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薮中塾7月勉強会報告

皆さんこんにちは!薮中塾7月勉強会担当です!

今回は7月18日に実施しました7月勉強会について報告します。
4度目となる勉強会も、あいにくオンラインでの実施となりました。8月の合宿ではどうにかみんなに会って議論を交わしたいです!

とはいえ、今回のオンライン勉強会でも熱く活発な議論が繰り広げられました。テーマは「日本の教育政策」です。

その様子をダイジェスト版でお届けします!

〈目次〉
勉強会の準備 
・テーマ設定
・コンテンツの工夫
・各部に込められたねらい
勉強会当日
・第1部 
・第2部&第3部 
勉強会を通じて得た学び

勉強会の準備

●テーマ設定 

日本の教育は現在、転換期と言われています。
近年、日本では新しい教育政策が目まぐるしく打ち出されています。新しい学力観の定義や新自由主義的教育改革、ICT教育・プログラミング教育やグローバル教育、知識基盤社会における国際的競争対策など枚挙に暇がありません。そして新たにSociety5.0・第4次産業革命に対応する教育方針が提示されました。

一方で、これまでの日本の教育で蓄積された問題も多く残っています。教育格差や世界一多忙な教師、マイノリティと教育の問題、公教育費の少なさ、学ぶ意欲の低下、特別ニーズ教育の整備など、こちらも多岐に渡り課題は山積しています。

そして、教育政策の課題はコロナ禍でも顕著になりました。例えば、9月入学の是非が問われたり、オンライン教育の遅れ、学力格差の拡大などです。

このように、時代や社会情勢が変化する中で教育についての話題は事欠きません。それは社会を構成する全員が、教育に対して当事者であるからです。

しかし、それこそが教育のあり方について建設的な議論を交わす際の障壁になっています。つまり、誰もが教育について知っているが、誰もが自分にとっての教育しか知らない、ということです。どの国や地域に生まれるか、そしてどの学校に通いどの先生のもと学ぶかで、受ける教育は大なり小なり異なります。また、子どもたちのバックグラウンドは千差万別で、同じ教育を受けても立場の違いにより、受け取り方や効果は異なります。

また、教育は非常に理念的な営みです。「〜するべき」「〜であるべき」というような理念・イデオロギーが無自覚に含まれていることも多く、教育のあり方について論理的で事実に基づいた議論というよりは、個人的な想いや無自覚に正当化している意識によって語られている場面も多く見受けられます。

そこで、7月勉強会では、勉強会に参加するにあたって持つべきべき視点を以下のように設定しました。

そして、①日本の教育の特徴を活かし、②現状の問題を解決し、③持続可能で豊かな社会を作るという問題意識を掲げ、それに合わせて勉強会の目標を以下のように設定しました。

●コンテンツの工夫

また、内容だけではなく各コンテンツの形にも工夫を凝らしました。7月勉強会担当で話し合い、これまでの勉強会における課題は

①塾生が発言し議論する時間が足りない
②未来志向的なアウトプットの機会が足りない
③アウトプットに対してのフィードバックが足りない

の3点にあると考え、それらを解決する手段を採用することにしました。
具体的には、①に対して、これまで勉強会当日に行っていたレクチャーを動画にして共有することで時間短縮と事前知識の共有の深化を図り、②と③に関しては、第2部・第3部で行う立案コンテストを開催することで解決を図りました。教育現場でご活躍されている方や政策に長年携わっておられた薮中先生(今更言うまでもないですが!)からフィードバックを頂くことで、これまで以上にない効果的な学びになるようにデザインしました。

●各部に込められたねらい

7月勉強会のラインナップは上の通りです。ここからは、各部に込められたねらいについてご説明いたします。

〈第1部  課題設定の背景〉
2020年から、大学入学試験(いわゆるセンター試験)が「共通テスト」と名を変え、子どもたちに問われる学力や試験の形態の改革をしようとしています。こうした議論が起こっているのは、社会情勢によって変化する目指すべき国家像に合わせて、入試制度も変えなければならないという政府・文科省の考えからです。

このように入試制度というのは、その国の教育理念・カリキュラム・大学のあり方・労働市場との関わりなどを体現している、社会や教育の「鏡」であると言えます。まさに日本は入試改革を機に、これからの社会変動へ備えようとしています。

第1部ではそうした背景から、日本のこれからの入試制度について、北欧型とアジア型の入試制度の比較を通して議論してもらいました。とはいえ、入試制度や教育システムは、北欧諸国やアジア諸国の中でも細かな違いがあり、また現在変化しつつある国も多くあります。そうした点も踏まえ、様々な文献を調べ、北欧型入試制度とアジア型入試制度を以下のように簡潔に定義しました。

一見すると世界のトレンドとしても北欧型が優勢に思えます(事前アンケートでも北欧型が優勢でした)。しかし、これまで日本がアジア型の入試制度を採用していたのには相応にメリットがあったはずです。また、北欧型の教育を日本社会に当てはめた時に生じる問題もあるでしょう。これまでのアジア型のメリット・デメリット、グローバルスタンダードになりつつある北欧型のメリット・デメリットを総合的に理解した上でディベートをするように注意喚起を行いました。

以上、第1部ではディベートを通して、今回は塾生に

といった点を意識して、知識や議論の力を身につけてもらうことを計画しました。

〈第二部・第三部 課題設定の背景〉
教育界では、職業にとって教育は有用であるという考え(機能主義)のもと、教育への投資により個人のスキルが高まり、賃金上昇が期待でき、社会全体の生産性も上がる、という主張(人的資本論)が用いられてきました(戦後の第二次産業中心の社会に対する画一的な詰め込み型教育のように)。

しかし戦後では、経済の停滞や国際競争力が低下し、また技術革新により産業の構造が一変するなかで、新しい資質・能力を教育によって身につけさせようという動きが活発になっており、例えば政府は2019年の教育再生実行会議にてSociety5.0や第4次産業革命への社会変動を前提として、これからの時代に共通して求められる力や新たな社会を牽引する人材を再定義しました。このように、経済・産業との繋がりは教育界にとって一大テーマとなっています。

一方で、教育は個人を選抜し社会に対して序列的に配分する中で、家庭環境の影響が決定的になっており不平等だ、という主張も根強く存在しています。この立場ではむしろ、教育が既存の階層構造を補強・正当化する装置となっており、そこには家庭環境(経済資本・文化資本・社会関係資本)が学歴を決定し、学歴がその子の将来の家庭環境を決定するという、階層の世代間連鎖が存在しているとされています。

実際に2000年代になると学力差の拡大が明らかになり、「全国学力・学習状況調査」が実施されてからは、学力格差という問題が学校現場や世論に共有されました。2015年の厚生労働省の調査でも「7人に1人の子ども」が貧困状態にあると明らかになっています。社会保障をテーマとした6月勉強会でも学んだ通り、日本社会はすでに学歴や雇用形態、業界・業種、家庭間、都鄙による格差で分断が起こっており、これらの解消が求められています。

にもかかわらず、行政はこれまで家庭的背景と学力の関連についての実態把握を行って来ず、学力格差を是正するためのデータを根拠とした方策を提示することが困難であったのが日本の現状です。

そこで、今あげた「人材育成」「格差是正」の両方が、日本社会の喫緊の課題であると考え、「2030年までに人材育成と格差是正にともにアプローチができる教育政策/事業を立案せよ」という課題を設定しました。

急変化する国際競争社会においては、卓越人材の活躍が必要だという意見や、社会で求められる能力に沿って子どもたちに競争を促すことは合理的であるという意見も一理あるように思えます。しかし一方で、それは特定の層への集中的投資であり、格差構造を維持・拡大するのではないか。また、人口減少の中で、格差によって十分な生活を送れない人々を作ることは、かえって人材のロスとなるのではないかという考え方もあるでしょう。

この両者の関係は本当にトレードオフなのか、それともシナジー(相乗効果)を作り出し、同時解決をなす教育モデル・社会モデルを構築することができるのか。そうした議論を活発に行ってもらうことをねらいとしました。

また、「問題の構造は何か」「ステークホルダーは誰なのか」「アプローチすべき対象は誰で、どのようなセクターが主体となるべきか」そして「教育という領域が社会にどこまで関わっていくのか」といった高度な問いについても、塾生に議論してもらおうと考えました。

以上の理由から、第2・3部では、立案コンテストを通して

といった点を意識してもらうことをねらいとしました。

勉強会当日

●第一部 

「大学入試制度について今後日本が参考にすべきは北欧型かアジア型かどちらか」というテーマでディベートしました。当日の議論では、大学入試制度に付随して各国の制度やカリキュラムを比較しながらディベートを行っている場面が多く見られました。北欧型は入試がない国もあることや、それぞれの代表国も中立的な教育方針へと向かっている現状があるなどで、明らかな二項対立にはならずやりにくい部分もありましたが、皆さん論理的にディベートを進めてくださいました。

事前調査では北欧型が優勢でしたが、実際の議論ではそれぞれそのような主張が出たのでしょうか。ディベートで出た主な主張は以下の通りです。

北欧型
・イノベーション主導の経済に対応
・個人の可能性を最大に活かすことができる
・教育の格差が生まれない(そもそも競争がないため)
アジア型
・画一的であることで、公正・公平を担保できる
・競争によって国際的な競争力が維持できる
・日本人の特性に合っている

それぞれの主張に、実際の政策の例やデータなどを併せ、論理的な議論がしっかりと交わされていた印象です。みなさん、4回目の勉強会とあってディベートでのspeak out with logic には慣れてきたようですね!

また、以下は事後課題で提出された塾生の意見です。

**北欧型 **
<理由> 時代の流れ(少子高齢化、経済の成熟、AIの発展等)として日本は人材資本に力を入れる必要がある。これまでの画一的な基準で教育ではなく、個性を尊重した教育でイノベーションやグローバル化社会でも通用する人材になる。 そのためには入試制度がほぼ存在せず、個人に合った教育を提供している北欧型を参考にすべき。ただし、現状北欧型教育を日本に取り入れるには様々な課題が生じている。 そこで2部3部の立案でも行ったような官民合同の政策を進めていくべき。
アジア型
<理由> 評価基準が明確に定まっており入試に客観性が担保されるため。北欧型の入試制度は数字で測りにくい部分を評価するため、不平等性が生じる場合が考えられる。また、日本ではすでにAO入試等で北欧型の入試制度に似通ったものは実施されてなおり、これ以上にその入試を進めるメリットはない。

●第二部&第三部

当日の立案コンテスト開催にあたり、外部の審査員の方々にご協力いただきました。こちらで審査員としてご協力いただいた4名を簡単にご紹介いたします。

・私立高校の教員でビジネス部顧問の清水敬介さん
・普段は企業内人事として働かれ、個人としてキャリア教育コーディネーターとしてご活動されている伊藤遥さん
・大崎海星高校魅力化推進コーディネーターや株式会社しまのみらい代表取締役などのご活動をされている取釜宏行さん 
・薮中塾一期生で公立高校教員の金谷優希子さん

に審査員としてご参加いただきました。

どの方も教育の現場の第一線でご活躍されており、そのような方々からフィードバックを頂けるとあって、事前準備ではこれまでになく積極的に取り組んでいる様子が見受けられました。

勉強会前に仮完成した立案に対して事前にフィードバックを頂き、当日の第2部ではそれを踏まえ立案を完成させました。そして第3部で発表を行い、薮中先生と審査員による投票とフィードバックを頂きました。

以下が各チームの立案とそれに対する審査員からのフィードバックです。
*紙幅の関係上、立案の一部のみ掲載しています。

チーム①「Let's Foster Interpersonal Skills!」(課題解決型学習)
(発表の全体はこちらをクリック!)

審査員から(一部抜粋)
・まだまだ問題設定が広大かつ曖昧で、そのあとの解決策もぼやけてしまっている印象。たくさんの情報の中から、本当に問題だと考えるものは何か、まとを絞って考えると良いと思います。
・中間提出分から大きく改善されており良かった。課外授業ということで、どれくらいの期間・時間をかけて行うのか、だれが主体となるのかが難しく、持続性や公益性の担保が少し懸念点としてあげられるかなと感じました。

チーム②「官民合体型 しごとLabo.」(キャリア教育事業)(発表の全体はこちらをクリック!)

審査員から(一部抜粋)
・問題の把握、設定と引用する情報が正しく適切でとてもわかりやすい。あとは持続性がポイント。学校内で、しかも授業外で実施していくとなると、本人の「やりたい」という意思や家庭環境が大きく影響します。こどもの自発性を促す仕組み、授業外活動に対するリスク対策も併せて提示できるとよいですね。
・独創性もあり個人的には実行してみたいと感じました。ただ、できる学校は限られていると思います。現在も有志に限れば高校生ビジコンがありますので、なるべく多くの高校生が取り組める政策・事業を考えられるとより良いですね。
・現場の人間からすると、以下の点に実行の難しさを感じました。「生徒たちはその活動にそこまでコミットできるのか?(スポーツ大好きな人たちもいるよね)」「先生たちはコミットするのか?」

チーム③「エデュラバ」(探究学習・生涯学習のサポート事業)(発表の全体はこちらをクリック!)

審査員から(一部抜粋)
・問題への対策も筋は通っていますが、最初の問題設定にもう少し根拠が欲しい(読解力をつければ本当に人材育成につながるのか?ほかはいいのか?)。
・事業からはじめて政策に移行していこうという発想はとても納得のいくところ。一方で、なぜ読解力に注目したのかが分かりませんでした。課題設定により強い理由や思いがあることが事業継続の鍵と思います。
・伝えたいメッセージが伝わらず、聞き手が頭を悩ませ予想を立てながら理解するというプレゼンでした。スライドで伝えたいメッセージをワンフレーズで伝えることや、全体像を整理していただけると分かりやすい発表になったかと思います。

チーム④「Let's リアル人生ゲーム!自分の可能性を知ってみよう!」(キャリア教育事業)(発表の全体はこちらをクリック!)

審査員から(一部抜粋)
・問題設定とキャリア教育の必要性に対する説明はよくできていた。動画だけでどこまでキャリア教育につなげられるのか?実際の授業とのつながりを持たせてストーリーとして落とし込めるか?先生をどう動機づけるか?が鍵になりそうです。
・地域間格差をなくすキャリア教育を行おうという着眼点は良いと思います。時間がなく詳細まで詰めきれなかったと思いますが、そこを最大限生かせる事業にブラッシュアップできていれば、もっと魅力的で実行可能な内容になったと思います。
・競合のサービスなどを調べ、具体的なイメージを持ちつつ、そことどう違うのかを明確にしていただけると伝わりやすかったと思います。

以上が実際に行われた立案コンテストの様子です!そしてコンテストの優勝チームも決定されました。

優勝は・・・・・・・・・・・・・・チーム②です!問題の把握や課題設定の適切さ、そして立案の独創性が評価されたようです!ちなみにこのチームは塾生同士の投票でも一位でした!文句なしの優勝ですね!

ただ、プレゼンやスライド作成の仕方についての根本的なご指摘が相次ぎ、自らの考えをいかに簡潔にアウトプットするかといった新たな課題も見えました。そして、本当に現場の課題や格差の構造を捉えているのか、といった厳しい意見もあり、リサーチにも課題が残ったように思います。

勉強会を通じて得た学び

勉強会後、参加した塾生から寄せられたコメントです。勉強会担当のねらい以上の学びがあったようです!

人材育成と格差是正について考えるとき、自由と平等どちらに偏重しているのかに自覚的であるかが教育に関して建設的な議論をするために大事だと学んだ。
理想の教育については、北欧型やアジア型のメリットを融合させる等すれば考えることはできる。しかし今回、教育関係の審査員の方のお話を聞き、現場には様々な課題が存在していると感じた。教育制度や、教職員育成・労働環境等は個人の力ではどうしても変えられない場面が出てくる。ここが教育の最も深刻なところであると感じた。 一方で調べてみるとsociety5.0やAO入試の増加等、少しずつはあるが良い方向へ変化が起きているところもあると感じた。
今回の政策案(事業案)を見ている中で「子供のために何かを与える」というものは多かったが、①子供のニーズを無視していないか②子供への与え方を変えるべきではないかというのが僕自身の考えであり、③第1部からの延長でもっと社会構造を転換するようなプロジェクトを生み出したかった。薮中先生からはリベラル・アーツ的な教育が大事というご講評をいただき、内容については完全に同意ですが、ただ、それを如何にして与えるのかが難しい。
「日本の教育は転換点にある」「北欧の教育は素晴らしい」というワードはしばしば耳にしてきたが、イメージで終わらせていたので、具体的にデータを調べてマクロ視点で教育を見つめることができてよかった。特に北欧の教育政策がしばしば評価されるが、実際に日本に取り入れることを考える時、抜本的な構造の改革の実現可能性や予算的な壁といった現実的な障壁がしっかり見えたことは大きかった。

教育は常に揺れ動いており、明確な定義が難しくやりにくいテーマではありましたが、みなさまのご協力のおかげで無事、勉強会を終わることができました。私たちも準備していく中で、現在の日本の教育の問題点を更に詳しく学ぶことができたかなと思います。事前課題と事後課題の皆さんのコメントが大きく変化していたのが印象的でした。これからも当事者として学び続けてくださると嬉しいです。以下、7月勉強会に対しての嬉しい感想です!

OBさんや外部から、教育現場で働かれている方のお話を聞くことができて、徹底的に現場の声を取り入れようとしてくれたのだな、と感じました。身近なテーマに関して、これまでとは違う見方で議論をする貴重な機会となりました!
勉強会担当のみなさん、お疲れ様でした!☺︎ 今回、レクチャーを動画で共有したり、立案コンテストを実施したり、審査員をお呼びしたりと新しい勉強会の形が見えてとても新鮮でした! この勉強会をきっかけに6期の勉強会が枠にとらわれない活発なものになること間違いなしです!

また、審査員のみなさまに対しては、至らない点もたくさんありご迷惑をおかけしましたが、おかげ様で新たな課題を見つけることができ、刺激的で充実した勉強会になりました。塾生一同心から感謝いたします。

以上、薮中塾7月勉強会の報告でした!
8月は「性産業」に関する勉強会です。お楽しみに!
                              7月勉強会担当

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