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【第9回】シナリオ分析実践ガイドSTEP2-1:物理的リスク
TCFD提言における気候変動のリスクは、「移行リスク」と「物理的リスク」 の二つに分類されており、前回までの2回に分けて「移行リスク」の内容を紹介しました。今回は、「物理的リスク」の内容を紹介します。
1.物理的リスク
物理的移行リスクとは、気候変動による災害発生や海面上昇により、設備等が損傷することにより生じるリスクをいい、TCFD提言では、下記のように急性と慢性の二つに分類した上で例示しています。
【物理的リスクの例】
![](https://assets.st-note.com/img/1653814482421-QRARNXj4RH.png?width=1200)
2.急性的リスク
近年、豪雨などの異常気象による災害の発生頻度が増加しています。このため、工場などの自社設備が直接影響を受けるだけではなく、海外も含めたサプライチェーンの寸断などのリスクも高まっています。
近年の急性リスクの発生頻度と災害規模の増加は、損害保険会社の利益に影響しており、これを受けて、足元では一部の保険料の値上げ、保険期間の短縮など、損害保険会社以外の企業にも既に影響が出始めています。このまま地球規模で気候変動の悪化を食い止められなければ、これらを要因とするコスト上昇のリスクが考えられます。
3.慢性的リスク
慢性的リスクは、降水パターンの変化や気象パターンの極端な変動、平均気温の上昇や海面上昇など、急激には表れないものの、徐々に顕在化する気候変動から生じるリスクです。 自社物件やサプライチェーンの所在などにより、企業ごとにリスクは相当異なると思われますが、日本においては、例えば自治体が公表しているハザードマップを利用して、リスクの高い地域にある資産を識別することが可能です。
この他、急性リスクで取り上げた保険料の上昇も、上昇トレンドが継続する可能性の他、将来的には、保険対象となる資産の範囲が縮小する、といったリスクも検討する余地があるかもしれません。
4.洗い出されたリスク項目のまとめ
移行リスク・物理的リスクについては、TCFD提言本文に例示されているものの他、TCFD提言の付属書「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言の実施」(最新版は2021年公表)の付録4において、参考文献が掲載されています。この付属書は、2022年4月28日に日本語訳も公表されました(https://tcfd-consortium.jp/pdf/about/2021_TCFD_Implementing_Guidance_2110_jp.pdf)。
シナリオ分析実践ガイドに掲載されている事例の中には、TCFD提言の全てのセクター向けの手引きに記載されている例示に加え、付属書の付録4に掲載されているような外部レポートを参考としている企業もあります。
この他、先行している開示事例にも目を通しておかれるとよいかもしれません。特に同業の先行事例については、業種によってはリスクの内容の多くが共通している場合がありますので、網羅性の観点から目を通しておく事をお勧めします。
洗い出されたリスク項目は、以降のステップにおいて、自社にとって重要かどうかを評価するベースとして使用していきます。
次回は、気候変動に関するもう一つの側面である「機会」の内容をご紹介する予定です。
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