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良い戦略、悪い戦略ーリチャード・P・メルメト

著者であるリチャード・P・メルメトはシステム設計エンジニアとして働いたのち、ハーバードビジネススクールに入学、博士号を取得後助教授として働き、同校を離れたのちも経営に関する学問を研究してきた方。
戦略論の世界的権威として「戦略の戦略家」と呼ばれる。アカデミックに戦略が何かを学ぶのに、この書籍は非常に良い気付きを与えてくれるものであった。

戦略は目標ではない

昨今、戦略と付けばなんとも凄そうな雰囲気を出すような世の中になっている。経営戦略は元から良しとして、人材戦略、マネジメント戦略、育成戦略等々。言ってみれば、格好良いからそういったものを付けてしまっているのが実情ではないのだろうか。

本当の戦略は戦争で用いるもの

言葉の語源は間違いなく「戦い」の中で生まれたことである。したがって、自分の目標をそれっぽく言い表すというようなものではない。「相手の弱いところに自分の強い部分をぶつける」という至極簡単な物でありながら、非常にシビアで高貴な物でなければならない。
また、そのような中で生まれた言葉であるからこそ、戦いに勝利をすることが大前提になるわけで、改めて、戦略は目標ではないという事をしっかりと認知しておかなければならない。

「一貫性」と「新たな強みによるゲームチェンジを起こす」

良い戦略の定義を明快にすると、戦略自体に一貫性があり、また、その結果として、競争優位ではなく自社が勝つようなゲームに状況を切り替えることにある。
先ず、一貫性という部分で、同書では「カーネル」という言葉で表現されていたが、それは「現状に対する診断」「基本方針」「行動」の3点で成り立っており、それらに一貫性があるものとしている。
また、自社が勝つゲームに変えるという視点で戦略は構築してくべきものであると説明をしている。戦略の結果にあることは勝利であるが、それは、打ち負かすことではなく戦う土壌をそもそも変えてしまう事が大前提にある。真っ向勝負せずして勝利を手に入れる方法こそ、良い戦略の骨格であると言える。

悪い戦略とはそもそも戦略ではない

上記と対比して、悪い戦略とは機能しない戦略である。そこには・・・と思いがちであるが、実は戦略が戦略として成り立っていないというのが多くの場合で見られる事実である。

そもそも中身がない〇〇戦略

専門用語を羅列して、あたかも素晴らしい戦略のように見せかけている〇〇戦略というのは実は溢れている。専門用語で構築された文章は、非常に複雑怪奇で崇高なものに感じるが、専門用語が用いられる背景にあるのは専門的な事柄を一般化することにあるわけで、根本的にロジックエラー。
また、そうやって書かれている戦略にこそ、行動事項ばかりが羅列されており、結論行動目標でしかない。

重大な問題に触れない

これも同様であるが、良い戦略の土台にあるのはカーネルであり、それは現状の課題分析からスタートする。つまり、課題なき状況で戦略も何もなくて、それは結果的に目標ですねと言う事。また、その部分が抜け落ちている為に、項目数だけが増え、寄せ集めになってしまい、機能しないという事も多々あるというの事実。

向き合い方として

・難しいことを避ける思考
・作ることを目的にテンプレートに当て込んだ戦略(的な物)
・成功すると思い批判的な視点が欠落している
これらは、悪い戦略立案の典型的な例と言える。

良い戦略を構成するモノ

上記のような、悪い戦略の絵を見ていくと、良い戦略の骨格は見え始める。前述したカーネルをしっかりと守ること。
現状に対して診断し、基本方針では「なぜやるのか?どうやるのか?」の答えを乗せる、そして、どのような行動を具体的に取るのか。ここまでを一貫して構築して初めて戦略として機能する。
戦略を構築する上で考えるべき事項を以下に列記していく

レバレッジを効かせた投資

戦略のゴールはより効率的に勝利をすることにあると言える。その為には、1の戦力を1として活用するのではなく、レバレッジを効かせて活躍させることが必要となる。
レバレッジを利かせる上で、重要なのは支点と力点の考え方である。
未来の成長市場が見えているならば、圧倒的な力が作用するのでレバレッジは自ずと効いてくる。もしも現状マーケットで戦うのならば、支点をどこに据えるかを考えることが妥当である。そのポイントは市場の不満の声にあることが多い。

複数の強みを持つ

企業活動におけるボトルネックは必ず存在する。なぜ、ボトルネックと言われるかというと、事業活動は様々なプロセスが複雑に絡み合って成り立っているからである。したがって、ある特定工程がネックになると他工程に波及することになるのである。
逆に、一つのサプライチェーンにおいて複数の強みを持ちながら結果として1つの強みを得られるという考え方は、非常に強い戦略になる。

成長の罠に陥らない

戦略が機能していくと自社の事業は大きく成長をしていく。企業はその成長過程において、次のステップへ進む方法が異なる。大切なことは、その成長過程において、当初決めた戦略を見落としてはいけないという事。
その戦略を見落とし、自社の拡大戦略を優先させた場合、自社の強みも失われ、衰退路線へと入りかねない。

優位性は常に磨き続ける

優位性とは同じものならば安いか、価値が高い物が選ばれる。その積み重ねが業績であり、また、戦略の結果論であると言える。必然的に戦略を構築するからには、優位性が何なのかを明確にならなければ描けないし、また、そこを高める努力は必須事項である。
・優位性を深める:コストダウン、付加価値を付ける
・優位性を広げる:進出マーケットを広げ顧客を優位性を出す
・顧客を増やす :その強みに対する顧客を増やす努力
・より複雑にする:模倣されないように

戦略を作るうえでの思考方法

事業には慣性というものがある。必然的にチャンスは競合企業の慣性により生まれるし、自社のピンチは同様に自社の持つ慣性により生じる。慣性には以下の3つがあり、それらに対しては向き合う必要がある。
・業務の慣性 : 経営判断で改善すべき事項
・文化の慣性 : 上層部が一致団結し古い文化との決別
・顧客からの委任に関する慣性 : 既得権益からの脱却を決する事
そのような体制を踏まえたうえで、良い戦略の考え方にはポイントがある

①カーネルに立ち返る②問題を正確に③最初の案で満足しない

どのような時であってもカーネルに立ち返ることが必要である。戦略である以上、競争する相手がいて、それに勝つということが前提となる。また、勝つのは戦略ではなく、そこから派生した行動である。
その為、上記の3点は忘れてはならない事項と言えるのである。

最後に

世の中にあふれる戦略という言葉。気軽に使えるものではないですね。
といって、頭でっかちになっても仕方ない。行動した人が最後は勝つので、行動あるのみです。


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