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「台湾の格差社会」という構造がもたらしたカンボジアへの人身売買詐欺に進展が

こんにちは。明後日から台湾は春節休暇に入るということで、すっかり年末ムードです。

つい先日、日本の若者を対象にした講演で、「台湾も格差社会なんですか?」という質問をいただきました。
「残念ながら、そうなんです。それもかなり強烈です」といった方向でその時は簡単にお答えしたのですが、その後も頭の中にこのことについてもっと詳しく書きたいという気持ちが芽生えています。

そんな折、コロナ禍で台湾社会に激震が入った事件ーー若者たちが詐欺に遭ってカンボジアなどへ人身売買されるという事件が多発していましたーーに関わっていた詐欺集団の幹部が逮捕されたというニュースが入ってきました。

今日は、この事件のあらましについてざっくり書いておきたいと思います。GDPがいよいよ日本を抜いた(2022年末に発表された予測)台湾社会が抱える「格差」というひずみが生んだ(個人的見解)、見逃せない事件です。

コロナ禍で多発した人身売買詐欺

2021年から現在に至るまで、台湾人が「海外で高収入アルバイト」という詐欺に遭ってドバイ・カンボジア・ミャンマーなどの近隣諸国へ行き、現地で人身売買されているという詐欺事件が社会問題になっていました。

被害者の大半は若者たちで、監禁され、人身売買(臓器売買もあったという報道あり・真偽は不明)されるなどの被害に遭っているとのことです。

主な手口や特徴

  • 主な詐欺対象は若者や経済弱者

  • 詐欺集団は異なる場所で接触してくる(例:SNS、求職サイト、親しい友人からの紹介)

  • 仕事内容が曖昧(例:オーナーの手伝い、簡単なパソコン入力作業、英語スキル不要、面接不要等)

  • 「高待遇・好条件」で騙す(例:経験を問わない/住み込みで宿・食事付き、飛行機のチケット付き/パスポートがない人も作ってもらえると言って急ぎで作る等)

  • 出国前に労働契約と約束手形にサインさせ、通帳や印鑑、身分証を持って来させる

  • 飛行機を降りた時点でパスポートや身分証を没収し、自由を奪う

  • そのまま閉じ込められる。

被害の規模は現在でも不明ですが、2022年夏の時点で台湾の刑事局は200件以上の詐欺案件を受理していると発表していました。

脱出者・皮皮(仮名)がきっかけで開かれた記者会見

出典:台湾国営の中央通訊社(2022年8月11日報道

この一連の事件でよく登場するのが「皮皮(仮名)」という女性です(写真で顔部分にモザイク加工がされている女性)。彼女は詐欺被害に遭ったものの、幸いにして帰国でき、記者会見を開いたことで知られています。

記者会見の場で「皮皮(仮名)」が主に語ったこと

  • 最初は警戒していたが、友人から言葉巧みに話を聞かされるうちに安心し、最後には信頼して飛行機に乗った

  • 結果、カンボジアでは7日間に4回転売された

  • 彼女は幸いにも家族が金銭を支払ってくれたのでその場を出ることができたが、他にも多くの台湾人がその場所に捕らえられていた

この記者会見では他にもこのような発言がありました。

外交部(外務省)の周民淦(しゅうみんかん)東アジア太平洋司長(局長)によると、今年(近藤補足:2022年)1月から6月にかけてカンボジアに渡った台湾人は6400人余りに上り、異常な多さだという。

フォーカス台湾(https://japan.focustaiwan.tw/politics/202208110007

同部の欧江安(おうこうあん)報道官は(近藤補足:2022年8月)11日の定例記者会見で、6月21日から8月10日までにカンボジアにいる台湾人222人からベトナムに置く在外機関に助けを求める連絡があったと明かした。うち51人がすでに帰国したという。

フォーカス台湾(https://japan.focustaiwan.tw/politics/202208110007

行政院(内閣)の羅秉成(らへいせい)報道官は(近藤補足:2022年8月)
11日、対処のための専門のチームをすでに立ち上げたと説明。現地で監禁、拘束されている国民の救出、帰国を最優先任務とし、被害者の実態把握にも力を注ぐ方針を示した。

また防止策として、空港で注意喚起を行っている他、関連が疑われる人材募集のインターネット広告の削除も進めているとした。

フォーカス台湾(https://japan.focustaiwan.tw/politics/202208110007

余談ですが、この「皮皮(仮名)」という女性は後に顔出ししてメディアに出演したり、彼女の素行に対する暴露?なども出ていてそれも話題になっています。(まだ事の顛末が落ち着いていないのでここでは割愛します)

出典:東森新聞「完整版字幕/柬埔寨受害正妹皮皮遭囚全紀錄!7天轉賣4次、不順從就被電

2023年1月17日 事件に進展が

これだけ大規模な事件ですが、残念ながら台湾とカンボジアの間には国交がないこと、そしてカンボジアは警察と人身売買をする地元の反社会集団らが賄賂で繋がっているということもあって、なかなか事件解決に至ってはいなかったようです。
政府と民間組織の協業によって地道に対策に当たっていたところ、昨日1/17に速報が入ってきました。

詐欺集団の幹部が台湾警察によって逮捕される

台湾最大級の人身売買詐欺集団「安哥」の幹部が台湾で逮捕されたというニュースです。

出典:聯合報『混得比徒弟差!柬埔寨 「蛇頭」狼狽回台 入境就被逮』(2023年1月17日)

まだトップは捕まっていませんが、幹部らの逮捕により少しずつ明らかになってきているそうです。報道(※)によれば、主に欧米人を騙す(恋愛詐欺、賭博詐欺、投資詐欺など)ためにまずカンボジアで詐欺集団を設立し、台湾からおよそ200名ほどを騙してカンボジアへ連れていき、仕事をさせていたということでした。マネーロンダリングを経て詐欺集団が手にした利益は100万元近く(日本円で500万円弱)とのこと。
(※出典:聯合報『混得比徒弟差!柬埔寨 「蛇頭」狼狽回台 入境就被逮』2023年1月17日)

詐欺集団はFacebookやインスタグラムなどで大量に勧誘投稿をしていたそうです。(写真が本当のものかどうかは不明)(※出典:聯合報『混得比徒弟差!柬埔寨 「蛇頭」狼狽回台 入境就被逮』2023年1月17日)

報道によれば、この幹部は台湾のニュースで詐欺がやりにくくなってきたこと(報酬を10万元:およそ50万円まで引き上げても引っ掛かってくる人がいなくなった)、カンボジアでの人身売買がやりにくくなって切羽詰まって台湾に戻ってきたところを、空港で台湾の警察に逮捕されたそうです。

この幹部は2021年にカンボジアに行った後、累計31名の台湾人をカンボジアへ騙し連れて行こうとし、5名は飛行機に乗る前に逃走。26名はカンボジアに到着後、恋愛詐欺や人材集めの仕事をさせられており、従わなかったり逃げようとすると、電気棒で罰せられていたといいます。台湾政府や友人らの救護によって11名はお金を払って台湾に連れ戻されましたが、今もカンボジアにいる15名のうち、3名は行方知れずとなっているそうです。
(※出典:聯合報『混得比徒弟差!柬埔寨 「蛇頭」狼狽回台 入境就被逮』2023年1月17日)

以上、ざっくりですが事件のあらましをお届けしました。

格差という社会構造が背景に?

記者会見で事情を話してくださった「皮皮(仮名)」という女性は家族がお金を出して台湾に戻ることができたようですが、実際に騙されて捕まった若者たちの多くは経済的な弱者だったり、身寄りがない人である可能性が高く、そうした人は台湾に対して助けを求めようにも相手が見つからない場合も想定できます。
ここからは勝手な個人の憶測になりますが、台湾の苦しい暮らしからどうにか逃げようとして騙された人もいるのではないかと思います。

この事件を通して私が個人的に気になっているのは、どこか心の中で「怪しいのかな」と思っていたとしても、結果的に付いて行ってしまう若者たちの心はどういう状態だったのかということ、そして彼らのために私には何ができるのか、ということです。

マレーシアと台湾から考えてみる

この事件が明るみになった頃、noteでもおなじみマレーシア在住の文筆家 “のもきょう”こと野本響子さんVoicyでこの件についてお話されていました。

そんなことがきっかけで、この事件について、そのほかもろもろについて、野本さんと今週金曜にライブ対談させていただきます。

1/20(金)日本時間11:00〜
野本さんのチャンネル『東南アジアから未来が見えるラジオ』で前半を、
私のチャンネル『近藤弥生子の、聴く《心跳台湾》』で後半を配信します。

☟ こちらは前半のリンクです。1/20(金)日本時間11:00にお越しください。

☟ こちらは後半のリンクです。日本時間11:30になったらこちらへ移動します。

ご都合合う方は、ぜひ遊びにいらしてください!

出典・参考リンクまとめ

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