見出し画像

小話① なぜキャリア「コンサルタント」なのか

ちょっと寄り道にそれて、もう一つ私が気になっていたことについて。
なぜキャリア「カウンセラー」ではなく、キャリア「コンサルタント」なのか、という疑問です。

カウンセラーもコンサルタントも相談にのるという趣旨では同じかもしれませんが、問題へのアプローチ方法や使用するスキルがまったく異なります。
私はスタートが中小企業診断士=企業コンサルタントのため、最初はその違いに非常にとまどいました。(*1)

1.相談プロセスの違い

たとえば相談のプロセスを比較してみます。

一般的には、企業(経営)コンサルタントの場合、経営学から生まれた戦略論やフレームワークを使い、調査データなどの情報を効率的に集め、分析し、仮説を設定して問題解決思考でゴールに向かう。そのプロセスは能動的です。

一方で、キャリアコンサルタントが学ぶのはカウンセリングの理論であり、使うのはカウンセリングの手法です。
その手法は様々ですが、代表的な考え方は、ロジャーズの「答えはクライアントの中にある」。
そのため、クライアントの話を傾聴することがプロセスの中心であり、クライアント主体で進めます。

にもかかわらず、なぜキャリアカウンセラーという名称にしなかったのか。

2.名称決定の背景

調べてみると、労働政策研究・研修機構の報告書(*2)に、名称決定の背景が書かれていました。

・米国では一般に「キャリア・カウンセリング」と言われるが、日本において「カウンセリング」という用語は、心理的な療法を想起させる面が強い
・「キャリアコンサルティング」は、1対1の「キャリアカウンセリング」を提供するだけでなく、より広く組織や職場に対してコンサルテーションを行うといった意がを込められている

ただし、現在では「カウンセリング」の中に包含されるとの考え方もあり、その使い分けは重要な意味を持たない、と明記されています。


つまり、「それほどこだわるところではない」ということのようです;

3.専門家の見解

実際のところ、専門家の間でも、その違いにあまり意味をもたせないことが多いようです。

特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会は、厚生労働大臣認定のキャリアコンサルタント養成コースを設置していますが、以下のようにHPに明記しています。

細かな名称・定義にこだわらず、キャリア支援を行う専門職で、より高いクオリティの支援を実現できる人を『キャリアカウンセラー』と呼んでいます。

法政大学キャリアデザイン学部教授の宮城まり子先生は、国家資格化された後も、あえてキャリア・カウンセラーという名称を使って論文(*3)を書いてらっしゃいます。
職業相談の伝統的な考え方として、キャリアカウンセリングの中に、キャリアコンサルティングも包括されているということのようです。

さらにいえば、「カウンセリング」という用語自体が、日本においては複雑な経緯を以て使われていたり、キャリアコンサルティングは「ガイダンス」も含むなど、定義や意味こだわり始めると、深みにはまりそうです。

やはり、「それほどこだわるところではない」という結論に達しました;

名称についてはこれで解決したのですが、ここで次の疑問が出てきました。
キャリアコンサルタントが行うのはカウンセリングだとすると、積極的に「問題解決思考」を使ことはNGなのでしょうか。

それでクライアントが納得するゴールにたどりつけるのでしょうか?

4.キャリアコンサルタントと問題解決思考

これについては、國分康孝先生が解答をくださいました。
ある講演動画を見たのですが、臨床心理士との比較で説明されています。

臨床心理士は、クライアントに対して基本的に受け身であり、リレーションづくりに時間をかける。その結果、クライアントの価値観や行動に変容が起こることを目指す。
一方、キャリアコンサルタントは限られた時間で問題・課題を解決するため、クライアントに対してより能動的に働きかけ、問題解決思考で進めるものである。

先生の著書を読むと、そもそもカウンセリングの目標自体も、問題解決だとされています。
パーソナリティの変容はサイコセラピーの目標であって、カウンセリングの主たる目標は問題解決である、と。(*4)

國分先生の中でも、キャリアカウンセリングとキャリアコンサルティングは、ほぼ同義なのかと思います。
そして、いずれにしろ、価値観や行動の変容を目指すのではなく、「具体的な問題・課題の解決を目指す」のだと。

これについては、様々な理論や主張がある中で、どの立場を取るかによって変わってくるのだと思われます。
また、カウンセリングの手法を使うことは確かなので、相談過程のどこから問題解決のプロセスに進むかは、クライアントのタイプや相談内容に応じて判断していくということになるでしょう。
これは、自分で実践を積み、検証をしながら、スタイルを作っていくことになりそうです。

カウンセリングの理論に則り、カウンセリングの手法を使いながら、コンサルタントとして問題解決を目指す。
キャリアコンサルタントは、自身の信条や得意領域によって、その手法を構築していくことが大切になるかと思います。
ただし、それは自分勝手ではなく、あくまでも先人の知見が蓄積された理論をベースに構築していくべきと考えます。


(*1)カウンセリングや教育の現場で行われるコンサルテーションもありますが、ここでは企業向けのコンサルティング、コンサルタントの一般的な形と比較します。

(*2)労働政策研究・研修機構の「労働政策研究報告書 No.171 企業内キャリア・コンサルティングとその日本的特質」
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0171.html

(*3)宮城まり子(2018)「キャリアカウンセリングの現状とその課題・今後への展望」」 法政大学キャ リアデザイン学部紀要第15号
http://cdgakkai.ws.hosei.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2018/08/gb201802.pdf

(*4)國分康孝(1991)「カウンセラーのための6章」誠信書房

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?