香月日輪「下町不思議町物語」
香月日輪「下町不思議町物語」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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関西から転校した小学六年生の直之。病気のせいで体が小さくても、方言をからかわれても、母親がいなくて、厳しい祖母・清乃に辛くあたられても、挫けない。彼が元気なのは、路地の向こうの不思議な町で「師匠」とその怪しい仲間が温かく迎えてくれるから。でも、ある日、学校でのトラブルがもとで直之は家出。清乃と父・宏尚は「師匠」に捜索を頼みに行く。
とにかく読んでいて元気が出る。それくらい直之は逞しい。イジメも、両親の離婚も、身体が小さいことも、学習の遅れも気にはしているけれど、そんなものには負けはしない。これだけのアンラッキーがてんこ盛りだったら、誰しもペシャンコになってしまうだろうに、真っ直ぐ前に立ち向かってゆく。そんな健気な少年に迎え入れてくれた、霧の向こうの異世界の個性的な住人たち。彼らはいったい人間なのかお化けなのか。ふつうのファンタジーと違うのは、ここは子供の心であれば大人にも訪れることができるのだ。「修繕屋」と自称する「師匠」の計らいに、読んでただただ涙。心洗われる家族物語。