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ゲームクリエイティブとビジネスの狭間を見た話

昨日、同じゲーム業界で働く友人と、夕食を共にした。
お店は場末感が漂うお好み焼き屋。
店内は決して綺麗とは言い難く、ぎりぎりの清潔感を保っている感じだが、その丁度いい汚さが、我々の会食にはうってつけだった。
彼とは十五年来の付き合いで、共に代に四十台になったのだが、以前から変わらず、そういう店の方がお互いに落ち着く。
だらだらと、今の心情を吐露できる。

彼とは同じゲーム会社の門戸を未経験で叩き、そこから紆余曲折あって、別々のゲーム会社でキャリアを重ねてきた。
昔から、めっぽう頭が切れて、繊細で、弁が立ち、細かな気配りができる彼友人。
戦略的にキャリアを積み上げて、今や立派なプロデューサーとして成した。

かたや、自分はというと、その時々の興味本位のあるがままに、ゲーム業界のプロジェクトと役職を転々としてきた、マルチプレイヤーのようなキャリアの積み重ね方。
割と対極的だと思う。

そんな彼が、今いるゲーム会社に限界を感じて新天地を目指していろいろ動いているという話を聞いた。
自分から見れば、プロデューサーとして絶大な権力をふるって、自由に動いているように見えていたが、どうやらそうではないらしい。
会社内の様々な事情やしがらみで、今の環境では、自分が思う「100%」の満足いくゲーム開発ができないのだという。

会社にプレゼンを通すために、マーケティング的なロジックを積み重ねてゲームが売れる、ヒットするということを証明したらしい。
だが、結局は、そのゲームがターゲットに対して面白いと思ってもらえるゲームが、自身にとって100%の満足度で開発できたかに尽きるということを実感したということだった。
60%~70%で出せば、その通りの結果が返ってくるという。
冷静に聞いてみると、しごく当たり前の話だ。

ただ、この「面白いゲーム」という部分がなかなかやっかいだ。
面白いというのは人によって感じ方は千差万別で、絶対というものはない。
ゲームというのは、ビジネス商品という側面と、クリエイターの感性が重視されるアーティスティックな芸術作品という側面が、絶妙な割合で混在している。

画家が、絵画を制作して、素晴らしい作品として批評家の目にとまり、値段が上がるというものではない。
ゲームは、大衆が実際に身銭を切って、面白いがどうかを判断し、レビューをし、口コミで広がっていき、売り上げに直結する。
マーケティングで宣伝広告費にお金を使ったとしても、これだけSNSが普及し、誰もがレビューを発信できる時代に本質的な効果は出ない。

しかし、ゲームに求められるクオリティは年々上がっており、それに伴う開発費も、軽く億~数十億というのも珍しくはない。
そんな開発費がかかるものを、個人の感性で「面白いゲーム」と思ったから開発するというのは、会社からみると、簡単な判断ではない。

よっぽど実績があるクリエイターで、その人がつくれば間違いなく面白くなってヒットするからという保証がないと、そんな金額は払うという判断はできないだろう。
そうなると、名前が売れていないクリエイターは、マーケティング的な側面でロジックを積み重ねて、ゲームを企画していくしか会社を口説く手段はない。
これも、しごく当たり前の流れだ。

ゲーム創成期の、ファミコンの時代などは、数人が狭い部屋で開発して、自分たちが面白いと思うゲームを、自身の感性にまかせて開発していたように思う。
国民的ヒット作品となった「ドラゴンクエスト」が、まさにそうだ。
東京調布市にあるマンションの一室だったらしい。

だからこそ、あの時代は、いろいろ実験的で、挑戦的なゲーム作品が数多く生まれた。

それと比較して、昨今のゲーム業界(主に日本)は、
・声優で誰を起用して
・イラストレーターで誰を起用して
・ゲームシステムは過去のヒット作品のこれに近い
 または、過去のヒット作品のナンバリング
だから、ゲームが〇万本売れますというマーケティング方式が、一般的になっていると思う。

だが、実際には、真の意味で評価されてヒットしているゲームはこんな企画の立て方をしていない。

今年、全世界で1200万本売れたという「エルデンリング」。
このタイトルがヒットした理由は、フロムソフトウェアが、
・デモンズソウル
・ダークソウル
・ブラッドボーン
・SEKIRO
と、全世界のユーザーが面白いと思うものを全力で提供してきたからだと思う。

特に、最初の「デモンズソウル」は、開発初期は、社内でマーケティング的には絶対にヒットしないと言われていたらしい。

だが、大ヒットをした。
それは、自分たちが面白いと思えるものを、愚直に100%で開発したからに他ならない。
ゲーム開発は、ビジネス的に、莫大な金額が必要になってきた時代なのだが、ヒットするかどうかは、どこまでいっても、どれだけ面白いゲームを作れたかに尽きる、ということを改めて感じる。

昨日の友人の話を聞いて、その思いを余計に強くした。

自分自身の仕事のスタンスとしても、マーケティング的な説明はちゃんと考えはするが、それよりも100%満足いくものを開発できるように、そのために、あらゆるチャレンジをしていこうと思う。

ゲームビジネスはマーケティングや宣伝でどうにかなるものではない!


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