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薮中塾10月勉強会報告

こんにちは。薮中塾10月勉強会担当の長谷川です。こちらの記事では、後期初の勉強会、10月17日に行われた10月勉強会の開催報告をします。

Summary:「日本のエネルギー問題」をテーマに勉強会を行いました。日本はエネルギー問題どうすべき?みんな原発のこと本当はどう思っているの?第一部と二部では分野ごとのディベートトーナメント、第三部では全体討論を通じ、The薮中塾という活発な議論が繰り広げられました。

1. 勉強会準備


●テーマと目標決定
 テーマはサクッと「エネルギー問題」に決定。

 後期(10月~1月)勉強会はピッチ大会の結果、各月の勉強会メンバーが集められています。10月勉強会担当として召集されたメンバーは、エネルギーミックス、核兵器、環境問題、ガバナンスに関心がありました。これらの触媒になり、かつ、日本の喫緊の課題だと感じられたのがエネルギー問題でした。

 テーマに加えて、勉強会最終目標は二つありました。まず、塾生全員がSpeak out with logic できるようになること。そして、エネルギー問題に対してYes/Noのかたちで(ある程度)明確な意見を塾生に持ってもらうことでした。

 原発や再エネの話はイデオロギー対立になりやすいため話しにくい。異なる立場の相手が言っていることも理解できるため、自分の立場に自信を持つことも難しい。結局どっちつかずの状態に。さらに混乱させてくる刻々と変化する技術と国際社会の流れ。その中で、自分自身の意見を持つことは、実りある議論を始める第一歩ではないでしょうか。

●コンテンツ決定紆余曲折
 当初は「エネルギーミックスを考える」をテーマに、グローバル・シミュレーション・ゲーミング(GSG)をしようとしていました(GSGに関心がある方は検索してみてください、とても面白いです)。
 
 ですが、ミーティングを進めて行くなかで

前期活動振り返り会を通じて感じた塾生の議論への渇望、これまでの勉強会での塾生や塾長のFB、グローバル人材ってまずは日本のことちゃんと知ってないといけないよね、今の自分たちにはGSGとエネルギーミックスで目標達成可能なコンテンツを作れず抽象的な議論で終わりそう…。

 という考えに至った我々。方向転換し、違う方法を模索することになりました。

●コンテンツ最終決定へ

無題

(↑議事録一部抜粋:貨物列車みたいにディスカッション?)

 練り直しの結果、原点に返りディべート中心にコンテンツをブラッシュアップしていくことになりました。 

 どのトピックでも言えますが、エネルギー問題もいろんな視点から議論できます。(例えば、5月勉強会「緊迫化する中東情勢と日本」は中東への石油依存という視点から日本のエネルギー問題について触れました。)

 どの分野の視点から話しているのかを明確にすると(無意識にも起こりうる)論点のすり替えを防げる、それぞれが価値を置いている分野がわかる、分野間のprioritizationを議論できるのではと考え、今回は分野ごとにディベートをすることに決定。ディベートでは見えてこない個人の意見もみんなで話したいので、全体討論を加えました。

 具体的にどんなコンテンツになったか、当日の勉強会の様子とともに下記でお届けします。

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(勉強会当日のタイムライン)


2. 第一部(トーナメントディベート第一戦)


 二人一組(オンラインは3人)で行ってもらいました。二人一組で、「日本は原子力発電を推進すべきか」について、「経済・財政」「環境」「技術発展」「エネルギー安全保障」それぞれの分野におけるリスクやポテンシャルを考慮しながら2対2でディベートを行いました。

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(↑トーナメント割とディベートルール)

 塾生には事前に下記のような参考資料を配布していました。

無題 財政

(↑経済・財政リスク事前資料一部)

無題 環境

(↑環境リスク事前資料一部)

無題 いのべ


(↑原子力と技術事前資料一部)

無題1


(↑エネルギー安全保障事前資料一部)

 事前課題としては、全チーム、賛成派・反対派それぞれの立論を3つ用意し提出していただいていました。その際には下記のような視点からの立論が出ていました。

経済・財政リスクの観点から
【原発推進肯定】
・発電コストが比較的安い
・現状ある設備、敷地で発電可能
・ベースロード電源としての必要性
【原発推進否定】
・社会的費用の計算によっては発電コストは安くない。
・技術革新等による代替電力発電費用の低下。
・自然エネルギー建設のための土地は確保可能。
エネルギー安全保障の観点から
【原発推進肯定】
・自給率の低さ、化石燃料への依存度の高さにより生ずるリスクを回避する。
・電力コストが低減できる。
・脱炭素の有力手段(再エネだけでは現状不可能)
【原発推進否定】
・ウランの輸入・使用リスク
・一度止まってしまうと再稼働に時間がかかる
・自然災害やテロなどによって、人々に甚大な被害をもたらす可能性
環境リスクの観点から
【原発推進肯定】
・発電時にCO2を排出しない
・森林伐採を伴わない
【原発推進否定】
・ウラン濃縮作業で多くの二酸化炭素を排出
・温排水・海洋汚染
・低炭素の競合技術と⽐べたコストや建設にかかる時間
技術発展の観点から
【原発推進肯定】
・原子燃料サイクルよるウラン再利用によって、エネルギー安定供給が可能。
・軽水炉開発によるリスク軽減。
・新基準による安全性の確保。
【原発推進否定】
・地下処理の安全性への疑問。
・周辺地域の健康被害が挙げられており、技術発展では安全性が担保できていない。
・核兵器転用を阻止する技術が現在存在していない。

 これら論点整理を下地に、当日は賛成と反対に分かれディベートをしていただきました。多様な切り口と具体的な数値を示しながら、肯定と否定の主張が繰り広げられていました。事前資料だけでなく、各自深く掘り下げリサーチされていました。

3. 第二部(トーナメントディベート第二戦)

 昨日の敵は今日の味方。第二部のディベートでは第一部でのディベート相手とチームになり、新たな分野を付け加えて、新たな対戦相手とディベートをしました。

 下記の分野に分かれ、それぞれ自分が参加しない分野のディベートを評価してもらいました。

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 環境と経済技術と安全保障をかけ合わせ、第一部より精緻な議論になるように立論を組み立てていきました。後期になると、皆さんspeak out with logicが板についてきて、建設的な議論をされているのが印象的でした。

 第二部では、ディベート評価も塾生が行ったため、各グループ客観的な評価を得られました。また、評価する側も聞き手としてディベートを俯瞰的に学べたと思います。
 

4. 第三部(全体討論)

 全体討論では「日本は原子力発電を推進すべきか」というテーマで塾生の意見をぶつけ合いました。一人一回はSpeak out with logicしてほしい+ディベートで割り与えられた立場ではなく本音を語り合いたいという目的でこのセッションを設けました。

 第三部で出た意見を下記で一部ご紹介します(一部省略・要約しています)。

 調べるまでは原発危険とか割に合わないと思ったが、環境保全を考えたら必要だと思った。滋賀県の大飯に住んでくださいと言われたらいやだけどマクロ的には、原発は安いかついきなり再エネは不可能。再エネでまかなえるような技術ができるまでには、現実的に今の原発を進めるほかない。反対の一面を持っているが、経済的に考えて合理的に判断すべき。感情論になってはいけない。
 エモーショナルな部分に寄りすぎている。福島に限ると人的被害の影響は科学的には出ていない。感情論になりすぎていると考えている。原発以外、火力とか石炭石油による死亡リスクは原発に比べて高いというのも出ている。1ワット当たり死亡リスクは天然ガスとかの方が高い。
 原発は制度の失敗だといわれている。電源三法の交付金が地域に降りているが、地元民が依存してしまう。地域の経済循環にもあまりよくない。原発誘致のための権力関係のような形で地元の力が弱くなる。
 浜松原発というほぼ起こる問題について考えてほしい。リスクを過大評価しているっと言い切っていいのか。六ヶ所村の再利用処理について、やってることは核開発と同じような過程を踏む。中国は日本は技術的には数千発の核弾道を保有しているのと同じだといっている。世界での非核化の主張と六ヶ所原発の統合性がない。
 なんでも経済で判断していいのかという話、安い方がいいという判断をするということだが、これでいいのか。原発に関しても安全性に関して電気料金に含まれている。暗黙の選択をしている。また、再エネに対して投資してもらえるようになる必要がある。僕たちの子ども孫そのあとの安全性を守れるのか、その選択を暗黙にするのではなく私たち自身がすべきだ。
 原発維持派です。新設はもちろん厳しい。日本は国民のエネルギーを賄えない。資源の少ない国という点から維持すべき。一概に原発を廃止すべきとは言い難いなと再確認した。クリーンコールテクノロジーとかもある。火力発電で大気汚染懸念されてるが、パリ協定など、国際社会から非難されないというか、協調していける技術にお金が回っていくといいなとおもっている。

 また、当日は個人の経験に基づいた話も多く出ました。Speak out with logicも重要ですが、logicって別に定量的でないといけないわけでもないし、logicではない何かが相手を説得したり、歴史を変えることってありますよね。そういった一瞬もあった全体討論でした。


5. 勉強会を通じて


●塾生の声
 勉強会を経て、日本が原発を推進すべきか否かを塾生に改めて聞いたところ下記のような声が寄せられました。このほかにも、勉強会に参加してみて、意見が変わったという声もありました。

 パリ協定の目標を達成するためには、火力発電の割合は減らさなければならない。短期間で再エネに完全代替するのは現実的に不可能であり、原子力に頼らざるを得ない。また、現在の日本は福島の原発事故から過剰な反原発に陥っていると思う。コストとベネフィットを客観的に示し、国民間で議論する必要がある。
 新エネによって20%前後の電力を安定的に供給する未来はまだ実現性が低く、今のところ原発を「推進」まではいかないものの徐々に「再稼働」していくことにより、エネルギーミックスを実現していくべきだと考える。
 脱原発と気候変動リスクとのトレードオフに関すること。私自身、脱原発と再エネへの投資に対して市民も負担をしていくことが未来への合理的な選択という発言をしたが、その結果として現時点での火力への依存を招くことにより地球温暖化がティッピングポイントを超えるリスクがあるということは確かにその通りだと感じた。

 議論を通じて印象に残ったこととして下記のような声がありました。

 エモーショナルな部分に偏りすぎていると言ったところ(2019年に経団連会長も言っていた)。エモーショナルというのは人が犠牲について抗議したりするところなのかなと思ったのですが、反対側の私からすれば、そこが一番大事であって人命よりも経済効果等を優先するのは納得できません。
 「原発のそばに引っ越したくはないけど」という言葉がとても強く印象に残りました。原発はやらないと仕方がないって言ってる人の中にも、そのように思っている人は多いと推測しているのですが、自分が近くに置いて欲しくないものを日本のためだから「仕方がない」というのはいささか無責任なのではないかと思います。

 勉強会後のアンケートでは、多くの塾生が原子力発電の安全上のリスクと環境問題改善の手段としてのポテンシャルに言及していました。両者、技術発展が重要な変数となりますが、今後日本が限られた財政資源をどのように投資するのか注視していきたいですね。

●勉強会担当の声
 勉強会担当にとっても日本のエネルギー問題を原子力発電を軸に考える良い機会になりました。

 企画面での改善点として、数字が違うといった掛け合いではなく、環境と経済どっちが大切なのかという議論にまで持っていけるようなディベート仕掛けづくりを考えたいと思いました。

 エネルギー問題にかかわる情勢は刻一刻と変化しています。勉強会の前日には、IEAのWorld Energy Outlook 2020レポート発行されましたし、先日は日本政府が2050年温室ガス実質ゼロの目標を発表しました。

 新しい情報を的確に追いつつ、塾生の皆さんが10月勉強会で得た知識や視点をこれからのエネルギー問題を見る際に生かしてもらえれば幸いです。

 以上、10月勉強会報告でした。拙文ながら皆様のお役に立てましたら幸いです。次回11月は領土問題について取り上げるようです。楽しみですね。

10月勉強会担当:長谷川

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