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薮中塾8月勉強会報告

皆さん、はじめまして!薮中塾、8月勉強会担当です☺️

この記事は毎月薮中塾で行われている、「勉強会」の中で、「8月勉強会」のまとめを8月勉強会担当、柴田と永井で報告させていただきます!

今回のテーマは「性産業」と「性産業に関わる問題・課題」でした。

この8月勉強会は「夏合宿」の幕開けとなるアジェンダでした。本来であれば、塾生同士楽しみ、活発に議論を繰り広げられていたはずなのですが・・・新型コロナウィルス第2波の影響で、夏合宿もオンラインという形式を取ることになりました。(悲しい、惜しい!)

その中でも、私たちはいかに楽しく、当事者に寄り添う形で「性産業」について学べるか考え、オンラインでも有意義な勉強会を催すことができたのではないかなと思っております(希望的観測)。今回は6期としては新しい試みとして、

第一部:「ロールプレイング」
第二部:「制限型カードゲーム」
第三部:「行政/社会活動 制度・政策立案/提案」

の3部構成で企画しました!

勉強会準備

私たちにとって、薮中塾で「性産業」というある種「タブー視」されている分野を取り上げる意義は以下である考えました:

1. 性産業に従属している方が直面している問題に寄り添えるようになりたい
2. 普段薮中塾生は性産業に従属している方々で、困難を抱えている人との直接な関わりがないかもしれない
3.「社会保障」について取り上げた6月勉強会を踏まえ、性産業に従属している方々に関する「制度」について考える機会を設けることで「制度」と「性産業に従属する人々」の両側面の考え方を持つことができる

まだまだ性産業に従属する方々以外にその産業の実情、そして問題や課題が知り渡っていないと私たち勉強会担当は感じていました。

もっとも、性産業はアンダーグラウンド化しやすい産業でありますが、新型コロナウィルスの影響でメディアでも取り上げられ、一般の人々にもその問題が認識されつつあります。
その一方で、性産業に対してまだまだ色眼鏡で見ている人は少なくないです。薮中塾で取り上げる意義を上記と踏まえ、

1. なぜ風俗嬢は性産業に従事しなければならないのか、風俗嬢がどのような問題を抱えているのか当事者の立場に立って考える
2. 性産業に関する問題に対して自分の立場、あり方、受け入れ方を考える
3. 性産業に関する問題を自分が学んだ上でどうしたらこの問題が認知されるかを考える

の3点を勉強会の最終目標として設定しました

当日のタイムスケジュールはタイトでしたが、充実した内容になりました。
当日の流れはこの通り:

では実際当日、どのような議論が行われたのでしょうか?
一部毎に取り上げていきます!

**第一部 ロールプレイング/補足講義

**

第一部では、「課題を抱える風俗嬢に対する相談業務」をロールプレイング形式で行いました。
"風テラス"という、実際の風俗従事者の総合的な相談窓口をイメージしており、1グループ4人に分かれ、ソーシャルワーカー・弁護士・カウンセラーで成る相談グループが、様々な悩みを抱える風俗嬢の相談にのり、具体的にどのような解決策があるかを探りました。
 
また、性産業以外で働くことができない女性の置かれている状況について深く考えるために、他の職業で活かせる接客などのスキルを身に着けにくいという観点から、今回は性産業の中でも「風俗」(体を売って、性的な欲求を満たすサービスを提供するもの)のみ扱いました。

ロールプレイングにした意義

今回行ったロールプレイングは、薮中塾6期の勉強会では新しい試みでした。
テーマである「性産業」は、日本社会ではタブー視されやすく、色眼鏡で見ている人も少なくありません。社会的に階層が分断されていることが原因で、大学生や若手社会人を中心に構成される我々薮中塾生は、本当に困難を抱えている人との直接的な関わりがないかもしれません。

そこで、「性産業に従事する女性はどのような問題に困っているのか」「支援する人はどのようにしたら本質的な支援できるのか」といった、実際の当事者を演じることで、それぞれの立場を理解できるのではないかと考え、勉強会当日は相談する側・される側の両面を演じて多面的に当事者を捉えられるような構成としました。

事前準備

まず、相談グループでは、生活保護を始めとした諸制度の具体的な申請方法や、借金問題に係る法律、精神疾患の症状など、各自が担当する役職を中心にリサーチをしました。

一方で、風俗嬢役は、Twitterやレポート記事等を利用しながら、性産業の現状を調べたものをもとに、オリジナルのペルソナ(経済状況や家庭環境などを細かく設定したもの。当日は、そのペルソナになりきって相談にいく)を作成しました。

当日

各相談チームに、1名の風俗嬢役が相談に訪れます。複合的な課題を抱える風俗嬢に対して、カウンセラー役が中心となって話を聞き、それぞれの課題への具体的な解決策を弁護士役とソーシャルワーカー役が提案しました。
ただ、適応できる制度があったとしても、相談者が何らかの理由(例:生活保護を受給できる経済状況でも、田舎であるため車を手放せないため受給できない)で受け入れられないというケースもあり、なかなかすんなりと解決にはたどり着きません。
20分という短い時間で相談業務に当たりましたが、事前に調べた内容を生かしてアドバイスが行えたチームがあった一方で、想定外の相談内容に対応できなかったという声も聞かれました。(風俗嬢役の迫真の演技はとても好評でした!)
以下、第1部終了後の塾生の振り返りの一部です。

質問:風俗嬢という職業や風俗業界にはどのような利点と欠点があるのでしょうか?
▶︎利点
・働きはじめやすい
・その場しのぎである程度の金銭を手にできることくらいか(?)
・風俗嬢なりの生きがいはある
・自由に働ける
・効率的な稼ぎ方ができる
・職業経験等があまり豊富でない方に対してのセーフティーネットとしての機能
▶︎欠点
・社会保険、労働保険のサポートがない
・一度入ると社会からかなり孤立する
・身体精神的負担が大きい
・将来性がない 
・生活リズムが不安定
・安定しない
・スティグマの存在
・非風俗産業者からの業務に関する理解の不足
・セカンドキャリア形成の難しさ

補足講義 性風俗の分類・定義

今回のロールプレイングに有用な情報を、勉強会担当が補足講義を行いました。アジェンダは以下の通りです。

1.データで見る風俗嬢の現状
2.福祉制度
3.性感染症

↓以下補足講義で使用したスライドです

▶︎生活保護をめぐる問題として水際作戦と貧困ビジネスがあげられます。このような、生活困窮者が社会復帰をする妨げとなるケースは是正されなければいけません。

▶︎性産業は、精神障害や知的障害を持った女性に働く場を提供し、セーフティネットになっている側面もあります。そのような女性を公的制度につなぐため支援が必要になります。

▶︎シングルマザーとして性産業で働く女性が、利用できる制度についての説明

▶︎昨今、梅毒の感染流行が確認されています。
 このような性感染症流行の背景にある問題を説明しました。

▶︎また、風俗嬢が性感染症を予防しにくい現状があります。

第二部 制限型カードゲーム

第二部では、「制限型カードゲーム」を行いました。以下詳細です。

<概要>
塾生それぞれが厳しい状況に置かれた女性になりきり、人生で起こりうる様々な出来事に直面した際にどのような選択をするか発表しあう。

<ルール>
・各グループ5〜6人で行う
・実際に風俗嬢となった女性たちの背景を参考に作成したペルソナ(生活状況・経済状況・対人関係などを決めた架空の人物像)をグループのメンバーそれぞれに割り当てる
(※一つだけ塾生をモチーフとした比較的困難を抱えていないペルソナがある)
・イベントカードとして、「災害の発生」や「家族の病気」「宝くじが50万円当たる」といった人生で起こりうるイベントを用意
▶︎1ラウンドにつき1イベントカードを提示し、その出来事が起きた際に、自分に割り当てられたペルソナとしてどのような選択をするかグループ内で発表する。

<ねらい>
・風俗嬢を選択し得る背景を持つ女性の視点に立ちながら、どのような人生選択が可能かを考える
・なぜ性産業に従事しなければならない人がいるのか、そのような状況下で性産業に従事する以外の選択肢が本当にあるのかを学ぶ
・塾生をモチーフにしたペルソナとの比較を通して、普段我々が知り難い、厳しい状況に置かれている女性たちの選択肢の幅の狭さを知る

各メンバーそれぞれの回答を比較をしても、抱える背景の違いがどれほど人生における選択に影響を与えるか明確になりました。第2部ではこのゲームを通して、困難を抱える女性が性産業に従事し始める理由や状況を当事者の目線に立って考える機会となりました。

ここでは、あるグループのゲームの様子をお届けします!
(*)は各人のペルソナ設定から特徴的なものを抜粋

【イベントカード:連帯保証人になった友人に騙されて50万を支払うことになった】
Aくん:(*)私立大学生・親族友人は頼れない・奨学金と月5万円の収入で生活
・弁護士ではなく、まずは学生支援センターにいく
・学生というだけで守られてはいる
・親にも迷惑かけたくない
・アルバイト先の人に相談する
・田舎に兄弟がいて親も頼れないし、学生だから正直どうすればいいか分からない
Bさん:(*)親族関係なし・発達障害/性病あり・金銭管理能力なし・不摂生な生活
・もともとマイナスだから、借金してもいいかな
・夜の仕事行くかもしれない
Cさん:(*)子ども一人のシングルマザー・夫からの養育費なし・日雇い派遣・田舎暮らしで車が必要なため生活保護は受給できない
・連帯保証人になった友達を必死に探す
・警察と無料弁護士に相談する
Dくん:(*)インターナショナルスクール卒の大学生・実家住まい・家族関係は良好・アルバイト収入5〜8万円・大学院進学を控える
・院進するのでお金が必要だから、50万円払わないといけないのは困る
・友人にアドバイスをもとめる    
・8万円弱ある貯蓄を使って、残りは家族など周りにお金を借りて払う

実は、このペルソナの中には1つだけ(このグループではDくんのもの)勉強会担当のメンバーをモチーフにしたものがありました。おそらく、多くの塾生が共感するペルソナだったのではないでしょうか。そしてそのペルソナは、イベントカードでどのような出来事が起こっても致命的な状況に追い込まれることはありませんでした。一方で、他のペルソナからは、「どうしたらいいかわからない...」と悩む姿が見られました。

第二部終了後の塾生の振り返りの一部です。

質問:苦しい環境で生活している女性は,生活に困らない学生と比べてどう違いましたか?
・意思決定や行動選択の判断材料が違いすぎる。
・自分では「何とかなるでしょ」と楽観的に思うことに対しても、今回のペルソナでは、ことあるごとに「どうしよう」と悲観的に思った。
・同じ事が生じた時に取れる選択肢が全然違った。
・頼れる場所がなくて、精神的な孤立に拍車がかかりそうだと思った。
質問:苦しい生活を強いられる女性にとって性産業に従事することは,生活を続ける上での選択肢に入ると思いますか?
・日本は全体的に貧困が浸透していて、本来であれば社会的に救済支援を行うべき対象の絶対数が増えすぎたために、制度に守られない「ゆるやかな貧困」の最中にある人も多いと思う。そういう人たちが風俗が稼ぎやすいからという理由で、性産業に行き着くのはある種当然で、このゆるやかな貧困を段階的に解消しない限り生活を続ける上での選択肢としてあり続けるのではないかと思った。
・頼れる人がいないということは、他の仕事の紹介がされないだけでなく、性産業に従事してスティグマを貼られても特に気にならないという要因も生むと思う。
質問:女性が性産業に従事しなければならない最大の要因は何であると考えますか?
・女性の社会的地位が低いこと
・極度の貧困状態におけるループ状態から抜け出すためのフィナンシャルサポートの欠如
・性が売り物になるから。貞操観念も教育達成されていないので食いぶちの一つとして想定している。労働者として守られれば社会的認知や問題の重さも変わりそう
・女性という性役割上、やはり男性よりも子供の養育費に対する危機感が強い(自分のことを後回しにする気持ち!?)のではないかと思いました

第三部 補足講義 Part 2/ 制度ディスカッション

第三部のはじめには、補足講義のパート2を行いました。
主に、勉強会担当が「風営法」の解説、説明をしました。
(以下補足講義のスライド↓)

補足講義が終わった後は、「制度ディスカッション」を行いました。
制度ディスカッションでは、第一部・第二部を経て、気づいた性産業に関連する制度/社会の構造の問題を元に、「行政グループ」(行政の立場から既存の制度を如何に変えるかという提案をする)そして「社会活動グループ」(新しい制度、ビジネス等を提案する)に分かれて政策立案式で考えていただきました!

各グループ、斬新かつ当事者に寄り添ったアイディアを発表していただき、お互いにとってとても刺激になりました。
以下は各グループが出した立案をご紹介させていただきます。

行政グループA: 「生活保護申請の簡素化」
「LINEを使って生活保護を申請できるようにする」という画期的かつ、現代に沿った提案がとてもよかったです。
概要↓

提案概要:LINEを活用した新たな生活保護申請制度
現状分析:福祉職員の多忙化による水際作戦などが原因で、生活困窮者に支援が行き届いていない現状がある。
理想状態の設定:水際作戦をせず、生活困窮者まで確実に支援を行き届かせること、行政の効率化
ステークホルダー:福祉職員、生活困窮者

発表スライド↓

行政グループB:「事実上のひとり親(主にシングルマザー)に対する補助」
行政グループBは「寸劇」というとてもユニークな発表形式でグループの提案を発表してくれました。入念な準備もあり、とても濃くて興味深い制度提案でした!
概要↓

提案概要:別居中で事実上の離婚状態にある場合、条件を満たせば離婚を認める制度の導入
目的:婚姻関係が残っている女性でも、シングルマザーとして様々な保障を受けられるようにする
実施場所:市役所

社会活動グループC: 「風俗で働く人を支援する雑誌『 wodence』」
社会活動グループCはアーティスティックで、ポップかつ実現可能性まで考えられた、手の込んだ提案をしてくれました!社会活動グループらしい案で、我々塾生が実践できたら面白いのではないか!と感じています。
概要↓

概要:性産業を取り巻く問題/性産業従事者が抱える問題に対するアプローチ
外からのアプローチ(性産業全体、性産業従事者へのアプローチ)
外へ向けたアプローチ(社会への発信、店舗地・イメージの改変)
  → NPO法人の設立、雑誌の発行!!

雑誌のイメージ↓

(ちなみに雑誌の名前『wodence』は「すべての女性に自信を」という意味を込めた造語(women(女性)+confidence(自信)& independence (自立))だそうです!)

実現可能性もとてもよく考えられていました↓

社会活動グループD:「風俗嬢向け登録事務所設立事業」
このグループの提案は、他の塾生からも「現実的!」「性産業のコミュニティーのことをよく理解できていると感じた!」など好意的な意見が多かったです。

概要↓(スライドがとてもわかりやすかったので文字での説明は省略させていただいております!)

8月勉強会を通じた学び

勉強会担当自身としても、今回の勉強会テーマそのものを通して、また勉強会を企画して学んだことが沢山ありました。
まず、6期での勉強会では初の試みである「ロールプレイング」や「制度カードゲーム」の導入の成功に達成感を持つ運営メンバーが多くいました。
その他にも、運営を進める中での発見や学びとして以下のようなことが述べられていました。

・勉強会前は当事者意識を持つことに限界があるのではないかと思っていた(ロールプレイングをしても果たして当事者意識を持てるのか?)→当事者意識に限界があったとしてもそこに到達すべきかなと思うようになった。
・当事者の話を聞いただけでは「考える」ということができなかったのではないか。ロールプレイングや第2部の制限カードゲームは「考える」ということを促せたのではないか
・やってる側も運営側も両方経験して具体像を把握することができた。知識として性産業について知ることができたし、みんなに知ってもらう過程も見届けられた。

また、「性産業」というテーマ設定にもこのような意見が述べられました:

(性産業が存在するべきか否かという)是非で議論されがちだけど、実際困窮している女性を支えているという側面もあって、現実的でリアルな面を話せたのかな。現実的な部分をみなければいけない(倫理的ではだめでも、だけど実際は必要だったり)という議論が今後の勉強会でもそういった視点が活かせるのではないかと思うようになった。

また、塾生からも、「性産業」について学ぶ意義において、こういった意見が挙げられました。

・階層違いによる想像力の欠如が、風俗業界の女性たちを生きにくくしていると感じる。下層を切り捨てたままに上層だけの議論にならないよう、支援する側や情報発信する側が、彼女たちに対して哀れ、恥ずかしい仕事、迷惑という色眼鏡なしに本当のニーズを探る必要がある。その意味で、今回のようなロールプレイングは意義があったと思う。
・当初は「性産業」単体で課題や解決策を考えていたが、考えていくうちにジェンダーの思想や日本の性教育の問題点に結び付くと感じた。もちろん社会保障制度や雇用制度にも関わる。性産業について学ぶことで現在起きている社会問題が浮き出てくるという点で考える意義があるものだと思う。
・自身が風俗嬢としてロールプレイングを体験する中で、真面目に風俗嬢を救おうとすることで、余計に風俗嬢自身のインサイトに気づくことを困難にしている感覚があった。自分が経験していないような状態にある人に共感し、その上で一緒に取り得る手段を探すことは、性産業の場以外でも至る所に存在しているため、共感力や想像力を養う場として大変有意義であったと考える。
・勉強会を通して、性産業は意外にも自分のすぐ近くにある存在なのだと感じた。それにもかかわらず、普段の生活ではTABOO視されており学ぶ機会がないため、実態がわからずマイナスなイメージだけが世に出てしまっているとわかった。また、貧困に苦しむ人々の立場に立って考えるいい機会になった。

以上、この記事では柴田と永井が8月勉強会についてご報告させていただきました。

(皆との集合写真)

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