四時(yoji)

都内、アラサー女、沖に出たい、ここは言葉の錨

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都内、アラサー女、沖に出たい、ここは言葉の錨

最近の記事

誕生日の前日

誕生日の前日は、少し寂しくなる。 日付を跨ぐだけなのに、午前0時には今日まで生きてきた私の身体がばらばらに分解されて、新しく組み立てられてしまうような予感がする。 これまで散々こき使ってきた身体が急に愛おしくなって、身勝手な精神はそのままだ。 ひと続きの私の身がまたひとつ、土に近づいただけのこと。 もう何十回も繰り返したこの喪失感に、今も慣れない。 歳をとることが、自分自身を手放すことと同じになって久しい。 小さな遊び心、見境の無い反抗心、密かな夢、やめられない癖

    • 斜陽

      「止め」の合図で、頭の中に詰め込んだテキストの内容が、風船のようにぷしゅうと音を立てて耳や口から吐き出された。ような気がした。 試験官に促されるまま、会場を後にする。 9月も半ばだというのに、外は未だに蒸し暑い。午後3時。つい最近までこの時間帯の空はまだ鮮やかに青く、このまま永遠に猛暑が続くんじゃないかと思われたが、暑さは変わらずとも地球はきちんと太陽の周りを回っているらしい。夕暮れ手前の街は薄い黄金色に照らされていた。 今、とある資格試験が終わった。 この1ヶ月間は久々に

      • 部屋から進研ゼミの漫画が出てきた

        部屋のファイルを漁ってたら、進研ゼミの漫画が出てきた。 懐かしいにも程がある。 子どもの頃は、手持ちの漫画がこれくらいしかなかった。 漫画が買えなかった中学生の私は、届いた進研ゼミの漫画をせっせと集めて繰り返し読んでいた。 我が家には、"漫画を読んだらと同数の小説を読まなければならない"という謎ルールがあった。 後者の方が読破スピードが遅いことは明らかで、要は子供が漫画ばかり読むことを防止するための漫画禁止令だった。 ただ漫画を買う数を制限されるのならまだ納得はいくが

        • 雑談が疲れる

          子どもの頃、ボールで遊ぶのが下手だった。 投げれば、思わぬ方向に飛ぶか、近距離に着地する。 受け取るのは怖いから、目を逸らして逃げてばかり。 最終的には動くことすら馬鹿らしくなって、コートの隅にぼーっと突っ立っていた。 さらに足も遅かったし、マット運動や跳び箱もできなかったから、運動神経が皆無なんだと思う。 それだけだったら「運動音痴」のレッテルを貼られるだけだったんだけど、私は言葉のキャッチボールも苦手だ。 大人になって良かったと思うのは、数学と体育の授業が無くなっ

        誕生日の前日

          休日のアイスクリーム

          夜勤から帰宅する時間には、太陽がちょうど真上にある。 景色はどこもかしこも輝いて、やさしかった影は引っ込んだ。 光は千本の矢のように肌を刺すから痛い。 空気は生き物の体内みたい、べったりしている。 草も虫も凶暴にとなりのエネルギーを吸い取って、陣地を奪い合う。 あー、どうにかなりそうだ。 寝不足と暑さで溶けた脳みそはぐわりぐわりと回るから、まともな判断ができない。 毎度、近くのスーパーに寄ってお昼のお弁当だけを買うはずが、足はアイスクリームのコーナーに吸い寄せら

          休日のアイスクリーム

          ハンドドリップでコーヒーを

          最近また、ハンドドリップでコーヒー淹れるようになった。 また、というのはしばらくインスタントコーヒーに浮気をしていたから。 インスタントのコスパの良さに飛び付いてしまったのだけど、これが失敗だった。 物価高の影響をもろにくらっているコーヒーは、ここ数年で価格が1.5倍くらい高くなった気がする。 安くても200gで1,000円弱。 ここまで来るともう、庶民には贅沢品だ。 以前は好みのコーヒー豆を買ってきて、ミルで挽いたりしていたけど、もう無理だ。ただでさえ食費が嵩張っていると

          ハンドドリップでコーヒーを

          初めてオーケストラの音楽を聴きに行った

          有給取るのを忘れたので、夜勤明けボロボロの身体で真夏の真昼間の東京の街を歩いていた。 今日も今日とて酷暑。 錦糸町駅から一歩外に出ると、息をするのも躊躇うくらいの蒸し暑さが襲ってくる。 せめて日光に当たらないようにと、木陰に身を隠しながら、私はすみだトリフォニーホールへ向かっていた。 『Hello!! シネマミュージック in Summer』 私の、この夏唯一のイベントである。 毎週金曜日欠かさず聞いてるPodcast番組『OVER THE SUN』のパーソナリティ、堀井

          初めてオーケストラの音楽を聴きに行った

          スポーツ嫌いと拗れた自意識

          テレビをつけると、白い水飛沫をあげて泳ぐ選手が映し出される。朝の情報番組では、前日にあった競泳男子が特集されていた。 美しく力強いフォームだと分かるのは、小・中学生の頃いちおう競泳をやっていたからだ。しかし競泳選手の名前はあまり知らない。 声を張り上げて緊迫感を伝える実況の声は、朝の耳には少ししんどい。背後の大きな歓声は一色に聞こえるが、分解したらいろんな国の言語が飛び交っているんだろう。その映像の上からさらに、競技の結果を読む番組司会の声が重なる。音の大渋滞だ。 数週間前か

          スポーツ嫌いと拗れた自意識

          メロンが食べたくて

          ここ数週間、なぜかメロンが食べたくて仕方がなかった。特に、目も醒めるようなパッと明るいオレンジ色の赤肉メロン。 なんの影響なのか分からない。とにかく、あの鮮やかなオレンジ色の、甘味の強い、とろっとした果肉のメロンがどうしても食べたかった。 食いたきゃ買えばいいんだけど、一人暮らしに一玉は多すぎる。田中みな実じゃあるまいし。しかし近くのスーパーでカットされたメロンは置いてない。 仕事中もずっとメロンのことばかり考えていた。勉強してても、疲れてへとへとでも、1時間に1回はメロ

          メロンが食べたくて

          疲れて眠るまでの戯言

          疲れすぎてなんもしたくない。 疲れた原因は主に仕事。 一日中立ち仕事なので、足がパンパンだ。 なんで人一倍体力ないのに立ち仕事してんだ。 頑張って更新されたお気に入りのポッドキャストやYouTubeを開いてみるけど、音も映像も滑ってしまってなんも入ってこないし、なんも面白くない。 なんか外で雷鳴ってる。うるせーな。 寝てるのに体がだるい。 メディキュット履いたり、器具使ってマッサージしたり、アロマ焚いたりすれば気分も変わるのかもしれないけど、そんな気も起こらない。 こう

          疲れて眠るまでの戯言

          近所の北海道へ

          北海道に行きたい。 まずはベタに札幌。時計台とか大通公園とか、とりあえず寄ってみたい。 小樽運河沿いを歩くのも楽しそうだ。吹きガラス体験もしてみたいな。 富良野のジェットコースターの路をドライブしてみたい。ペーパードライバーだけど、一本道ならなんとかなるはず。 旭川動物園でホッキョクグマやペンギンを見たい。 知床国立公園で大自然を感じるのもいい。 そういえばどこかに金塊が眠っているんだっけ? 出張で1回行ったきりなので、北海道のことはあまり知らない。ただ東京よりかは涼しい

          近所の北海道へ

          子供部屋を飛び出して一年経った

          せっかちな私は、お湯を注いで3分が待てない。まだかちかちの麺に箸を通して無理やりほぐし、口に運ぶ。のろい、マイペース、と言われた私はどこにいったのだろうか。 まいばすけっとで一番安かったカップ麺は、これといった特徴もなく、しかしそれを虚無と呼ぶにはあまりにも多くの糖質と脂質と塩分が溶け込んでいて、うまい。明日の朝、浮腫んでるんだろうな。 アラサー、独身、女。服は脱ぎ捨てた。 下着姿の女がひとり、単身用のワンルームの部屋の真ん中に座って、カップ麺を啜りながらこれを書いている。

          子供部屋を飛び出して一年経った

          言葉のピン

          人に見せる文章を書くのはひさびさだったので、少しだけ緊張している。 そして、自分から出てくる言葉と思考の変わり映えのなさに、少しだけ絶望している。 同じようなことを同じような言葉でしか書けない自分が嫌で、仕事の忙しさを言い訳にして書くのをやめていた。よくある話だ。 一度離れて戻ってきたら何が変わるかと思ったけど、なにも変わらなかった。それどころか退化している。 それに私は今けっこう充実した日々を送っていて、特別我慢ならないことがあるとか、悩みを共有したいとか、書いて発散し

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          梅雨とカメラとコーヒーと

          私の脳天から伸びたアンテナが、この人混みを構成する人間たち一人ひとりの感情すべてをキャッチして、莫大な量の情報が一気に体内に流れ込んできているような気分になって、その途方もなさに心臓のあたりがぎゅっと苦しくなる。 そんな気がするのは、昔読んだ詩の影響。 学生の頃だったか新入社員の頃だったか、人間が血流のように太い管を流れるのにわたしも混ざっていた。下界から見上げたカフェのカウンターからまたこちらを見下ろしてるのはやっぱり疲れた顔した大人たちで、なのに私はそこの一員になりた

          梅雨とカメラとコーヒーと