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初めてオーケストラの音楽を聴きに行った


有給取るのを忘れたので、夜勤明けボロボロの身体で真夏の真昼間の東京の街を歩いていた。
今日も今日とて酷暑。
錦糸町駅から一歩外に出ると、息をするのも躊躇うくらいの蒸し暑さが襲ってくる。
せめて日光に当たらないようにと、木陰に身を隠しながら、私はすみだトリフォニーホールへ向かっていた。

『Hello!! シネマミュージック in Summer』
私の、この夏唯一のイベントである。

毎週金曜日欠かさず聞いてるPodcast番組『OVER THE SUN』のパーソナリティ、堀井美香さんが司会をするということで、軽い気持ちでチケットを購入してみた。
私は「おばさん」と自称するにはメイン層から反感買いそうな年齢だが、毎回2人のトークを楽しみにしている互助会員である。

前々から、オーケストラの演奏を生で聴いてみたいと思っていた。
しかし音楽に関して超ド素人なので、どのコンサートも難しそうに見えて先延ばしにしていたところに、このコンサートの情報が舞い込んできたのだった。
プログラムは聞き馴染みのあるシネマミュージックのみ。しかも大人も子どもも楽しめる内容。
音楽鑑賞入門としてこれ以上最適なものはない!とチケットを即ポチッたのだった。

私が予約したのは、1階の後方中央の席。
冷房が程よく効いたホール内、赤い座面にふかりと腰を下ろした直後、急に疲労感が襲ってきた。当たり前だ、明け方に数時間の仮眠しか取ってないのだから。
ボーッとした頭で、ホールのスクリーンに映し出された可愛らしいアニメーションを眺める。
あかん。これ、開演前に寝るかもしれん。
もらったパンフレットを開いたり閉じたりして眠気を紛らわせる。
もう寝てしまったらそれはそれでしょうがない、となんとも中途半端な気持ちで開演時間を迎えたのだった。

(以下、コンサート中にメモ取ったりしてないので順番の記憶があやふやなところがありますがご容赦ください。
それぞれの音楽に感想を述べたいけれど、ちょっと書ききれないので特に印象に残った前半の2曲についてここに書き残してきます。)


設営の様子から、昨日撮ったのでは?と思われるオープニングムービーが終わり(実際そうだったらしい笑)、始まったのはスターウォーズのメインタイトル。

管弦楽器の"生の音"ってすごい。
こんなに透き通って聴こえるんだ!
透き通ってるから、音に奥行きがあるのが分かる。
よく聴く曲なのに聴こえてくる音の解像度が違うから、それまでとは全く異なる印象を感じる。
それぞれの楽器から奏でられる音色の繊細さが分かる。力強さが分かる。
指揮者の水戸博之さんの後ろ姿は音を引き出す魔法使いみたいだ。そう言えばプロの指揮者を見たのも初めてだ。
こんな体験初めて!これはおもしろい!


1曲目が終わった頃だったか、司会の堀井美香さんがステージに現れた。
生・美香さんも、初めて見た!
指揮者の水戸博之さんと新日本フィルの方々にインタビューしながら、本人が1番楽しそうなのが声と仕草でわかる。
この物腰柔らかな雰囲気と可愛らしさで、番組ではお馴染みの面白発言が飛び出すんだから、不思議な引力を持つ人だよなぁ、なんて思いながらインタビューを聞いていた。

これはOVER THE SUNの話だが、私は"極め値"が見せてくれる孤高さも、"外れ値"が見せてくれる新たな哲学も、どちらも好きだ。
しかしこのコンテンツに溢れる社会で日常を過ごしていると、どうしても目新しさのある外れ値の方が多く入ってくる。極め値は意識しないと、あるいは能動的に働きかけないとなかなか入ってこないのだ。
今日この場は極めに極めた人たちが演奏を聴かせてくれている訳だが、こういう磨かれた芸術に久々に触れられたのがよかった。
本当に軽い気持ちだったが、興味本位でチケットを買ったあの日の自分に「よくやった!」と言いたい。


続いてトトロの『さんぽ』に合わせて楽器の紹介。
楽器の音も名前も分からず来ているので、こういうのは本当にありがたい!
チューバかっこいい!

その流れで『オーケストラストーリーズ となりのトトロ』が始まった。
各シーンの名曲が奏でられ、そこに堀井さんの柔らかな声でストーリーが語られる。

これが本当に素晴らしかった。

となりのトトロは子どもの頃によく見ていたが、大人になってからは一度も見ていない。
なのに耳から入る音楽が、各シーンをこと細かに蘇らせてくれる。
でもそれはアニメーションを見た時とはまた別の印象で、
この家になんかいる!と分かった時のワクワク感、
トトロの森の神秘性、まどろむトトロの寝息、
迷子になったメイと、メイを探すサツキの心細さ、
ネコバスが旋風を起こして颯爽と走る迫力、
環境も感情も含めて、音色が物語を紡いでいた。
音色だけでここまで表現できることへの感動。
耳だけでここまで情報が拾えるのか!という驚き。

曲の最後には、気づいたら目に涙が浮かんでいた。


今回私の中で、音楽の概念がかなり変わった。

私が普段聴いてるのはギターメインのロックバンド調ばかりで、それをスマホからそのまま流すか、iPhone付属のイヤホンか、ビックカメラで一番安かったワイヤレスイヤホンで聴いている。
ライブ会場に行って聞くとしても、スピーカーから大音量で流れてくる音だ。
正直、音が綺麗に聴こえてると思ったことは無い。綺麗な音を追求したこともない。
音楽を聴くことって、その時の気分を上げたり、落ち着かせたり、大切なのは曲調だけだと思ってた。

昔からアートが好きだけど、どちらかというと美術の方に興味があって、視覚的な面白さばかり追いかけていた。
でも最近それにも飽きていた。
だってどんな美術も写真も、大抵スマホ一つあれば目に飛び込んでくる。それでいいと思ってたけど、それはいくら高解像度でも平面的だ。
絵の具の乗り方を見るのも楽しいのは知ってる。でもめんどくさがって美術館にも全然行ってない。
そもそも最近はデジタル制作のアートが多くて、見に行ったところで画像で見るのとあまり変わり映えしないことに、つまらなさも感じていた。

さっきも書いたように、この演奏会でオーケストラが奏でる透き通った生の音と、そこから見えてくる音の奥行きに感動して、気づいたのだ。
私が求めていたのは芸術の奥行きで、枯渇していたのは多角的に捉える感性だったのかもしれない、と。

目で捉えることはできないが、見えてくる。
触れるような気もしてしまう、音の景色。
空間が芸術になっている。
この感覚は初めてだった。日常では絶対に触れられない音の体験だ。
こうやって新しい体験を通して脳味噌に新しい領域が生まれる瞬間は、いくつになっても興奮する。


語彙力も説明力も表現力も全然無いので、上手く言えないのかもどかしいが、
演奏を聞いてる間、私は壮大な山の風景を目の前にしているような気持ちになった。
奏でられる音楽は、大自然に浄化された新鮮な空気や雪解け水のようで、夜勤明けでカッサカサだった身体と心にするすると染み込まれていった。
途中寝てしまわないか心配だったが、むしろ夜勤明けで行ってよかったかもしれない。全身潤った気がする。


話は変わるが、会場でもらったパンフレットにこんなことが書かれていた。

あはは〜〜〜わかる〜〜〜

暑いし、物価高いし、大雨も降るし、地震も起きる。毎日色々だ。
このコメントが美香さんの声で再生されて、堀井さんらしいなと思ってちょっと笑った。
オケかぶりの子どもたちの入れ替え作業で、「新日本フィルさんとスムーズな移動を約束したから!」と張り切る姿も、子どもたちに目線を合わせてインタビューする姿も素敵でした。


演奏者さんたちの配置図には、それぞれ名前と今ハマっていることが書かれている。これがなかなか面白くて、開演するまで隅々まで読んでいた。
何人か互助会員がいる。スンス栽培してる人もいる。
クラリネットは2人して辛い物が好きなのかな。
「練習」なんてストイックな人もいる。
推しの子、面白いよね〜。
さらに裏面には初心者におすすめのクラシックまで紹介されている。そうそう、こういうのが知りたかった!


今日のきっかけを提供してくれた堀井さんにも、素晴らしい体験を提供してくださった指揮の水戸博之さん、新日本フィルの方々にも、本当に感謝だ。

新しい趣味を探しているところだったし、今日から少しずつクラシックも聞いてみようかな。

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