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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#31. 2020 J1 第25節 vs大分 レビュー&採点~

※こちらの記事では試合レビューに加えて試合後に行った三年計画に関する採点アンケートの結果を記載しています。採点アンケートの内容、意図については以下の記事をご参照ください。


10月は3勝1分1敗、さらに内容も向上が見られた浦和。ただし、その相手はいずれも4-4-2が基本フォーメーションの相手(柏のみ後半途中から5-3-2でしたが)であり、5バックの相手との対戦となると9/23の清水戦までさかのぼります。ここ数試合でついにピッチ上で積み上げてきたものを表現できるようになってきたことを、果たして噛み合わせの悪い相手に対してどこまで出来るかというところがこの試合で浦和に突き付けられた課題でした。

対する大分は他のチームが前週に行った24節をFC東京がACLに参加する関係で9月中に消化済みだったため、2週間空いたところでの試合。知将・片野坂監督率いる大分がこの十分すぎる準備期間の中でどのような人選、スタンスで臨んでくるのかが怖くも楽しみな試合となりました。


両チームのメンバーは以下の通りです。

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大分の方でのサプライズはGKにしばらくスタメンを外れていた高木を起用してきたところでしょうか。8月の前回対戦時に出場していたムンキョンゴンはDAZN中継中に解説の増田氏が指摘していた通り、セービングの部分でまだ不安定な部分があり(前回の浦和のホーム戦でも処理ミスで失点)直近3試合を1分2敗で来ている流れを変えるべく、これまでチームで絶対的な地位を確立してきた高木に戻してきました。

そして、左WBにスタート時点ではCB起用が多い三竿を起用。左CBの刀根と合わせて好調のマルティノスをいかに封じるかというところでの人選だったと思われます。

浦和は前節からスタメンは入れ替えず。出場停止明けの宇賀神はベンチスタートとなりました。また、前節ベンチ外の関根が復帰し、怪我明けの青木も継続してベンチ入り。


◆アクションを強要する初期配置

大分は3-4-3vs4-4-2という初期配置の段階で生じる噛み合わせの悪さをそのまま利用。CHの2人が浦和の2トップの背後で待機することで最終ラインに3CBvs2トップという数的有利を確保させます。

そして0'50にフリーでボールを持った岩田から山中の裏のスペースへロングボールを蹴り出すことで、浦和に対して「プレッシングに来ないならロングボールで一気に裏を狙っちゃうよ?」とジャブを一発打ちます。

これに対して浦和は3'58に岩田から高木へのバックパスが出たところでマルティノスが縦スライドしますが、ここは高木がボールを高澤まで飛ばしてプレッシングを回避して高澤が落としたボールを三竿がダイレクトで裏のスペースへ送ろうとしますが繋がらず。

5'16も岩田→鈴木→高木とボールが下がっていくのに対して浦和はマルティノスと橋岡がそれぞれ縦スライドします。高木からパスを受けた刀根が知念をめがけてボールを蹴りますが、槙野が出足良くボールをカット。
大分の右サイドからのバックパスに対して、マルティノスと橋岡の縦スライドを素早く行って2回連続でボールの回収に成功しました。

6'02は今度は三竿から刀根、鈴木とボールを下げていくのに対して、浦和は汰木が縦スライドする姿勢を見せます。ここで鈴木が隣の岩田ではなく1つ飛ばして外の松本へパス。岩田に対してプレッシングに出ようとした汰木の背後を使います。ここはすぐに汰木が松本まで寄せて前進を阻みますが、松本が岩田にボールを下げるとスルスルと前にポジションを上げ、汰木はそのまま松本について行く選択をします。

一度高木まで戻してから再び岩田がボールを受けると、縦スライドで対応するはずの汰木が松本に引っ張られてポジションを下げているので岩田はフリーの状態。ここから30mほどボールを運び、さらに三平が汰木とエヴェルトンの背後に立って岩田のドリブルに合わせてバックステップで距離を保ち、汰木とエヴェルトンの注意を引きます。
これによって外に開いている松本が空き、さらに松本は浦和の中盤ラインを越えた位置に逃げていくことで岩田→松本のパスで2ndラインを突破して山中が対応するために出てきたスペースを狙います。

8'28も鈴木が刀根からパスを受けたところで汰木が縦スライドしようとすると、鈴木は岩田を飛ばして松本へ。松本に対して山中が縦スライドしますがプレッシングが間に合わず、さらに羽田が素早く内側でサポートしており、松本→羽田と渡って羽田は前に出てきている山中の背後のスペースへボールを送ります。ここは誰もボールに反応できませんでしたが、大分は立て続けに浦和のアクションを見ながらボールを前に送れたことで手ごたえを感じたのではないかと思います。

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さらに、11'30に松本から、12'35には岩田から逆サイドで幅を取る三竿まで大きなサイドチェンジのボールを届け、浦和に対して縦だけでなく横の揺さぶりも加えて浦和陣内に侵入していきます。

そして、23'30には三竿に対して縦スライドした橋岡の背後を高澤が抜け出してシュート。西川がしっかり足を抜いてセービングしたことでここは防ぎましたが、浦和にアクションを強要する配置から決定機を作り出しました。

さらに27'15に岩田がプレッシングに来た汰木を外すと一気に三竿までロングボールを届け、知念と高澤がゴール方向に走って浦和のDFを引っ張ったためバイタルエリアが空き、ここに三平が遅れて入ってきてシュート。惜しくも枠を外しましたが大分の攻勢が続きます。

それでも浦和は後ろに引いてブロックすることは選択せず、30'30のように汰木、山中が岩田、松本に早く寄せて前方向にボールを出させずに押し返すという強気の姿勢を見せ続けます。


◆大分はビルドアップ対策も万全

浦和の得点力向上の要因として、ビルドアップ段階で岩波と槙野が味方とも相手ともしっかり距離を作って横パスをオープンな状態で受けられることが多かったこと、後ろの選手が余裕を持ってボールを持つことで前の選手がポジションを取る時間を確保できたこと、ボランチがピッチ中央に立つことで全方位に対して素早くサポートに出ていけたことが挙げられます。

さらに左右で状況に応じでSB、SHのどちらが入るかは変わるものの、ピッチの幅をしっかり使うようなポジショニングを取ることで相手の最終ラインの陣形に隙間を作ることも出来ていました。

これに対する大分の対策は以下の図のようなイメージ。

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三平はほぼ槙野を意識したようなポジションを取り、横パスやバックパスが槙野に入った時には素早く寄せて余裕を奪います。急いでボールを離さざる得なくなると前の選手がポジションを取れていない状態でボールが来てしまうので、呼吸が合わずにボールがつながらないシーンが多発。

後ろでボールを持った時に時間を作って、前の選手がポジションを取る時間を確保してから一気にスピードを上げるたいのが今の浦和です。
DAZNの中継内10'42に橋岡から槙野へ横パスが出た時に大槻監督が「マキ、止まれ!」という声が聞こえたように、ボールの動きを一度止めて、全体がポジションを取りなおす時間を作ろうとするシーンもありましたが、なかなか大分のプレッシングを止めるポジショニングが出来なかったり、大分がブロックを構えた時の対応が上手く出来ませんでした。

また、知念の背後で長澤やエヴェルトンがボールを持とうとしたときには羽田と長谷川が素早く寄せてここで前を向かせないことを意識していました。
これによって、ボール保持者へのサポートから守備に切り替わった時にはネガティブトランジションの先鋒隊として動きたい長澤とエヴェルトンがボールに関わった時にすぐに潰されることが多く、中盤での優位性を取ることがなかなかできませんでした。

また、5バックの特性上、幅を取る相手に対して4バックであればSBが外に出て行く動きになりますが、5バックの場合はWBがそのまま真っすぐ対応でき、ハーフレーンも左右のCBが少し横スライドするだけで埋めることが出来ます。幅を取ったマルティノスに対して三竿が素早く対応し、内側のスペースも刀根がスライドすることで流れてきた武藤には使わせないということが出来ていたと思います。


思うようにボール前進が出来ない浦和は時間が進むにつれてボールを失いたくない、確実につなぎたいという意識からかお互いの距離がどんどん近くなっていきます。ですが、味方同士の距離が近くなるということは相手も狭いスペースで守備が出来ることにもなってしまうため、かえって浦和はボール保持が難しくなっていきます。

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この図は34'03のシーンでのポジショニングです。大分のプレッシング網の幅の中に岩波と槙野が収まっているのでここの横パスではプレッシングを外すことが出来ず、脇にいる山中も相手からの距離が近いだけでなく槙野から角度がありすぎるため、この位置でボールを受けるときは半身あるいは後ろになってしまい前を向くことは困難です。

また、36'40~のビルドアップでは大分が引いてブロックを構えていたため、槙野と岩波はフリーでボールを持てていますが、ここが運んだり相手を引き付けたりせずにボールを離したため、サイドでフリーになっていた山中にボールが届くまでに松本がプレッシング出来てしまい、前進経路を塞がれてしまいました。

前半のボール保持率は 50% vs 50% でしたが、その中身は自分たちの準備してきたもの、意図しているものを表現できた大分と、そうでなかった浦和と言って良いのではないかと思います。そうした中で失点せずに前半を終えられたことは浦和にとってポジティブだったかもしれません。


◆ハーフタイムでの修正

「攻撃のクオリティーを上げるため、センターバックからしっかり作っていこう」という大槻監督のハーフタイムコメントの通り、後半が始まって早々に浦和のビルドアップでのポジショニングに変化が出ます。

46'24は橋岡が最終ラインに残り、岩波→槙野とつないで山中に横パスが出た時も山中は松本から早めに離れて前向きにボールを受けることに成功しています。

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さらに、この山中が武藤をめがけて送ったボールを跳ね返された後の競り合いでボールを拾ったエヴェルトンが西川までボールを下げた時も岩波が右に開いてボールを受けて槙野と距離を取った状態を作ります。これによって大分のプレッシングを止めると、ハーフライン付近まで引いたマルティノスに食いついていた三竿の背後に武藤が走り込み、岩波もそれを見つけてロングボールを送ります。
ここは刀根にクリアされますが、前半にはなかなか見られなかった最終ラインでもピッチの横幅を広く使って大分の出方を見てからのボール供給がされました。


最後尾のポジションバランスが取れた状態であれば、47'20のように前方でボールを奪われてもすぐに相手の前向きな選手に対して蓋をすることが出来、カウンターを防げていました。

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50'25には橋岡から岩波へバックパス、岩波から槙野へ横パスがつながっていくと、前半と同様に三平が槙野に対してプレッシングを開始。前半と違ったのは岩波から槙野にパスが出た瞬間に山中が三平から離れて少し外側に出つつ、後ろに下がりながら槙野への横サポートの位置へ移動。松本からしっかり距離を取ってボールを前向きに受けることが出来ました。

こうして最終ラインが前向きにボールを持てるシーンは増やせたものの、大分は3CBと2CHが中央エリアを固めており、ここを人とボールの動きで崩すことはなかなか出来ませんでした。
61'14にはマルティノスが一度引いた位置から三竿の裏のスペースへ抜け出しますが、刀根が素早く対応して防いでいます。各チームともマルティノスに対してはきっちり左足の前に立って右足で縦に運ぶことを誘導したような対応をしており、単純な1vs1を作るだけではなかなか突破が難しい状況になっていました。

◆交代策の効果は果たして

浦和は67'30に2トップを杉本とレオナルドに入れ替えます。スペースを見つけてプレーをするタイプの2人から単純な高さやゴール前の一瞬の駆け引きという個人による理不尽さ突き付ける交代策。

大分もこのタイミングでボランチを長谷川から島川へ交代。この試合では攻撃においてはボランチを経由せずにCBから浦和のサイドを裏返していくボールが効果的であったことで長谷川のキックを活かすシーンが多くなかったことや、守備においての肝は知念の背後をボランチが積極的に潰しに行くことだったので、そこの運動量をリフレッシュという意味合いがあったのではないかと思います。

交代策第一弾の成果は、浦和は杉本がポストプレーをしたり中盤より少し前の位置でボールを持てるシーンは出たもののゴールを脅かすところまでボールが運べない悩みは継続して、レオナルドになかなか有効なボールが入らないまま進んでいきます。

一方、大分は島川がビルドアップのところで長谷川よりも最終ラインに関わる回数が多く、浦和がSHを縦スライドして3vs2を3vs3にしようとする動きに対してさらなる+1を作って浦和のプレッシングを止めることに成功しました。


浦和は78分にさらに選手交代して関根と宇賀神を投入して左サイドを入れ替え。非保持でのサイドの選手は縦スライドしていくことを継続。プレッシングの手を緩めるなというメッセージが入っていたのではないかと思います。

大分も81分に一気に3枚替え。田中、野村をシャドーに、高山を右WBに入れてリフレッシュ(松本が左WBへ移動)して、プレッシング強度とゴール前へのスピードを高めに行きます。


浦和の交代策が功を奏したのは83'03に西川からのフィードを杉本が鈴木を制しながら胸でトラップしてレオナルドへ渡し、抜け出したマルティノスへスルーパスしてシュートしたシーン程度。それ以外にも何度も杉本を狙ったロングボールが後方から飛びますが、なかなかいかせるシーンは訪れず。

逆に87'38にはエヴェルトンがプレッシングに出たところを羽田に剥がされると、その背後で宇賀神、槙野が次々と剥がされ田中が抜け出してクロス。野村がヘディングシュートを放ちますがこれはバーの上部を直撃してそのまま枠の外へ。

結局両チームともゴールネットを揺らせず、スコアレスドローで試合を終えました。


◆採点結果

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今節もアンケートにご協力いただいた皆さんありがとうございました。直近の試合が良すぎただけにそこからの落差を考えると辛めの点数を付けた方が多かったのかなと思います。

サッカーは常に相手があって成立するものですので、自分だちがどうだったという視点だけでなく、相手がどうだったというところからも考える必要があると思います。そう考えると、準備期間たっぷりの大分が浦和の4局面の移行をスムーズに行わせないためにはどこから断ち切ればよいのかというのがしっかり準備され、表現されていたと思います。つまり、浦和が相手の対策へのさらなる対策が必要になる段階に来たということを片野坂監督は示してくれたわけです。

やりたいことはこういうことで、それを表現しようとはしている。でも、相手がそれをさせないための策を取ってきたということで、プレーコンセプトが表現できていたかという問いに対しては可もなく不可もなくというのが今節に対する評価として妥当なところなのかなと思いました。


では、相手が対策してきた中で、それをチームの原則に基づいて上回るためにはどうすれば良いのかというところになってくるわけです。

個人的にはレビュー部分でも言及しましたが、ボール保持、特にビルドアップの局面で全体のポジションを整える前にボールを前に送ってしまった、送らざるを得なくなったことが試合全体を難しくしてしまった要因ではないかと思います。

ポジションが整う前にボールが前に出て行くと、ボールが収まってもサポートの距離や角度が伴わないため繋がらず、ボールを奪われた時のネガティブトランジション、非保持への移行でもボール保持者に対しての第1守備者が定まらずに大分のボール保持を安定させてしまいました。


ビルドアップでポジションを整えるための要素として、最終ラインで数的有利を作って相手のプレッシングを止める、プレッシングが止まったところでゆっくりボールを運ぶことで相手の注意を引き付けつつ次の局面へ数的有利を継続させるという手段があります。
数的有利を作った時に相手のプレッシングが止まらなかったとしても、適切な横サポートの位置を取っていれば横パスで相手のプレッシングコースから外れた位置にボールを出すことが出来るので、そこから前進することが出来ます。

前半は数的有利を適切に作ることがなかなか出来ず、後半は適切なポジショニングで数的有利を作れたシーンは出てきたものの、プレッシングを止めた大分に対してボールを運ばずに離してしまったことでボールの移動中に大分の選手のプレッシングが間に合ってしまうシーンが多発しました。

試合の流れの中で書いた36'40~のシーンで言うと、三年計画のプレーコンセプトに従えば、槙野が「運ぶ」ことで局面を有利に進められた可能性は十分にあったと思います。

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SH、SBはどちらが内でも外でも、前でも後でもプレーすることが許可されていると思いますので、松本の前後のスペースはどちらが使っても良いと思います。槙野が「運ぶ」ことで大分の右サイドの三平、松本に対して、槙野、汰木、山中という2vs3の状況を作ることが可能になります。

ここ最近は、運ばずとも相手が4バックで浦和が幅を取れば守備に隙間が生まれるので一発発射すれば隙間を広げることが出来る状況でしたが、大分は5バックで幅をしっかり押さえられているので、配置を取ってボールを発射するだけではなかなか難しいです。

他のシーンでは運んでからボールを離しているシーンもあるので、これをもっと選手自身の中で体系化して再現性高くプレーできるようになると、相手に押されても引かれても対応しやすくなるので、もう1段階レベルアップしてくれることを期待しています。


非保持のところでも、知念が試合後に

--攻撃面で手ごたえを感じた部分もあったのでは?
練習で監督から言われた狙いを試合で体現できたのは自信にもつながったので、継続したい。

とコメントしたように、3-4-3vs4-4-2の噛み合わせの悪さに対してサイドでの積極的な縦スライドを試みましたが、なかなかボールの前進を制限したり、奪ったりすることが出来ませんでした。大分としてはロングボールを入れることもやぶさかではないというスタンスでしたので、プレッシングに対して蹴らせて拾えた部分がどれだけ意図的だったのかはよく分からないかなというのが正直なところです。

とは言え、前から制限をかけたいという意図は見えましたので、それを尊重するのであれば、全体をさらにコンパクトにして寄せる対象の相手に対しての距離を近づけたところからプレッシングを開始するようにしていくのかなと思います。


次戦も3バックをベースとする広島との試合になります。サッカーの中身は大分とは異なりますが、守備での噛み合わせの悪さや攻撃での相手のズラし方についての課題は引き続き問われることになろうかと思います。
中2日ということで課題改善のためのトレーニングを行う時間は取れないと思いますが、突き付けられた課題に対する答え合わせの機会がすぐにやってくるということで、選手たちの戦術メモリーを蓄えるチャンスとも言えます。

まだまだ発展途上の三年計画ですが、1つ1つの積み上げを見逃さないように引き続き観ていきましょう。
次節も採点アンケートへのご協力をお願いします。

では、また。

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