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薮中塾5月勉強会報告


皆さんこんにちは。薮中塾5月勉強会担当です。

今回は5月16日に開催された薮中塾5月勉強会の報告をします。
3月から6期生の活動が始まり、4月に続き2度目の勉強会。

テーマは「緊迫化する中東情勢と日本」です。

あいにくオンライン上の開催となりましたが、学びの多い勉強会になりました。
その様子をダイジェスト版でお届けします!

勉強会準備

薮中塾の勉強会は2、3か月前から準備を始めます。
3月に6期生の活動が始まったので、5月勉強会の準備を始めたのは3月末。

決して十分な時間があるとは言えない状況で、「中東」という大きなテーマを扱うことになりました。

今回「緊迫化する中東情勢と日本」というテーマに至った経緯には、以下の2点の思いがありました。

・今年の1月に起きたソレイマニ司令官の事件をきっかけにして現在の中東情勢を理解してほしい
・中東問題ついて自分の考えを持ち、日本が中東に対してあるべき姿を考えてほしい

しかし大枠のテーマを設定したものの、「中東」のどの部分を勉強会で取り上げるのか、ディベートのテーマを考えるにしても水掛け論にならないのか、何度も話し合いを重ねました。

緊急事態宣言が発令され、図書館や本屋さんに行けない状況で、リサーチを分担しネットを使ってどうにか文献を集めました。

また、オンラインでの開催でも対応できる勉強会の構成を考えました。

例えば全体ディスカッションが難しいため、少人数のグループ編成にしたり、オンラインでディベートをする際の注意点を洗い出したり、通信状況が良くないときの連絡方法を考えたりしました。

振り返ってみると約2ヶ月の間で2、3時間に及ぶミーティングを13回開催していました。

このように勉強会担当で話し合いを重ねて5月勉強会の背景と目標、概要が決まりました。

背景:トランプ大統領のイラン核合意離脱、イランに対する経済制裁、イラン革命防衛隊の幹部殺害→米国とイランの関係悪化
目標:
①様々な民族、宗教、地域勢力が絡み合い複雑化する中東情勢を理解し、自らの考えを発信すること 
②中東情勢に日本がどう対応していくべきかを考えること
概要:勉強会は3部構成、第1部では中東の知識をレクチャー、第2部では日本がイランに対してとるべき姿についてディベート、第3部では中東に対して関心のあるテーマについてグループディスカッション

(↓5月勉強会の背景と目標を塾生に伝える際に使用したスライド)

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(↓5月勉強会の概要を塾生に伝える際に使用したスライド)

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第1部 レクチャー

まず勉強会担当が「なぜソレイマニ司令官は殺害されたのか」という切り口から、イランと密接な関係を持つ米国、サウジアラビア、イスラエルについての説明をしました。

(↓ソレイマニ司令官の事件が起きた理由を投げかける際に使用したスライド)

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(↓イランと密接な関係を持つ3国を説明する際に使用したスライド)

1部2部3部統合版

次に、そもそもイランとはどういう国なのか、宗教や歴史の視点から説明しました。米国との関係が悪化したきっかけはイスラーム革命、アメリカ大使館占領事件だと言われています。

(↓イランの文化や歴史を説明する際に使用したスライド)

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最後に、日本とイランの外交関係について、歴史的背景を踏まえながら説明しました。実際、日本とイランは日昇丸事件や幾度もの会談を経て、友好な関係を築いています。

(↓日本とイランの友好関係を説明した際に使用したスライド)

61部2部3部統合版(最新)

日ごろから勉強熱心な薮中塾生であっても、中東に関しては知らないことも多く、オンラインのチャット欄でコメントを交えながら熱心に話を聞いていました。

これらの前提知識を活かして第2部のディベートに臨みます。

第2部 ディベート

肯定派3人、否定派3人のグループに分かれ、「日本はイランに二次制裁を科す米国と同調せず、貿易を含む対イラン政策を促進すべきか否か」というテーマでディベートを行いました。

塾生には事前課題として、肯定派、否定派としての主張と予想される反論を各チームでまとめて提出してもらいました。

中にはミーティングを重ねて作戦会議を練ったチームや、主張が十分なものかどうかが一目で確認できるスプレッドシートを作成するチームもいました。

提出してもらった主張シートを見てみると、同じ肯定派、否定派でも様々な主張が出されていて、各グループごとに個性がありました。

ここからはディベートで実際に塾生から出た意見を少しだけご紹介します。

以下が肯定派チームから出た主張です。

・日本はイランに人道的な支援を行うべき
・日本はサウジアラビアに石油輸入を依存しているため、リスクヘッジのためにイランとの取引が必要である
・日本はイラン、米国ともに友好な関係を築いているからこそ中東情勢の緊張化、戦争勃発を防ぐ立場に回るべき
・イラン経済を安定させることでイランの核開発再開を防ぐことができ、核不拡散につながる

(↓肯定派Bチームの主張シート)

事前課題_B肯定%20(1)

以下が否定派チームから出た主張です。

・他の中東諸国との関係を悪化させてしまう
・米国から経済制裁を受けて、日本経済が打撃を受ける可能性がある
・そもそもイランの弾丸ミサイル開発やウラン濃縮はJCPOAに違反しているから経済制裁は妥当である
・日本の石油輸入を通して資金がイランに流れることは、イランの核開発あるいはテロ組織への支援につながりかねない

(↓否定派Bチームの主張シート)

事前課題_B否定%20(1)

勉強会担当が当初想定していたよりも多様な切り口から、肯定と否定の主張が繰り広げられました。

ディべートの後は各チームで振り返りの時間を設け、どの主張に対する反論だったのかを明確にしてから反論することや、それぞれの主張がデータに基づくものだったのかと反省点を洗い出しました。

4月勉強会のディベートと比較して、ロジックに基づく議論が行われていたことから、塾生の入念な準備がうかがえました。

第3部 ディスカッション

事前に関心のあるテーマごとに塾生を4つのグループに分けて、テーマに関するリサーチをしてきてもらいました。

そして、リサーチしてきたことを勉強会担当が作成したシートに記入してもらい、最後に全体発表を行いました。

勉強会担当が作成した発表用シートには以下の2種類があり、各テーマに適した方を選んで記入していってもらいました。

・中東の将来についてどのように予見するのか
・今日の中東はどのような問題を抱えているのか

各グループ、全く違った切り口から発表を行ったので、それぞれ簡単にご紹介します。

(↓グループ1のワークシート)

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グループ1では「インターネットの発達によりイスラム教徒が今後どのように変化しうるのか」について議論が行われました。

まず、グループ1の中東の将来予測は以下の通り。

・情報発信の自由化が来るハーンの字義的な解釈を可能にし、テロの過激化につながる可能性がある
・非ムスリム国家でのムスリムの考え方について理解する人が増えてくる可能性がある
・イスラム権威主義国家のパワーが弱まり、民主化が進む可能性がある
・イスラーム法と国家法規の融和が起きていく可能性がある

なぜこのように予測したのかは以下の通り。

・インターネットの普及率の向上や情報規制の困難さにより、個人が自由に情報を取得し、発信できるようになったから
・イスラム教典の解釈が国家から個人にパラダイムシフトしていくと考えたから

それは業界・日本政治にどのように影響するかは以下の通り。

・テロが発生しているような国歌からの移民への怖いという先入観がなくなる
・日本の経済・政治システムにもムスリムの存在が組み込まれていく

他チームからのフィードバックとして「テーマ設定が斬新」という声がよくあがりました。歴史のある宗教と、現代のテクノロジーの融合という視点から中東の将来を予測することは今後ますます重要な視点になりそうですね。

また、イスラームに対する偏見がインターネットによって真実が伝えられ、なくなっていくことにも期待できるかもしれません。

(↓グループ2のワークシート)

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グループ2では「サウジアラビアが行う人権侵害・戦争の問題とその解決策」について議論が行われました。

まず、グループ2が考える中東の問題は以下の通り。

・イエメンにおける空爆で人道危機が起こっている
・人権活動家:カショギ記者殺害に代表される言論弾圧・女性の権利活動家の迫害(自由民主主義の否定)
・女性の権利迫害解決のためにどのような手段が想定されるか

なぜそれが問題なのかは以下の通り。

・民間人・子供にまで被害が及んでいるから
米国は、サウジアラビアが沢山の武器を購入してくれているため黙認
よって中東情勢が悪化し、水不足、食料不足、子供兵士など一層の人道危機が起こる(直接の空爆よりも二次災害で人が死ぬ)

解決のためにどのような手段が想定されるかは以下の通り。

短期的:人道支援、インフラ整備
中長期:移民として受け入れる
※TICADなど国際的な場で呼びかける、日本が第三国定住などで受け入れる
長期的:日本がリーダーシップをとれるように、エネルギー分散・新エネルギー分野に投資してエネルギー利権に巻き込まれないようにする

他チームからのフィードバックでは「時系列の枠組みを使って解決策を漏れなく分析できていた」と称賛の声が多くありました。

その一方で、長期的な解決策にある日本のリーダーシップに関して、「中東諸国との関係悪化のリスクを負ってまで日本が介入する必要があるのか」といった声もありました。日本外交のあるべき姿について考えさせられます。

(↓グループ3のワークシート)

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グループ3では「中東の地政学的な情勢やエネルギー産業の行く末を鑑みて、他の海外諸国と比較しながら、これからの日本のエネルギー政策はどうあるべきか」について議論が行われました。

まず、グループ3の中東の将来予測は以下の通り。

・発展途上国は引き続き石油を用いる。全世界的にも30年後の石油依存度は高いと予測される。
・中東諸国はエネルギー産業への経済依存 (例)サウジアラビア/イラン/UAEから、原油産業に代わる産業を作ろうとする。
・欧州が化石燃料から再生可能エネルギーに移行する政策を打ち出していく。

なぜこのように予測したのかは以下の通り。

・石油の埋蔵量であったり、化石燃料は有限であるから欧州は再生可能エネルギーに移行しようとしている。
・中東ではサウジアラビアやUAEなどエネルギー依存経済からの脱却が始まっている。
・先進国ではパリ協定が結ばれ、それに合わせた活動が行われてきている。

それは業界・日本政治にどのように影響するかは以下の通り。

・エネルギー貿易上のチョークポイント(ホルムズ海峡など)の問題を改善し、安定的な石油資源を行うことができるようにする。
・エネルギーを使ってもエコシステムを構築していけるように政策として投資をする。
・日本の技術を用いて石油以外の再生可能エネルギーを広めていく。
・自動車産業などエネルギーを使わない、またはエネルギー循環型社会の構築を目指す。

他グループからのフィードバックでは、「なぜ日本は石油を頼らなければならないのか」、「なぜ日本のエコシステムは十分に構築されていないのか」もっと深堀りしてほしいという声が多くありました。

SDGsへの取り組みや脱炭素社会を目指す取り組みが行われていることもあり、関心を持つ塾生がとても多く見られたテーマでした。

秋以降の勉強会で取り上げるのもいいですね。

(↓グループ4のワークシート)

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グループ4ではJCPOAに関する今後の予測について議論が行われました。

まず、グループ4の中東の将来予測は以下の通り。

・トランプ政権の任期中はアメリカイランはっ真っ向から対立。アメリカはJCPOAに何の意義も見出していない。
・短期的にアメリカを含めたJCPOAの復活は難しい。しかし、アメリカが他国への二次制裁を解除するなら、アメリカ抜きのJCPOAの締結の可能性はあり得る。
・JCPOAはトランプ政権によって大きく左右されるため、長期的にはJCPOAが再履行されることは十分あり得る。

なぜこのように予測したのかは以下の通り。

各国の思惑を考慮
・イラン:IAEAの枠組みの中で核開発を認めてほしい。
・アメリカ:イランの各開発に関しては興味なし。イスラエルとの関係、自国との経済貿易の利益重視。
・EU:JCPOA堅持。イランには最大限支援。
・ロシア:核合意を用いてEUや米国と協調。安全保障上イランの各開発は脅威。
・中国:中国にとって重要はイランの石を尊重したい(EU何してるの?)。
・サウジアラビア:イランの核開発経済拡大が一番の恐れ。

それは業界・日本政治にどのように影響するかは以下の通り。

・世界への影響イランと中国は政治上でも経済上でも関係を密にする。
・アメリカの世界での孤立化が進む。
・枠組み内の核開発であるならばロシアや周辺の中東地域にとっても他生の懸念は残るかもしれないがイランは自国の主張を通すことができ、現状の不安定な状態は解決される。
・日本への影響は特段ない?

他グループからのフィードバックには「各国の視点から核合意について考えられていたのは面白かった」という声がありました。    

その一方で「なぜアメリカが孤立化するのか」「なぜアメリカは核合意に興味がないのか」をエビデンスを含めて詳しく知りたいという声も多かったです。 これから大統領選を控えるアメリカの動きは見逃せませんね。     

各グループの発表は時間がないなかでも分析の着眼点がユニークで、塾生の今後のさらなる学習につながる内容でした。

発表後に塾生には各チームに対する質問や意見を出してもらい、それらを踏まえて後日振り返りミーティングを開催したグループもいました。

自主的に学びを深める姿勢が見られて勉強会担当も嬉しい限りです。

5月勉強会を通して得た学び

塾生の勉強会を通しての意見の変化や成長、どのように中東への見方や日本の振る舞いに対して意見が深まったのかをご紹介します。

勉強会後に事後課題として塾生には「勉強会を通して得た気づき」について述べてもらいました。以下塾生のコメントです。

  ・イランとの単独経済取引に反対し、日本の中立外交を堅持することを主張していた自分にとって、薮中先生からいただいた「"中立"って、ときとして何もしないことと同じになる」という意見は大変考えさせられるものでした。「中東」と言うと対立が泥沼化していて、日本が関わるのは腫れ物に触るような印象があったのですが、議論や皆さんの興味・関心を知る中で中東の深い魅力の一端に気付き、「日本ももう少し関わってもいいのかも」と思い始めるようになりました。
  ・中東問題×日本、と聞くと、まるで蚊帳の外にいるかのような気持ちで今回のテーマを考えていたが、薮中先生が仰ったように、エネルギーや自衛隊という観点から、日本も当事者意識をもって自国の問題としても考えられるということ。 ディベートに関しては元々肯定側の意見を持っていたが、否定側に立って考えることで、日本経済の重要性やリスク等、国際協調だけでは解決できないような、リアリズムの視点から核合意を考えることができた。
・改めて、中東情勢の解決の複雑性を認識しました。この地域を舞台に、多くの国々の利害対立がなされていますが、だからこそ日本が果たせる役割も大きいと思います。それは、人道支援のみならず、各国と中東地域の仲介役として、主体的に問題解決に挑む姿勢です。同時に、核開発阻止の難しさも感じました。経済制裁は果たして有効な手段なのか、イランのみならず北朝鮮などの事例も踏まえて考えていきたいと思います。

一番多かった感想として「中東情勢は複雑だけれど、もっと勉強しようと思った」という声が多くありました。

まさしくこれこそが今回の勉強会の目的だったので、勉強会担当として嬉しく思います。

また、たった一度の勉強会で完全に理解できるほど中東情勢は簡単ではなく、勉強会後も絶えずアンテナを張り続ける必要があります。

今後も塾生には勉強会だけでなく、自主勉強会などでもテーマとして中東を取り上げていってほしいと思います。

(↓5月勉強会での集合写真)

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以上、薮中塾5月勉強会の報告でした。

6月は「社会保障」に関する勉強会です。お楽しみに!

                              5月勉強会担当



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