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ドラマシナリオ7「ミラーダンス」②

■前回までのあらすじ■

作品テーマ(キーアイテム)は「」。坂井文枝はワーキングマザー。忙しい仕事と母親業の合間を縫って、息子の史人と同じダンススクールに通っている。毎年行われる親子のダンス大会。急に転勤が決まった文枝は、昨年の失敗を挽回すべく、見送るつもりだった参加を撤回し、参加を決めたのだった……

■シナリオ本編■

◯武田町・大通り

ランドセルを背負った史人と山内すみれ(12)が並んで歩いている。困った表情の史人。心配そうなすみれ。

すみれ「大丈夫? あんたのママ、出るんでしょ、今度の大会」

うつむきながら頷く史人。

◯ミネルヴァ総研・エントランス

入り口から早足でビジネストートを抱えた文枝が男女数人と歩く。真顔で話しながら歩いている。

◯同・ビジネス推進部

PCの前に座り書類を見ながら、キーボードを叩いている文枝。

すみれの声「真っ赤な顔でヨロヨロして、振り付け全部飛んでたもんね、去年」

史人の声「今回は『リベンジ』だって言ってたけど……」

PCのディスプレイの隣に写真。草原に座っている文枝、坂井、史人の写真。文枝と坂井はビール片手に笑っている。史人はサンドイッチをおどけながら頬張っている。写真の隣には小さな鏡。大きなため息をつく文枝、写真を見て、鏡を覗き、呆然とした顔を見て笑顔に変える。デスクの内線が鳴り、鏡から目を離して受話器を取る文枝。

◯武田町・大通り

うなだれて歩く史人。史人とすみれの後ろから川島龍太(12)が走りながら近づき、史人のランドセルを叩く。つんのめる史人。ニヤケ顔の龍太。

龍太「よっ、お荷物ダンサー」

史人、龍太をにらみつける。

龍太「今年は大会、ぶち壊すなよ。親子揃って」

口を尖らせる史人。すみれ、史人の肩を抱いて支える。

龍太「ホントのこと言っただけだろ、大したことねぇのに、俺と同じレッスン受けてんなよ。邪魔なんだよ、やめちまえ」

すみれ「ちょっと!!」

フン、と鼻を鳴らして駆け出す龍太。龍太に続いて駆け出す同じ年頃の男の子二人。龍太達の後ろ姿をにらみつけて、顔を史人に向けるすみれ。

◯ミネルヴァ情報システム・女子トイレ

洗面台で手を洗い、鏡を眺める文枝。ハンカチで手を拭きながら、小さな短い息を吐く。

すみれの声「何よ、ちょっと上手いからって、いくらなんでも『親子揃ってぶち壊し』は無いじゃん」

史人の声「良いんだよ、僕は僕とママ、パパのために頑張るんだよ」

文枝、キョロキョロと周囲に人がいないことを確かめてから、両手で両頬を軽く叩く。

文枝「そういや、個別パートって、こうだったっけ……タンタン♬タタタン♬」

肩をリズミカルに揺らして踊りだす文枝。

史人の声「別に龍太なんかどうでもいいんだ」

すみれの声「でも、どうして急に出るのよ、あんたのママ」

史人の声「次の大会で、いっしょに踊るの、最後なんだ……まだ、誰にも言わないでね」

ムーンウォーク風に後ずさりする文枝。トイレに若い女性が入ってくるのに気が付き、慌てて居住まいを正し、済ました表情で早足に立ち去る。

◯ガゼルダンススクール・入口(夕)

ドアに『ガゼルダンススクール』というロゴとガゼルのキャラクターが描かれており、『第18回 ガゼル親子ダンス大会』と大書きされたポスターが貼られている。

◯同・大スタジオ(夕)

バインダーを手挟んだ美佳子を中心に、半円を描いて集まっている男の子と女の子たち。その中に史人、すみれ、龍太。全員、体育座りをして、話している美佳子に注目している。

美佳子「じゃあ、3ヶ月後の親子大会、このクラス全員で踊るパートの他に、今から呼ぶ人は個別パートがあります。親子出場だからね」

ゆっくりと子供たちを見渡す美佳子。口を真一文字に結ぶ史人。

美佳子「……ひかり、龍太、史人。それから……」

すみれ「はーい」

手を挙げて立ち上がるすみれ。ギョッとする史人。

美佳子「そうね、すみれだったわね。さっき、お母さんから連絡あった」

史人の隣に座るすみれ。ドヤ顔で史人を見つめる。すみれににじり寄る史人、手で口元を隠してヒソヒソ話。

史人「え、すみれちゃんのお母さん、出るの?」

すみれ「あんたの話、ウチのママに言ったら感動しちゃって『ここは文枝ちゃんのために一肌脱がないと』ってノリノリだったわよ」

史人「『言わないで』って言ったのに……」

頭を抱える史人。声を殺して笑うすみれ。

美佳子「はいはい、話を聞いて。じゃあ、個別の前に全体練習しましょう。みんな立って並んでね」

ヒップホップ風の音楽が流れ始める。クルクルとターンをしながら手を振って遠ざかるすみれ。うなだれた史人、鏡に写った姿を見てシャキッと立ち、鏡に近づいて、にらみつける。

史人「最後なんだ……ママと僕のために踊るんだ」

両頬を両手でパンパンと張る史人。史人に歩み寄る美佳子。

美佳子「『子は親の鏡』か……」

史人、鏡越しに美佳子の姿を見て振り返る。

美佳子「同じようなこと、お母さんやってたわ。似るもんねぇ……」

驚く史人。笑いながら促す美佳子。

美佳子「ほら、早くならんで……(子供たちに向かって)はい、じゃあ始めるわよ、ハイ!!」

美佳子に合わせて踊りだす子供たち。史人、慌てて列に並んで踊る。

続く

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