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上場準備を始める前にやっておくべき10のこと

こちらは2018年に投稿した記事ですので、参考程度にご覧ください。

はじめまして。初noteです。どんな人間かはプロフィールを見ていただくとして早速本題に入ります。

理由は様々(エクイティファイナンスを実施して投資契約書に上場を目指す努力目標が記載されてしまっているからとか後ろ向きな理由ではないはず)だと思いますが、上場準備を始める企業が増えています。
多くの求人広告を見ても上場準備で人が足りない!上場準備経験者ウェルカム!です。
その一方上場準備って監査法人の監査受けてお墨付きもらって、パブリックカンパニーとして証券会社のお墨付きもらうんでしょ?以外のことが語られないことが多いので、もう10年以上上場準備に関わっているのに未だに上場できない有る種「プロの上場準備実務家」である私から上場準備を始める前にこれだけはやっておけということを書きたいと思っています。

1.上場準備担当の採用

なにはともあれ、上場準備を担当し、プロジェクトを進めていく人を採用しないと始まりません。よく「監査法人のショートレビューを受けてから」とか「まだ採用できない」と炎上一歩手前くらいまで採用しない会社がありますが、上場準備というのは社長を筆頭に管理部門担当役員とその下のメンバー、主幹事証券会社、監査法人が中心となって進める一大プロジェクトです。そのプロジェクトリーダーとなるべく人の採用は必須だと思っています。
採用はどうやるの?はどこの会社も困っているので私はわかりません笑

2.過去のデータ収集、整理と未来の定点観測データの収集方法の整理

上場準備プロジェクトに入ってだいたいの会社ができていないことがこちらです。
人事労務周りでは
・役員の経歴および辞任に至った経緯(役員の経歴ですが、Ⅰの部は主要な経歴で構いませんが、マザーズへの説明資料には全て記載しなければいけないので、最初に整理しておくことをオススメします。)
・過去管理部門長が在籍していればその方が退職に至った経緯
・各期ごとの人員異動の履歴(各期の退職率&正社員と有期雇用労働者は分けておく)
・未払残業の有無、残業支払い時間が15分単位とかになっていないか等過去の給与支給実績が労働基準法に照らし合わせて正しく処理されているか。
などがあげられ
経理周りでは
・BSをくまなくチェックし、不明な残高がないか確認し(特にワンマン社長にありがちな自分の家を会社の社宅扱いにしている。自分の車を社用車扱いにしている。やソフトウェア仮勘定、ソフトウェア勘定に異常な残高がある等)、必要であれば整理しましょう。
また、その他事業側のKPIなども会社の成長度を説明するために重要です。
過去のデータは各関係者にヒアリングされてもすぐに回答できるように各種フォーマットにそって、定点観測できるようにも整理しましょう。

3.意思決定機関の整理

コーポレート・ガバナンスを遵守するために各種意思決定機関の設計を行っておき、足りない人員は採用しましょう。
監査等委員会設置会社にするのか、取締役会+監査役会にするのか、社内の会議体はどのようにするのかなどもです。
どうしても現状はピラミッド型の組織が上場準備の前提になっていて、ティール型の組織ですと難しいことがあります。ですので、ピラミッドを前提に役職等を整理することをオススメします。

4.過去の意思決定資料の整理

取締役会(が設置されていない場合は取締役協議会など)、株主総会が開催されているのであればその議事録を印刷し、捺印しておきましょう。後で一気に作ればと思っていてはいけません。上場準備が始まったら「〇〇を〇〇までに提出」の嵐で、そんなことをしている暇はありません笑
よくありがちなのが議事録内に「添付資料」と記載があるのに、印刷後の議事録に添付されていないことです。こういった細かいことを整理しておかないと後で手戻りが発生した時の対応コストが半端ないです。一度整理しておいて、準備が始まったら必ず添付する、など運用を固めていきましょう。

5.各種規程の整理・整備

規程は会社のルールです。ルールが既にあるのなら、規程間の用語は統一されているか、などの確認とまだない規程は作成し、従業員に周知徹底するようにしましょう。
ちなみに最低限必要と言われている規程は以下になります。
これだけの規程を一から作るのは大変だと思うので、市販やインターネットで手に入る規程を自社に合わせて追記修正するか、コンサルティングしてもらって自社に合った運営できる規程を作成しましょう。
規程は作ればいいと言うわけではありません。今後上場準備の過程で運用に合わせて適宜修正します。自分で作っていない規程はなぜか頭に入りません。コンサルティングを依頼する場合でも丸投げではなく、必ず一緒に作るようにしましょう。
・定款
・規程管理規程
・取締役会規程
・監査役会規程
・監査役監査規程
・内部監査規程
・株式取扱規程
・組織規程(組織図含む)
・業務分掌規程
・職務権限規程
・会議体規程
・就業規則
・賃金規程
・人事考課規程
・旅費規程
・慶弔見舞金規程
・育児、介護休業規程
・予算管理規程
・経理規程(勘定科目明細等の細目含む)
・原価計算規程
・購買管理規程
・販売管理規程
・外注管理規程
・開発管理運用規程
・与信管理規定
・固定資産管理規程
・文書管理規程
・印章取扱規程
・リスク管理規程
・コンプライアンス規程
・内部通報制度運用規程
・インサイダー取引防止規程
・反社会的勢力排除規程
・関連当事者取引管理規程

6.管理会計とそれに応じた予算管理制度の導入

会社で財務会計だけを行っていた場合は管理会計の導入を検討しましょう。1事業1サービスであればかまいませんが、複数サービスまたは複数事業がある場合はサービスごと、事業ごとのPLを作成し、予算管理を行いましょう。
予算管理も後回しにされること、またはバリエーションからトップダウンのみの予算を策定されることが多いですが、上場準備の間に予算を決めるのはそんなに何度もありません。また上場準備の過程で予算と実績の管理は非常に高い精度を求められる上にトップダウンとボトムアップの両面からの予算作成を求められます。
優秀な方だけで集められた組織であれば予算や中計(中期経営計画)を作る!となればすぐにできるかもしれませんが、そのようなことがない場合「予算ってどうやって作るの?」ということが当たり前のようにあります。直前期でこんなことにならないように上場準備を始める前から管理会計の導入と予算管理制度の導入を進めるべきだと思います。

7.業務フローの整理と月次決算スケジュールの作成

上場準備を行う過程で内部統制の設計は非常に重要なことです。一般的な3点セット(業務フロー図、業務記述書、RCM)を作れとは言いませんが、準備が始まると業務の流れを第三者に説明する機会が増えますので、整理しておくことをおすすめします。
また月次決算もやっていないのであれば行うこと、行う場合は第1営業日からどのようなタスクがあって、第何営業日に経理の伝票が入力し終わるのかというリストの洗い出しからはじめ、スケジュールに落とし込み、できれば第5営業日には完了できるようにしましょう。請求書等の手配で取引先等にも事前に「弊社上場を目指すことになりまして、決算の早期化を行っております」等連絡し、月初第3営業日に請求書をもらう等を契約書に盛り込む等やっていきましょう。
そして現場にもスケジュールを周知し、経費精算や取引先からの請求書を早急に管理部門にまわしてもらうようにしていきましょう。(決算の早期化は管理部門だけでは絶対にできるものではありません。現場の方の協力が必須です。)

8.商標権等権利関係のチェックと整理

これはあまり事例がある話ではありませんが、会社の名前や製品・サービスの名称が他人が押さえている商標とかぶる場合、商標権侵害等の訴訟リスクが生じる可能性があります。商標以外にも特許権等知的財産権の帰属について等もありますので、弁理士等に相談し、整理できるところは整理しておいた方がいいです。

9.資本政策を本気で策定

本気で策定と書いたのはVC等から資金調達をしている場合、ある程度ざっくりした資本政策は組まれていると思いますが、今後の事業計画や中期経営計画を元従業員へのにストック・オプションの発行や、株式分割等を検討する必要がある場合は資本政策をどのように進めていくのかということを本気で考える必要があるかと思います。

10.経営陣、社内メンバーと上場に対する目線合わせ

最後はざっくりしているのですが、目線合わせです。上場準備が始まると「内部監査」「内部統制」「職務権限に応じた稟議制度」等管理部門メンバー以外にも今までとは違う負荷がかかります。今までは口頭でよかったこともルールに則って事前承認を得なければいけない等です。
このようなことが当たり前に発生するという経営陣の理解とともに管理部門以外のメンバーにも理解してもらう必要があります。
できれば社長から社員総会や全社会的な全社員が集まる場で「当社は●●を達成するために上場を目指す、上場を目指すということはパブリックカンパニーになるということであり、これから話すこのようなことを守りながらも今までと同じ事業スピードでやっていきたい」みたいなことを話してもらえるといいかもしれません。

さて、いかがだったでしょうか。上場準備というのは2年~3年かけて行う会社の歴史でも一大プロジェクトだと思います。その一大プロジェクトを迎える前にこのようなことに注意していただいて、整理しておいてもらえるとその後の上場準備が少しでも(ほんのちょっと)楽になるかもしれません。またあくまで経験則に基づいた内容になりますので、こっちの方が大事では等のツッコミは大歓迎です。

上場準備に苦労する管理部門の方に少しでも有益になりそうな情報をこれからもアップしていきたいと思っています。次回は「上場準備中の組織設計ってどういうところに気をつければいいの?」を主幹事証券会社からどのような質問があるのか、など踏まえながら書きたいと思っています。

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