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ダメ男のダメダメデザイン学 ♯4(最終回) モブシーンの面白さの話

えと、これまで3回書いてきた「ダメダメデザイン学」ですが、今回が最終回になります。
どうせならこれまで書いたものをお読みいただいてから今回のエントリも読んでいただけると幸いです。



さてアタシは第2回目で、ディック・ブルーナの名前を挙げました。
すべて独学でデザインを学んだアタシの<お手本>と言えるひとりですが、後はバウハウスデザイン→亀倉雄策のライン、そして田名網敬一です。
ただし田名網敬一は少しラインが違う。というか田名網敬一はアーティスト寄りで、デザインとはね、やっぱり違うんです。
田名網敬一は横尾忠則と並び称されることが多いサイケデリックアートの大家だけど、私見では横尾忠則の方がよりアート寄りで田名網敬一はデザイン寄りです。
だから、ま、あえて<アート>という観点を抜いて<デザイン>として見れば相当面白いんです。

これまでの「ダメダメデザイン学」でアタシは「シンプルの強大さ」というようなことを中心に語ってきました。
もちろんシンプルなだけがすべてじゃない。ゴチャゴチャしているのにメッセージ性が失われておらず、全体が一体となってバンッ!と飛び込んでくる、これはこれできわめて難易度が高い。そして難易度をもろともせずにズバンと表現出来ているのが田名網敬一なのです。

第3回にてアタシは過去にパチンコ屋のチラシの作っていたという話をしました。
パチンコ屋ってのはイメージ通り、シンプルなデザインはクライアントからあんまり好まれない。というかはっきり言えばゴチャゴチャと隙間なく埋めてあるような派手なものの方が好まれる傾向にありました。
でも、ただゴチャゴチャさせただけじゃあ、グラフィックデザイナーとしての名が廃る。は大仰だけど、どうせやるなら「ゴチャゴチャしているのにメッセージ性もインパクトも損なわれていない」ものが作りたかった。

そこで田名網敬一を<お手本>にするってのを思いついたのですが、もうひとり、意外な名前かもしれませんが、あ、手塚治虫もいるな、と。
手塚治虫こそデザイナーでもなんでもない。もちろんアーティストでもない。言うまでもなく漫画家です。何しろ「漫画の神様」なんだから。
手塚治虫にかんしてアタシは超絶マニアではないけど普通に読んでる方で「ブラックジャック」なんか年イチで必ず読み返している。別に年イチで読み返そうと思って実行してるんじゃなくて、発作的に読みたくなって、よくよく考えるとそういやちょうど一年ぐらい前に読み返したな、と気づくって感じで。

手塚治虫は純粋ギャグ漫画はほとんど描いていません。でもほぼすべての作品がほのかなユーモアで覆われており、この辺りは「純粋喜劇は作らなかったが全編喜劇調の作品を数多く作った」黒澤明と共通しています。
だから手塚治虫の漫画って結構笑えるんです。いや笑えなくても、それこそオムカエデゴンスやヒョウタンツギなどの箸休め的な緩和させるコマが随所に入っていて、楽しい。

こういった、笑えるわけではないけど、何か楽しい、と言うのは手塚治虫は本当に上手くて、個人的に大好きなのがモブシーンです。
モブシーンを言葉で説明するのは難しすぎるので、とにかく↓の画像を見てください。

この楽しさは手塚治虫の専売特許で、真似した漫画もあるけど手塚治虫には遠く及ばない。
何よりすごいのは、これだけキャラクターがひしめき、漫画だから当たり前だけど吹き出しまで入っているのに「パッと見の一体感がある」のです。
つまりね、これはアタシから言わせれば「漫画のコマでありながらデザインとしても成立している」のですよ。

こうやって見ていけばわかるように、ゴチャゴチャしたデザインの肝は「パッと見の一体感」を保ちながら「細部を見ていく楽しさ」を両立させることなんです。
でもこれは本当に難しい。ゴチャゴチャはしてるけどただ隙間を埋めていっただけ、みたいなのが本当に多い。細部を見ていく楽しさもなければ、当然のようにパッと関係の一体感もない。

ここで結論めいたことを書きます。
もし、シンプルの長所が「力強さとカッコよさ」だとするならゴチャゴチャの長所は「面白さ」です。
正直、シンプルが地味でゴチャゴチャが派手ってことでもない。というかもし、シンプルなデザインが地味、ゴチャゴチャしたデザインが派手、とクライアントに思われたら、それはデザイナーとして負けです。
もしクライアントから派手さを求められたのならば、シンプルなのに派手なのを目指す。逆にシックなものを求められたらゴチャゴチャしているのに強いメッセージ性のあるものを目指す。
何よりゴチャゴチャでやるなら「面白さ」は絶対必須です。極端に言うならオリジナルギャグで隙間を埋める、くらいの気概が欲しいのです。

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これでダメダメデザイン学はおしまいです。
第一回目にも長々と書いたように、アタシはすべて独学でデザインを学びました。だから本当に、こんなものを書いてもいいのか、と思いながらやってきましたが、まァね、読んでくださる方がどうというよりは、自分の中での「グラフィックデザインのセオリー」が整頓出来たので、それはそれで良かった。
もちろん、他にもセオリーはいっぱいあるんだけど、もうそれはいいや。
そんなわけで、じゃあの!