「ごちそうさまでした、おいしかったです!」
この一言を、私は食事をしたお店を出る時に言うことにしている。
言われた店員さんの反応は様々だ。
キョトンとする人、聞き流して次のお客さんの応対を始める人が大半。
しかし、嬉しそうに「ありがとうございます」とお礼を返す人もいる。
こういう人のいるお店は、たいてい美味しかったと記憶している。
もともと、このようなことをしていたわけではない。
この「作法」は息子から教わったものだ。
楽しく家族で外食したある日、会計を済ませてお店を出ていく直前、当時保育園の息子が、お店を振り返り、店員のお姉さんに手を振りながら言ったのだ。
「ごちそうさまでした! おいしかったです!!!」
妻が教えたかもしれない。はたまた保育園で教わったかも。
しかし、恥ずかしながら、私が教えた覚えはまったくなかった。
まったくの忖度のない彼のお礼に、一瞬キョトンとしたお姉さんは、たちまち笑顔になって「ありがとう」とお礼を返して息子に手を振り返したのだった。
そして、店の奥から野太い声で「ありがとうございました!!」とお礼も聴こえてきた。デカくてよく通る息子の声は、厨房まで届いたらしい。
その声に振り返った私に、厨房にいる店員さんがチラリと見えた。タオルを鉢巻き代わりにしている彼は、黒いシャツを腕まくりしながら、自信に満ちた表情で中華鍋を振っているように思えた。
たった一言で、こんなにも人の気持ちを変えるのか、と感動した。
それ以来、彼を見習って、言うようにしている。わざとじゃなくて、本心から。楽しく美味しく食事できるのは、一生懸命料理を作ってくれるお店の人がいるからこそだ。
今はコロナで言う機会も減っているが、やはり言いたい。
「ごちそうさま、おいしかったです!!!!」
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