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松宮宏「万延元年ニンジャ茶漬け」

松宮宏「万延元年ニンジャ茶漬け」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓

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松宮宏は「ちょっといい話」が書ける、腕のいい小説家だ。気の利いた板前が、彼だけが知っているとっておきの材料を仕込んで、独創的な肴を鮮やかにサッと出す。そんな雰囲気だ。表題作と続く作品は、滑稽な漫談のようで、思わず吹き出してしまう。しかも歴史的事実を踏まえているから、奇譚にも説得力が出る。巻末作品は認知症という重いテーマに、未来への扉を開いた心と心の共鳴。文章に引用する詩や音楽にも、凛としたセンスが光る。

1️⃣ 万延元年ニンジャ茶漬け

万延元年(1860年)にアメリカを訪れた小栗上野介たち遣米使節団の一行。アメリカ🇺🇸の海軍将校・サムエルは、幕府御庭番・村垣淡路守たちが食べていたお茶漬けを、忍術の秘伝と勘違い。南北戦争後に、サムエルはとんでもない奇行に走る。文化と文化が出会うとき、幸せな勘違いが起こる。

2️⃣太秦の次郎吉

京都で捕まった泥棒の弁護士接見。落語の小噺のようなやりとりに、刑務所出所後のオチがある。思わずウフフと笑えるショートショート。

3️⃣鈴蘭台のミモザ館

京都の女子大を卒業して、神戸の会社に就職が決まった埼玉県民の渋野梓。親友の山岡さくらが住む、神戸電鉄沿線の高台・鈴蘭台に住処を探す。その道行きで誘い込まれた世界的ファッションデザイナー・白藤多津子の豪邸。梓は多津子から邸への寄宿を持ちかけられて仰天する。老いと若きの幸運かつ必然の出会い。

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