、本には編集の段階でルビをふれるところだ。でもインターネット上にある文章のほとんどは、意識的か無意識的かわからないけど、ルビなしの状態だ。ルビなしでも読めることを前提にみんな文章を書いている。だからネット上の文章は読める人しか読まず、読まない人はYoutubeなどの動画に流れていく。
そんな中、ぼくは「読める人を増やすこと」が大事だと思っている。通常の識字率を高める(字を読める人を増やす)ではなく、意味を掴める人のことだ。動画にも言葉が使われ、それが文章として論理が組み立っている。意味が掴めないなら、どれだけ動画で学習しても効果が出ない。むしろ感情優位になって、煽り動画に誘導されてしまう。

読み上げ機能

iPhoneの読み上げ機能を使って本を読むと文字通り「意味が掴めず」に「誤読」を永遠と繰り返し続ける。「こいつ意味わかってないな」がよくわかる。意味がわかっていないと音読ができない。

(事例1)
たとえば「答はAである」と書いてある。
このときの読み方は「こたえはAである」と読むのが正しいが、ぼくのiPhoneの読み上げ機能は「とうはAである」と読んだ。
そこで設定で読み方を追加してみる。「答は」は「こたえは」と読むのだ、と教えると今度はちゃんと「こたえはAである」と読んでくれる。だけど次に「解答はAである」という文章に出くわしたとき、「かいこたえはAである」と読むようになる。アホか。

(事例2)
読み上げの事例。
「アホな方がいるものです」をiPhoneは「アホなほうがいるものです」と読む。そのままでも聞きながら「方なんだな」と思えるのは、文章の流れ的に明らかに「かた」が出てくるタイミングだからわかる。iPhoneにはわからない。そこで「方」は「かた」と読むのだ、と設定を変えると、確かに「アホなかたがいるものです」と読んでくれる。しかし今度は「アホな方法がありまして」が出てきたときに「アホなかたほうがありまして」と読む。悔しい。

AIは意味を理解していないので、その時々の「意味」に応じて解を見出せない。文章は言葉の連なりで意味を生み出していく。人間は同じ言葉を使いながら、あるときは真面目に話し、あるときは「冗談」を言う。それを理解できないのがAIなのだが、劣化したAIである人間もまた、それを理解できない。

「この人は冗談を言う人だ」と認識すると、その人が真顔で冗談を言っても気付きやすい。でも「この人は真面目な人だ」と認識されると、その人が真顔で冗談を言っても冗談だとは思われない。「ですよね〜」と返されるのがオチである。

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これはぼくの偏見かもしれないが、「意味を理解できない人」は「難しい問題」が嫌いである。「わかりにくい!」「もっとわかりやすく!」と熱っぽく訴える。ぼくも研究者が書いたような文章を読むとやっぱり「むずかしい〜…」と思ってしまうのだが、「何かを理解しよう」と、前のめりに思っていない人にはなんでもかんでも難しく感じられてくるものだ。難解そうに思える本も、地道に読んでいくと意外と読めてしまう。でも「難解!」と表に書いてあると、「はい、やめておきます」と言って遠ざける。

これは現代日本の問題の根底にあるものだと僕は睨んでいる。
現代世界のあらゆる問題はとりあえず複雑である。問題が歴史的にも世界的にも広く深く展開しているので複雑。だから、複雑なもの、難解なものを無意識のうちに遠ざけてしまうと、何も解決できない。複雑なものを複雑なまま一旦受け止めなければ、ほぐすことはできない。
なぜ複雑なものは嫌われるか?人は複雑なものを複雑なまま受け止められるようになるか?が常々ぼくの考えていることでもある。

もしそういう「難しさを嫌う人たち」を対象に本が書かれるとすれば、「わかりやすさ」は必須である。だからこそ、多くの「わかりやすく書かれた本」が世に出ている。ぼくがわかりやすさを考えているのは、わかりやすく書かれる本にこそ、自分の力を活かせると思うからでもある。
だけど、「わかりやすさ」とは一体なんなんだろうか?
情報をそぎ落とすことがわかりやすさにつながるのだろうか?

東京都渋谷区神宮前

「東京都渋谷区神宮前」をわかりやすく言おうとするとき「東京」と一言で省略するやり方がある。なにやらいろいろ書いてあるけど、「東京」なら間違いないでしょ、というわけである。
けどたぶん、わかりやすさとは、言葉を短くすることではない。わかりやすさとは、「東京都渋谷区神宮前」を「原宿」と言い換えることのほうだ。厳密には「渋谷」でも「千駄ヶ谷」でも「表参道」でもありうるのだが、言い換えることに意味がある。
こうやって「ややこしいもの(難しさ)」を「わかりやすさ」に翻訳するときに気づくのは、難しいものを字面だけで捉えている限り、わかりやすさにたどり着けないということだ。

「東京都渋谷区神宮前」がわかるためには、「とうきょうとしぶやくじんぐうまえ」と読めるだけでは不十分。神宮前がどこかを知る必要がある。だいたいこの辺だ、とわかって初めて、「それって原宿じゃん?」と気づく。「東京都渋谷区神宮前」を字面で見ていても、永久にそこがどこだかはわからない。それは要するに、意味をわかるかどうかと同じである。意味がわかってはじめて、難しい表現はわかりやすい表現にスライドさせることができる。

現代文は、「抜き出しなさい」の問題のほうが「説明しなさい」の問題よりも簡単だ。「字面で捉える」ほうが「意味を理解する」よりも楽で、かつ字面で捉えるだけで人は「わかった気」になれる。大問題である。

だから、ぼくが本の挿絵を描くときは、本文の意味を掴みながら、「言葉とは違う表現をすること」が大事だと思っている。
言葉で表現する「意味」をなんとなく掴んだ人が、別の表現(たとえばイラストや図解)で示された「意味」を見て、なんとなくの理解の精度を上げられたら理想的。

そういう仕事が増えて、それでちゃんとお金がもらえるならとても良い。でも挿絵はカバー用のイラストに比べて値段が安くなりやすく、厄介なところでもある。それに、著者とその意味をすり合わせる時間もあまりないので難しい。

良い本をつくることに関われるなら、著者の話し合いにも立ち会ったりしたいなあと思っている昨今であります。

ダラダラと言葉を並べているうちに3900字になってしまったので終わります。


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