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三年計画の定点観測(2022年8月度月報)

◆前書き
昨年も書いてきた1か月程度の間隔で試合内容や会見のコメントなどを拾いながらクラブが提示した三年計画、コンセプトと照らし合わせて考えていく「定点観測」シリーズを2022シーズンも行います。


◆8月の戦績

7/30 (Sat) J1 第23節 (H) vs 川崎 ○3-1
8/3 (Wed) ルヴァン杯QF 1stLeg (A) vs 名古屋 △1-1
8/6 (Sat) J1 第24節 (A) vs 名古屋 ●0-3
8/10 (Wed) ルヴァン杯QF 2ndLeg (H) vs 名古屋 ○3-0
8/13 (Sat) J1 第25節 (A) vs 磐田 ○6-0
8/19 (Fri) ACL Round16 vs JDT(マレーシア) ○5-0
8/22 (Mon) ACL QF vs BGパトゥム(タイ) ○4-0
8/25 (Thu) ACL SF 全北現代(韓国) ○2-2(PK/3-1)

※リーグ戦 2勝0分1敗 9得点4失点(+5)
※()内は7/17時点でのリーグ戦の 勝点/勝/分/負/得失点差

7月は試合の切れ目の都合でPSG戦のところで区切って、月末の川崎戦からを今回は扱います。

PSG戦に向けてのところではリカルドがコロナ陽性になってしまい、川崎戦に向けては前日の29日にようやく合流。ただ川崎はそれ以上に深刻で蓋を開けるとベンチメンバーが5名かつ、GKが3名というスクランブル状態。試合当日まで開催するのかどうかに揺れました。

浦和はこれまで対川崎でのビルドアップでは左右WGとCFの2つのゲート奥にそれぞれCHを立たせて1stラインを越えるところに6人使うようなイメージでしたが、この試合ではここまでの流れを継続して4-1-2-3のような形を維持してダミアンの背後に岩尾が立って、川崎のIHにそこまで出るのか留まるのかという選択を突き付ける形になりました。

3月の川崎戦でのビルドアップ
今回の川崎戦2点目のビルドアップ

2点目はまんまとその構図でビルドアップから得点までが繋がったわけですが、先制点で敦樹がゴール前に入っていったところも含めてチームとしてビルドアップよりもゴール前に人数を使えるようになってきたことが、川崎相手にも実践できたのはチームとしての成長を感じます。

この配置の部分については川崎戦翌日にクラブ公式が出した岩尾のインタビューが分かりやすいと思います。

(6月の中断が明けてからJ1リーグでは毎試合必ず1ゴール以上取っている。シーズンの序盤は3枚に変化するディフェンスラインの前にボランチが2枚いて、前に5枚という形が多かったと思うが、最近は伊藤敦樹選手を前に押し出している形になっている。チームの中でどういう変化があって今に至るのか?)
「最初はダブルボランチで戦うという優先順位が高かったのですが、リカルド(ロドリゲス)監督も試行錯誤し、選手のキャラクターを含めてアンカー気味で伊藤選手をインサイドハーフのように配置しています。当然その中で相手の出方を見ながら流動的になり、一時的にダブルボランチにすることも試合の中でありますが、大枠の考え方は1アンカーの2セントラルと、昨日の試合であればサイドの(ダヴィド)モーベルグ選手と関根(貴大)が内側を取るのか幅を取るのかというところで、前に人数をかけることと、縦のレーンで割ったときに5レーンに人がしっかりとバランス良く配置できる環境をつくった、それがまた選手の特長も含めてうまくいっているということがゴールシーンにも出ていると思います」

さらにこのインタビューの中でチーム全体で各々のポジショニングが少しずつ変化したことについての言及がありますが、これは次の項でもう一度触れたいと思います。相変わらず岩尾のコメントは興味深いです。


ここからは名古屋との3連戦ですね。この3連戦で共通していたのは人を捕まえに来る相手をいかに外すのかだったと思います。3試合とも名古屋はベースを5-2-3の並びにすることで浦和の4-1-2-3に噛み合うようにして、彼らの強みというか目指す部分である目の前の相手に負けない、球際で勝つという要素を強調しやすくしていたように見えます。

その中で1戦目は左SHの大久保が中央に入っていくことで相手の噛み合わせにバグを作って惑わしに行きました。これについては試合後の会見で飲水タイムに2、3個のアイディアをリカルドが提示したと話していました。これは昨年の序盤にも飲水タイムやハーフタイムに度々見られた流れでしたね。

(前半は名古屋がマンマークのような形できて、飲水タイム後には大久保智明選手や小泉佳穂選手がうまく相手を混乱させるようになっていったが、指示を出したのか、選手がうまく対応したのか?)
「飲水タイムを含め、その前後で説明をしていきました。2つ、3つのアイデアだけ、どうすれば相手を剥がしてチャンスをつくっていけるか、というところは話しました」

ただこれがその後も上手くいったかというとそうでは無くて、その時の雑感にも書きましたが、主審のジャッジの傾向も相まって長谷川監督がどこのクラブでも作ってきたもの、悪く言ってしまうと少々距離があってもスプリントして強引に球際の場面を作りに行くスタンスに苦戦しました。そしてこれは2戦目となるリーグ戦の方でさらに嫌な結果へとつながってしまいました。


浦和はかみ合わせを良くしてハメてくる名古屋に対してビルドアップでCH2枚を横並びにして相手のCFのところで基準をぼやかしに行きます。対マンマークで1か所ズラすと相手はそれに応じて選手が動くので自分たちが空けたい場所には最初に立たず、相手をどかして空けてから入っていくという手順を踏むとボールを前進させやすくなります。

1戦目とCHの並び方を変えた
この試合で最もうまく相手を外せた場面

2枚目の図でも表現していますが、相手の背中を取れば名古屋は次の選手が潰しに飛び出してくるのでそこで奪われずに繋げばさらに相手が動いて、、という連鎖が起きていくのですが、残念ながら名古屋の潰しに飛び出してくる圧力に屈してしまいました。

対マンマークもそうですし、少々無理をしてでも走力と当たりの強さで潰しにかかるというのは浦和は目指していないところなので、出場機会が少なく普段のトレーニングで紅白戦くらいしか試合が出来ていない選手からすると日常からのギャップが大きかったのだろうと思います。

負傷者がいたという点はありますが、3連戦のうちこの2戦目は宮本、知念など直近での出場機会が少ない選手が出ていて、試合の結果に繋がってしまったのは名古屋側が誘発した彼らのミスによるものでした。

「我々のプレーがよくなかった試合だったと思います。今までの良かったパフォーマンスに達していない、我々にとっての最良の日ではありませんでした。ただ0-3というスコアは、相手につくられたチャンスを見たら厳しい結果かなと思います。失点シーンでは我々の簡単なミスから持っていかれているところも数多くあったので、そこは修正しなければいけません。そして我々のプレーの質も決して高くはなかったので、そこも修正していかなければいけないと思っています。」

(名古屋との3連戦のうち2試合が終わったが、リカルド監督が頭にあった結果と実際の結果にはどのようなギャップがあるのか?)
「1失点目は説明しづらい形になりましたし、2失点目はこちらのミスを突かれた、3失点目もサイドでのクリアミスでの失点でしたので、名古屋のプレーで崩されたというより、こちらのミスを突かれた試合でした。1戦目のルヴァンカップでは相手がしっかりと組み立てたプレーで失点してしまいましたが、当初考えていたプランとの差があったのは2試合目のパフォーマンスだったと思います」


舞台が豊田スタジアムから埼玉スタジアムに変わってボールの転がり方が良くなったというのも考慮すべき点の1つだとは思いますが、3戦目ではショルツ、酒井の復帰も含めて1戦目のメンバーが多く、名古屋は2戦目のメンバーがほとんどだったのでそこで浦和の選手の中では力の差が顕著に出たかなと思います。

(名古屋グランパスと3試合連続で試合をしたが、マンツーマン気味に前からプレスをかけてくる相手と対戦した中で、チームがうまく成長できたと思うことや、今後のヒントになると感じたことは?)
「一つ言えるのは、今回を3連戦の3試合目としたときに、1試合目に出た選手たちが多かったと思います。その中で、相手のプレスを剥がしていくことに慣れてきたところもありますし、剥がすところをつかんできたのも、この試合でカギとなった部分だと思います。プレーの中で非常に良かったのは、前線の松尾がうまく数的優位を作ってくれたことが、相手が捕まえきれなかった要因だと思います。成長に関しては、こうした相手に対しての厳しさを乗り越えられたところだと思います」

この試合は雑感をサボってしまったので図とかはないのですが、この試合ではビルドアップの形を4-1-2-3に戻して初期配置の段階では相手にハマっても良いというスタンスだったと思います。大事なのは初期配置を取っておしまいではなくて、そこで誰が誰にロックされている(させている)のかを把握して、それによって相手がいないスペースで人とボールを合流させるということを狙えていたのが先制点の場面も含め多かったと思います。特に左SHの大久保が中谷にロックさせておいて、中谷の背後に松尾が斜めに飛び出すというアクションは効果的でした。

(最初の30分は非常にギクシャクした固い感じで、判断も遅く、苦しい時間帯だったように見えたが、ああなった原因は?)
「理由の一つとしては、我々が狙っていた、フリーになるところの選手をうまく見つけることができなかったと思います。そこでフリーになっている場面もあったのですが、そこまでうまくたどり着けなかったのが一つです。前線に入ったときも収まらない場面があり、それが一つ理由としても挙げられると思います。ただ、相手が前掛かりに出てきている中、途中からより相手の背後を狙うところを出してから、流れは変わったと思います」

リカルドの試合後コメント

相手を外すために闇雲に動くのではなく、アクションの起こし方自体は相手がいない場所(スペース)を共有して行うことが出来ていて、例えばリカルドはこれまで対札幌のマンマークでなかなか良い結果を出せていませんが、そうした課題を着実に克服しつつあるという手ごたえは得られた勝利だったと思います。


川崎戦から始まった5連戦のラストはアウェーの磐田戦でした。結果的にはこれが伊藤監督にとどめを刺すことになったわけですが、3月のホームゲームからさらに攻守両面で力の差が開いたのかなと感じました。

特に1点目、2点目は松尾、小泉のセットがスタメンで起用されている理由がよく分かる彼らのプレッシングからの得点でした。松尾+小泉/ユンカー+江坂という組み合わせに分かれてきていますが、試合をコントロールするという点ではプレッシングでより頑張れる松尾と小泉をスタートで起用して、終盤に多少オープンな展開になってきたところでスピードのあるユンカーと間延びしたスペースを活用するのが上手い江坂を使う(オルンガ+江坂のセットと似たような相性?)というのは納得感があります。

松尾は元々SHとして起用されていたのでCFでプレーするようになった頃はプレッシングでの矢印の出し方も少し曖昧でしたが、試合を重ねるにつれて上手く適応できているように思います。キャンプの段階からスペースに走るとか、ゴールに向かうとか、そうした部分に意欲的なコメントもあったので、彼のCF起用は想定外だったかもしれませんが意外と彼の特徴にマッチしているかもしれませんね。

ただ、ユンカーは昨年5月など加入当初、江坂もちょうど昨年のこの時期あたりの0トップ期はプレッシングを頑張って相手のビルドアップを邪魔することが出来ていたので、この2人がプレッシングが下手とかやる気がないとかは思いません。

今の浦和は2トップが横方向に相手を追うことが多いので、早い段階でボールが奪えてしまうとプレッシングを行った選手が外に流れていて相手ゴールから遠い状況になってしまいます。「攻守に切れ目のない」サッカーを志向すると公言しているのですから、この点もきちんと考慮が必要なところでしょう。

ゴール前での技術こそがユンカーの強みなので、彼はどの局面でもなるべく相手ゴールに近い位置にいられるようにしたいと考えるでしょうけど、そうしてプレッシングに制約条件が増えてしまうのが現代サッカーにおいて「純正9番」を抱える難しさでもあります。それにストライカーは結局ゴールを決めてこそ評価されるポジションなので、「プレッシングは頑張ってるよね」という評価で留まる選手では難しいというのを昨年の春先に何度も感じた記憶があります。

話がそれましたが、この試合としてはプレッシングだけでなく、保持でも相手のポジショニングを見ながら空いている場所をきっちり使えていて、ボール保持者がオープンな状態なら裏へ抜けるなり、追い越すなりといったアクションが出ていたので、台風で開催が危ぶまれながらも現地に辿り着いた方々にとっては満足感のある遠征になったのではないかと思います。


さて、ここからはACLのノックアウトステージですが、3試合を7日間でやり抜いたことで個人的には大会への没入感がすごかったです。

結果的にはJDT、BGパトゥムといった、そもそも個人の能力で浦和の方が上という試合で前半のうちに試合の大勢を決めてしまって後半にはプレータイム調整が出来たことがとても大きかったと思います。

JDTは浦和のビルドアップに対して5バックより前の5人がそれぞれ人を捕まえに来ているような感じがありましたが、10分程度で相手の矢印の出し方を把握して試合を優位に進めることに成功しました。

BGパトゥム戦では今度は相手が4-4-2でしたが前線のプレッシングをあまりしないチームだったので、2CB+1アンカーで2トップに対して優位を取る、前線は5レーンにそれぞれ人を配置するという4-4-2攻略のお手本のような形で何度も攻め入ることが出来ました。

また、後半に相手が5-4-1へ変更してきたものの、ピッチ内で相手の変化を共有して適応できていたようで、このあたりは選手たちの主体性が高まっていることが窺えます。

(後半の相手のフォーメーションやメンバーの変化に対応していたが、岩波選手が気づいて周りに発信していたことはあるのか?)
岩波「相手が形を変えてきて少し押された展開が続きましたので、セットプレーの守備のときに、まずはみんなが相手のフォーメーションが変わっていることを認識しているかを確認しました。それでプレスの行き方を変えましたし、真ん中を使われるケースが増えていましたので、前から行かない場面もつくったり、そういうことをしながら対応できたと思います」

(そうやって自分から感じたことを発信できているのか?)
岩波「ディフェンスラインで自分がずっと試合に使ってもらっていますので、そういう自覚もあります。右に酒井(宏樹)選手がいて、左に(アレクサンダー)ショルツ選手がいるという恐れることはない状況ですので、自信を持ってプレーできていると思いますし、そういう選手たちも動かせるようになってきたと思います」


準決勝の全北戦はやはり相手の個々のレベルがそれまでの2試合と違うだけでなく、チームとしてもやるべきことはやるという強さを持ち合わせていてなかなか難しい試合でした。

名古屋戦のように明確に人を潰しに来るというよりは、プレッシングで方向を制限したり、撤退できちんとゴール前は人数をかけて埋めてから対応したり、5月の柏戦がよぎるような相手だったと思います。

5月の柏戦の図。左右分断への対処法は早く見つけたい。

その試合はどうだったかといえば、序盤こそ相手の背後を取ってゴールに迫る場面を作れたものの、徐々に相手のコンパクトな陣形を動かせずに攻めあぐねてしまったという展開でした。

保持側が横幅を使えない状態に出来るとどんどん守備ブロックをコンパクトにしてボールを奪いに行けるというのは浦和の守備を見ていればそうだよねとなると思います。なので浦和としては左右分断するプレッシングへの対抗策を早めに見つけて欲しいところです。5月の柏戦であればアンカーに入った平野が左右CBの間を狭めるように指示して、CBの外側にスペースを作ってそこでオープンに持てる選手を作るというのも一つの手段としてあると思います。

ただ、この試合は終盤になると中3日と中2日で延長戦×2という敵将に言わせれば「殺人的なスケジュール」をこなしてきた全北側のプレッシングが少しおとなしくなったことでショルツがオープンにボールを持てる時間が増えてはいました。残念ながら大畑がPKを献上したことを引きずったのか、その際のアクションが弱かったりもしたのでユンカーが入るまではなかなかチャンスを作れずに時間が進んでしまいました。終盤にオープンになりそうな時間帯でユンカー・江坂の組み合わせが脅威になるのは先述の通りですが。


川崎戦から始まった5連戦+ACLは「上手さ」を表に出したい川崎や磐田には自分たちのやりたいことをきちんと突きつけることが出来ていたし、これまで苦手部類の一つだった「強さを強調した積極的なマンマーク」を志向する名古屋にも最終的には自分たちの持っている論理を組み合わせた上で勝つことが出来ました。

最後の全北は「個々の強さとチームとしての統制」というまた別の苦手部類の相手(というかこれが出来るチームはそもそも強い)に対して90分で勝ち切ることはできませんでした。ここはチームとしての論理を積み重ねるのはもちろんですが、選手個々のスケールアップも必要なところだと思います。

ラストの酒井の何とかタックルみたいに少々苦しい場面でも体を張ってなんとかしてしまうとか、先制点のように相手が一瞬遅れて空いた場所を逃さないとか、そういった個々の「理不尽さ」でチームの構造上の不具合をカバーすることは大切です。

本気で継続的にリーグ優勝を狙うチームになるのであれば「チームの構造をぶっ叩かれたから負けても仕方ないよね」とはなりません。「チームの構造をぶっ叩かれたけど、そこは個人の能力で耐えて、その後にチームとして立て直して勝てたね」というところまで持って行ってもらいたい。少しずつ自信がついてきた中で、まだまだ高めないといけないところを最後にきちんと突きつけられた1か月だったのではないかと思います。


◆コンセプトは表現できていたか

※各項目5点満点
【個】個の能力を最大限に発揮する
 →4点(2月=2点、3月=3点、4月=3点、5月=3点、6月=2点、7月=4点)
【チーム】攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする
 →4点(2月=3点、3月=3点、4月=3点、5月=4点、6月=2点、7月=4点)
【姿勢】前向き、積極的、情熱的なプレーをする
 →5点(2月=4点、3月=3点、4月=3点、5月=3点、6月=3点、7月=4点)


【個】の部分はいよいよ残り試合数が少なくなってきたところでメンバーも固まってきていることもあって、それぞれのやりたいことを共有しあえている感覚がいくつかのインタビューで見受けられました。

(チームの結果がついてきているが、岩尾選手はどんなところにはチームの良さを感じているのか?)
岩尾「いろいろな選手の中に、迷いはなくなっていると思います。改善するところはありますが、チームでどこに攻めたい、どこを守らなければいけない、という整理はついてきているという感覚があります。オートマチック性が出てきたということは、今の良いところだと思います」

(ダヴィド モーベルグ選手との関係性が試合を重ねるごとに良くなっているという手応えはあるか?)
酒井「モーベルグ選手とはやりやすさをいつも感じています。プレースタイルがかなりヨーロッパ的ですし、僕もヨーロッパに9年いて、まだJリーグに対応しきれていない部分もありますので。ただ、普段対戦しているのはJリーガーですし、しっかりと対応していかないといけないと思っています。まだまだ改善していけなければいけません」

(モーベルグ選手はボールを預ければ打開してくれるという信頼感があるのか?)
酒井「2人で崩すところと、彼1人で崩して僕が後ろにいるところ。そして今は行かないというところの感覚が似ています。ですので、試合中に驚くことがありませんし、そういう感覚が共有できていると思います。最近はそこに伊藤(敦樹)選手や松尾(佑介)選手、岩波(拓也)選手たちが絡んできて、空間のコンビネーションがうまくいっていると思いますので、時間のロスがあまりないと思います」

誰が出ても上手くやれるようにというのは当然の土台としてあるものの、その土台の上でさらにレベルを高めるのは個々の質であり練度になってきます。


【チーム】の部分でも手倉森さんがトランジション局面について褒めていましたが、攻守両面でポジション交換をしながらもバランスは崩さずにプレーできていることで上手くトランジションが出来ているように見えます。

(相手の手倉森 誠監督が「レッズの方が切り替えが速くて圧倒された」と話していたが、攻守の切り替えで意識していること、感じていることは?)
敦樹「ここ数試合、攻守の切り替えはみんなしっかり意識できていますし、そこで相手を圧倒できているのかなと、やりながら感じています。今は攻守の切り替えができているからこそ攻撃する時間も長くなっていると思いますし、そこからチャンスも作れていると思います。今はみんながそこを意識できていることが、この結果につながっている大きな要因の一つだと感じています」


トランジションが上手くいっている一つの要因としてビルドアップで嫌なボールの失い方をする回数が減ったというのが挙げられると思います。まずは岩尾のインタビューの引用を。

(岩尾選手がアンカーでボールを引き出したり、さばいたりするときの受け手のアクションは「こういうところにいてほしい」ということが増えているのか?細かい質がチームとして高まりつつあるのか?)
「ビルドアップに関しては、立ち位置を含めてアクション、先ほど『ちょっとした気遣い』という言葉が出ましたが、仲間を助けるための1メートル、2メートルにこだわってポジションを取ってくれる選手はシーズンの初めよりも確実に増えたと思います。僕がボールを受けても滞りなく次に届けられるシーンが増えてきました。西川(周作)選手が僕にボールを預けてくれるシーンも開幕当初から比べると回数は相当増えていると思います。」

シーズン序盤はボール保持者とそのサポートという2人の関係性になっていたり、自分以外でボール保持者を誰がサポートできているのかという繋がりが掴めていなかったのではないかと思います。

4月ACLの大邱戦の図。ショルツへのサポートが足りないと思って岩尾が動いてしまっている。

4月のACLの際に岩尾と平野のプレースタイルの違いについて「岩尾は味方とのつながりで活きる」「平野は相手との駆け引きで活きる」といったニュアンスのことを書いたのですが、岩尾は恐らくボール保持者とそこをサポートする別の選手の繋がりを感じて、サポートする選手のサポートに入れる(いわゆる「3人目」になれる)回数が増えているように見えます。

これは7月の清水戦の時に作った図ですが、西川にボールを渡した後に岩尾は小泉が西川の縦方向のサポートに入れていることを感じているので、自分が宮本に消されていてもそれを気にすることなく西川の次の小泉に対するサポートへ動けています。岩尾のこのアクションはとても良いのですが、それは岩尾以外の選手もしっかりポジションを取れているからこそ、岩尾がボール保持者のサポートを取る役割から解放出来ているとも言えます。

出し手と受け手だけの関係になると一手ごとに人数が必要になって、その結果ビルドアップに人数が必要になるというのがボール保持を主体に構築したいチームの最初の悩みだと思います。それは、適切なポジションに人がいるだけでなく、そこで誰と誰が繋がっているのかを感じて、二手、三手先で落ち合うためにポジションを取りなおすというアクションをチーム全体で起こし続けられることによって解決されていく気がしますし、今の浦和はそれが出来つつあるからビルドアップ隊を最小限の2CB+1でやれる場面を増やせているのだろうと思います。


最後の【姿勢】の面について、名古屋との2試合目はちょっとな・・という感じですが、その次の試合で見せたスタンドの姿勢が選手たちをグッと引き上げたように思います。

ACL準決勝で延長後半に失点した直後の「PRIDE OF URAWA」が始まった瞬間とそこからスタジアム全体へ大きな手拍子が広がっていった景色と音はずっと忘れないと思います。苦しい時こそ今自分に出来ることを最大限に発揮したあの姿勢は「前向き、積極的、情熱的」というコンセプトそのものでした。


◆9月の試合予定

9/3 (Sat) J1 第28節 (A) vs 鹿島 (44pt / 12 / 8 / 7 / +5)
9/10 (Sat) J1 第29節 (H) vs 柏 (43pt / 13 / 4 / 10 / +4)
9/14 (Wed) J1 第26節 (H) vs C大阪 (41pt / 11 / 8 / 6 / +10)
9/17 (Sat) J1 第30節 (A) vs 湘南 (26pt / 6 / 8 / 11 / -11)
9/21 (Wed) ルヴァン杯SF 1stLeg (A) vs C大阪 (41pt / 11 / 8 / 6 / +10)
9/25 (Sun) ルヴァン杯SF 2ndLeg (H) vs C大阪 (41pt / 11 / 8 / 6 / +10)

※浦和 (35pt / 8 / 11 / 6 / +12)
※()内は8/31時点でのリーグ戦の 勝点/勝/分/負/得失点差

8月が終わったところではありますが、リーグ戦はもう残り9試合です。試合数にばらつきがあるので正確な勝ち点差は計りにくいですが、9月の最初の3試合はいずれも自分たちより上位にいるチームです。

昨年も同じくらいの残り試合数で上位チームとの対戦が連続し、勝てばその分だけ差を縮めることが出来るという状況の中で勝ち点を積み上げきれずにリーグでのACL出場権獲得を逃しました。特に、神戸と鹿島との2試合については「強さ」を強調して神戸は縦へ、鹿島は横へ積極的にプレッシングをかけてきてそれに屈しています。


リーグ序盤の出遅れは痛かったものの、超がつくほど混戦となった今季のJ1はまだ浦和にもACLに繋がる3位が狙える状況です。一応、今大会のACLで優勝すれば来季のACL出場権(プレーオフからですが)は得られますが、今季のうちに決着をつけたいし、今季のメンバーで勝ち取った上で来季のACLに挑みたいです。

西川も「ACLに関しては、浦和レッズの名が常にある大会にしたい」と話していた通り、やはり浦和がいるべきはアジア、そしてその先の舞台でありたいと思いますが、そのためには日常のリーグ戦でそこに出るための権利を勝ち取り続けなければいけません。

大きな試合で力を発揮してきた歴史と、反動からなのかその直後の日常の試合では力が緩む歴史を繰り返してきたのがこのクラブですが、本当に強いチームは大会の規模や準決勝、決勝といった舞台装置が無くても自ら気持ちのアクセルを踏んで闘うことが出来ると思います。

第一次三年計画がいよいよ佳境に入ってきた中で、残念ながらリーグ優勝は現実的ではなくなってしまいましたが、間違いなくチームとして正しい方向に強化で来ているというのは実感としてあると思うので、それにふさわしい試合をして力を証明してもらいたいです。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

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