見出し画像

三年計画の定点観測(2022年7月度月報)

◆前書き
昨年も書いてきた1か月程度の間隔で試合内容や会見のコメントなどを拾いながらクラブが提示した三年計画、コンセプトと照らし合わせて考えていく「定点観測」シリーズを2022シーズンも行います。


◆7月の戦績

7/2 (Sat) J1 第19節 (A) vs G大阪 △1-1
7/6 (Wed) J1 第20節 (H) vs 京都 △2-2
7/10 (Sun) J1 第21節 (H) vs FC東京 ○3-0
7/16 (Sat) J1 第22節 (A) vs 清水 ○2-1
7/23 (Sat) PSG Japan Tour 2022 (H) vs PSG ●0-3

※リーグ戦 2勝2分0敗 8得点4失点(+4)

今回は7月の月報と言いながら、7/16の清水戦で一旦中断期間に入ったことと、後述しますが7/30の川崎戦からACL準決勝まで連戦になっていることを鑑みて、PSG戦までを見て行きます。


2月の対戦は終始浦和ペースだったものの、岩尾の退場、その直後に中盤が1人いなくなったスペースからシュートを打たれて失点と、自ら勝ち点を手放し続けた序盤戦を象徴するような試合でした。あの時点では片野坂さんはお互いの成熟度というか、浦和のビルドアップの部分をリスペクトしたスタンスになりましたが、この試合では自分たちでボールを持つ、そのために手前にボールを扱える選手を置く、というスタンスに変わりました。

リカルド体制での浦和の非保持のスタンスとしては4-4-2でブロックを作ったら基本的にはその形を崩さないので、手前に下りてボールを受けに行く選手に対してそのまま人をつけていくということはあまり行いません。なので、ガンバが3CB+奥野の4枚で形成するビルドアップ隊に加えて、齊藤と石毛が左右のハーフレーンを上下する動き、特に手前に引いていく動きによってなかなかボールを取り上げることが出来ませんでした。

プレッシングでボールを取れないのでプレーエリアは浦和陣内になることが増えますし、そこからボールを取れて保持に入っても今度はガンバがブロックを作るのではなく人を捕まえに来るようにプレッシングをかけてきて、なかなかそこを外すことが出来ずに苦しみました。

マンマーク気味に見られているので、パスを繋いでいこうとしても出し手と受け手の2人だけでなく、その受け手からボールを受ける、いわゆる「3人目」の繋がりまでを作った上で縦+横の2本のパスを使って相手を外していこうとするアクションはあったものの、そこへのパスがズレたり、3人目で受けた選手が前に出ていけなかったり、いるべき場所にいることが出来ていてもボールスキルの面で上手くいかない場面が多くなりました。

上手くいかない部分はハーフタイムでの人の入れ替えで解消を図りましたが、結局は中2日だったガンバ側の足が止まってきたことで浦和が押し込めるようになってきて、66分には岩波を下げて松尾投入、代わりに誰かを最終ラインに落とすことはせずCBショルツとSB酒井、大畑の3バックというファイアーフォーメーションを敢行し、その中で何度も仕掛けた結果、最後に松尾がPKを獲得してなんとか勝ち点1を取れたという展開でした。

試合後にリカルドが話していた通り、相手が前に出てくる守備をするのであれば、それをしにくくするために裏を狙える選手を用意する、そこを使うということもしていかないと、相手はどんどん前に出てきてしまってより一層手前から繋ぐことが難しくなります。そういう部分で、同じ課題の中でずっともがいてしまったな、という試合でもありました。

(前半、中2日で試合を迎えたガンバ大阪があれだけ高い位置からプレスにきたのは想定外だったかもしれないが、立ち位置をうまく調整できなかったのか、個々の選手の技術的な問題で苦戦したのか?)
「正直なところ、両方があると思っています。ボールロストに関しては、今回想定はしていましたが、ガンバ大阪が激しく前から来るところに対し、球際の部分を持っていかれてしまいました。ライン間のところも、相手は人が来るディフェンスでしたので、そこをつぶされる形になったと思います。ですから前線を1枚増やし、相手のセンターバックが前に出てきづらくなるようにしながら、空いた逆のスペースをうまく使っていければと思っていました。最初に明本(考浩)が前線で1人でいるときは、ライン間のところをうまく取れませんでした。それは相手とのかみ合わせもあります。技術的なところももちろんあると思いますが、立ち位置のところでも、相手にうまくかみ合わされるような形になっていました」


ガンバ戦が勝ち点0でもおかしくない試合を引き分けに出来たという試合とするなら、中3日での京都戦は勝ち点3を取らないといけない試合を引き分けにしてしまった試合だったと思います。

京都もハイプレッシング志向のチームではありますが、ガンバのように誰が誰に出ていくというところまで決め打ちしているわけではなく、浦和の方も2トップを明本、松尾というどちらも裏を狙えるタイプの選手にすることで、相手がチーム全体で前向きに守備をしようとするのを裏返せるよ?というのを匂わせに行きました。

それによって最終ライン+川﨑とそれより前の選手の間にギャップが生まれる場面が何度もありましたし、松尾が裏に抜け出してPKを獲得するなど狙っていたプレーは表現できていたのではないかと思います。

明本がコンディションの問題からハーフタイムで江坂と交代しますが、江坂が相手の中盤の背中でボールを受けようとするのであれば、代わりに敦樹が前に飛び出していくというバランスの取り方が出来ていて、そういう点でもチームとして裏のスペースは狙い続けるという姿勢を示し続けられたと思います。

(今日は走る、闘うなど、オープンな状態でできる選手を先発に並べていた。もう少し暑くなる想定をしていたかもしれないが、ボールを持てる選手をベンチに残して試合の最後をコントロールしたい意図も感じられた。うまくいった部分や予想外になった部分は?)
「縦の推進力を生かそうと思っていました。その部分で、相手の背後のスペースをうまく使えていたと思っています。実際にチャンスもそうした形でいくつか作れていました。ただ、最後に決めきることができませんでした。暑さは考えていなくて、とにかく我々は、京都が何をされたら嫌なのかを狙っていました。背後のところでチャンスを作れると思っていたので、今回は縦に行くところを考慮して構成しました」
(今日は4-4-2で2トップで入ったので、やりやすさを感じたのではないか)
松尾「1トップだと自分が流れてしまうと、ポジションにいないといけないと言われてあまり動くに自由がなかったですけど、相手と駆け引きしやすくなりましたし、相方がいることで、サイドとか中央でコンビネーションを出せるようになったかと思います。」


この試合で勝ち点2を落としてしまった要因の1つに連続失点が挙げられます。その局面だけを切り取ればCKであれだけピンポイントなボールを入れられてしまった、直後のビルドアップで見つけたスペース自体は良いもののパスがズレてしまった、という2つの失点でしたが、これはどちらも今浦和が採用しているスタンスの中にあるリスクのネガティブな面が出てしまったということだろうと思います。シーズン通してみた時にはこういう失点の仕方もあるだろうな、というのが残念ながら1つの試合で、しかも連続して起こってしまったという印象です。

この失点を取り上げて「だからセットプレーはゾーンではなくマンツーマンで守るべきだ!」「だからもっとセーフティに蹴っ飛ばすべきだ!」という方法でこのリスクを回避するのではなくて、今やっていることをもっと高いレベルでミスを少なくするという方法でリスクを受け入れつつ軽減させるべきだろうと思います。前者についてはこれまでもゾーンでの対応を積み上げたことで失点が抑えられていますし、後者はこの試合中にも、この後の2試合でも見られた通り、相手の矢印を見ながらボールを繋いでいくことで利益を得ている訳ですから。

ただ、特に2失点目については失点直後に自分たちの技術ミスで招いてしまったわけですから、失点した後こそきちんとプレーできるメンタリティを持てないといけません。本人たちの感情については想像することしか出来ませんが、起きてしまった事象からはそこが足りなかったのかな?というのは安直ながら推測してしまいます。


これまで抱えていたビルドアップでの人数のかけ方や相手ゴール前に入った時に狙う場所の共有といった課題について、ついに結果という目に見える形での成果が表れた試合でした。

ビルドアップでの人数のかけ方についてはトップ下の小泉がビルドアップ隊をサポートしたときに後ろが重くなりがちというのが昨年からも起こっていた課題ですが、京都戦で江坂が入った後と同様に敦樹が前に出て行ったり、大久保が前に出て行ったり、下がる選手と上がる選手の配分が上手くいっていたと思います。

それだけでなく、最後尾の一列前、相手のFWの背後から中盤でプレーする選手によるサポートのアクションの質が高くなっており、それによって最初は相手を牽制するための立ち位置を取りながら、CBからボールが出た次の選手に対しての受け手になれるポジションを取る準備も出来ていて、1つのポジション、1人の選手がボールのある場所によって異なる役割を担えているので、他の場所に人数を使えるという言い方も出来ます。

これによって前にきちんと人数を置けるようになり、その次のステップとしてゴール前のどのゾーンに人が入っていくのかという点についても、その局面ごとで最もゴールに近い人からニア、ファー、マイナスの3点を押さえていくという優先順位の共有が出来ていたと思います。

ゴール前への入り方では先制点のシーンが分かりやすいですね。一番ゴールに近い小泉がニア、次のモーベルグがファー、3人目の岩尾がマイナスの位置です。

また、雑感で取り上げた先制点の10分前のシーンはこの2つが綺麗に表現できていた場面でした。

着実に結果を出し始めた大久保ですが、ちょうど試合前日にLineNewsで彼の記事が出ており、それを読むと悩みながらも少しその霧が晴れてきているというのを感じます。

「チームとしてやるべきことに比重を置きすぎてしまっていたというか。真面目に、忠実にやろうとしすぎてしまっていたんです。それも自分のよさだとは思うのですが、どちらかというとそればっかりになってしまって、自分がしたいプレー、やるべきプレーに、自分のなかで制限をかけてしまっていたように思います」
「仕掛けるプレーは自分にしかできないこと。『考えすぎずに楽しめ』と言われたことと、あのアシストがタイミング的に重なったというか。強度の高い相手との対戦ではプレースピードも上がりますし、必然的に考える余裕が奪われ、無心でプレーできたこともよかったんだと思います」
「チームとしてやるべきことをやらなくなったわけではなく、前までならばそれだけで終わってしまっていたところに、プラスアルファして自分の良さを出していこうと考えられるようになりました。型にはまるのではなく、自分にはドリブルがあるので、選択肢としてパスもあるなかで、自分で仕掛けるなど、ひとつ引き出しが増えたように思っています」


さらに、上の図で表した場面のようにそれまでのボールを受けてからプレーを始めるのではなく、自分でアクションを起こしてボールを引き出せるようになっていて、これはプレシーズンのキャンプ中に彼が大久保から言われたことと重なります。

(数字を残す選手は最後のボールの受け手になることがうまいと思うが、そういう意識についてはどう考えているか?)
「トレーニングキャンプ中の最近の出来事ですが、岩尾(憲)選手と夕食を食べているときに、『どうやったらトモが良くなるかが数日やって分かってきた』という話をしてもらい、裏に抜ける動きを増やすことでゴールできる確率やゴールに近い位置でプレーできるかを教えてもらいました。昨日の日本代表の試合を見ていても、伊東純也選手は裏に抜ける動きが多かったのでゴールに近い位置でプレーしていたと思います。自分は足元でボールを受けようとするタイプでしたが、裏への動きも増やしていければ、もっとゴールを取れるのではないかと思います」


そして、こうした保持の局面での自信を清水戦でさらに深めることが出来たと思います。どちらも相手のプレッシングを外してボール前進する局面を作れていましたが、ビルドアップ隊の人数のかけ方という点で浦和の方がより少ない人数で前進できており、それによってラスト1/4のエリアでは相手の守備ブロックの内側から侵入出来ました。先制点も2点目も相手SBの内側、ハーフレーンからゴール前へ入っています。


清水のビルドアップに対してはガンバ戦と同様に後ろに人数をかけられると、それに合わせて人数を押し出していくわけではないので逃げ道を作られてボールを取り上げることはなかなか出来ませんでした。

なので、前半はモーベルグも前に押し出してプレッシングをかけていたものの、後半は4-4-2できっちり構えて、最後は相手のクロス砲撃に対して5-4-1へ変更するなど、ボールが入ってきたところで囲んだり跳ね返したりする方向へ変えました。外から見ているとボールがゴール前に入ってきてヒヤッとしてしまいますが、プレーしている本人たちは陣形さえ崩れていなければそう簡単にゴールを割れることはないという自信があったようです。


清水戦の前にはリンセンの加入会見があり、西野TDから編成面についての話がありましたね。

(西野TDに質問です。今季のメンバーリストを見たときに最前線でプレーできる選手の人数が少ないと多くの人が感じていたと思うが、リンセン選手はできれば1月の段階で獲得したかったのか?それとも戦っていくなかで今このタイミングで欲しいということになったのか?)
「難しい質問ですね。昨年の夏から追い続けていました。この冬のマーケットで違う選手を獲得するか、この夏にリンセンを獲得するかという難しい決断がありました。結果的にリンセン選手を夏に獲得するということを冬に決断し、本人を含めた交渉を続けてきました」

(西野TDに質問です。夏のウインドーはまだ開いているが、リンセン選手が最後の獲得選手なのか?)
「ヨーロッパのウインドーが開く夏ですので、若くて有能なタレントでヨーロッパへの移籍を希望している選手はたくさんいますし、そうした事象は予測できると思っていますので、そうしたことが起こった場合にはそこの補強を考えています。ただ、それを除けば一旦チーム編成は完了したと認識しています」

(西野TDに質問です。ここ数試合は終盤戦に向けて期待が持てる結果が出てきたが、現状をどう捉えているか?)
「今までも話してきましたが、方向性は間違っていないと今でも思っています。ただ、小さなマイナーチェンジはたくさん繰り返してきています。その中で個性を持った選手たち、そしてチームを一つの方向に持っていきたい監督、コーチたち、正直ぶつかり合いもありますし、葛藤もありますが、チームとして成長するためのプロセスとしては当たり前のことが起こっていると思います。その中でシーズンの最初から予想以上の予測していないことが起こったことも事実です。それは予想していない僕らの責任でもありますが、いろいろなことが起こるのがサッカーですので、そうしたものに対する個人の対応、チームの対応に予想よりも時間がかかったというのが正直なところです。ですので、リンセン選手を夏に獲得することは計画どおりでしたので、それまで何とかJ1リーグの前半、3位以内を目指す場所を維持することを目指していましたが、時間がかかってうまくいかなかったということは結果としてそのような状況になっています。ただ、方向性は間違っていませんので、まだまだこれから盛り返していけると考えています」

CFの枚数が足りていないというのは誰の目にも明らかでしたが、だからといって数合わせで適当な選手を取ってきてもそれは必ずしもチームの総和を上げることにはならない、昨年からの積み上げもあるし前半戦は首位から10ポイント差くらいの位置になるかもしれないが後半戦でより得点力を上げてブーストをかけていく、というシナリオを思い描いていたのではないかと思います。

それが「予想よりも時間がかかってしまった」、思っていた成績に追いついていない、という部分の苦悩については次項でLineNewsでの岩尾の記事と合わせて考えていきたいと思います。


最後にはプレシーズンでツアー中のPSGとの試合がありましたが、この試合の2日前にリカルドがコロナ陽性となり急遽小幡コーチがこの試合を指揮することになりました。

試合自体は前後半で岩波、知念以外のメンバーを入れ替えて、出来るだけ多くの選手にプレーさせたいという意図があったようです。清水戦の前の定例会見からリカルドがそのようなことを言っていたので、あらかじめチームとしてそういった点は共有されていたのでしょう。

(清水戦後の2週間をトレーニングキャンプのような使い方をしたいと言っていたが、その間に行われるパリ・サン=ジェルマン戦をどのような試合にしたいか?)
「(リオネル)メッシや(キリアン)エムバペ、ネイマールなどがいる高いレベルのチームとの試合になりますので、全員にプレーしてもらいたいです。そのゲームで経験を積みながら楽しんでもらいたいと思います。今は清水戦に集中しているので細かくは考えていませんが、そのように捉えています」
(この試合ではプレータイムを優先して考えていたのか、この試合を勝つために後半5バックにしたのか?)
「両方ありました。プレータイムはあらかじめ考えていて、出場機会がなかった選手たちがこういう緊張感のあるゲームを経験していくというのは、今後のチームの底上げとしてすごく重要だという話をスタッフ間でしていました。プレー時間に関してはある程度決まっていました。」


試合自体はやはりPSGの選手たちの個人戦術や身体能力の部分で上回られることが多かったですね。序盤は外切り気味のプレッシングがハマって高い位置でボールを奪ってショートカウンターのような場面を作れていましたが、後半に5-3-2、5-4-1にしてからは特に非保持で前向きなアクションが起こせなくなったのでカウンターに出ていこうとしても後ろが追いついてこないからやり直したり、強行突破しようとしても数的不利なので打開できなかったりと、なかなか得点の匂いは生み出せませんでした。

何より、後半の頭から出場したリンセンが10分足らずで負傷交代してしまったのはとても心配です。本人としても相手がPSGであることだけでなく、浦和に加入して最初のゲームですし、6万人の観衆がいる状態ということで、大原でのトレーニング以上に力が入ったのではないでしょうか。とにかく、無理はせず、とはいえ少しでも早い回復を待つばかりです。


◆コンセプトは表現できていたか

※各項目5点満点
【個】個の能力を最大限に発揮する
 →4点(2月=2点、3月=3点、4月=3点、5月=3点、6月=2点)
【チーム】攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする
 →4点(2月=3点、3月=3点、4月=3点、5月=4点、6月=2点)
【姿勢】前向き、積極的、情熱的なプレーをする
 →4点(2月=4点、3月=3点、4月=3点、5月=3点、6月=3点)

ガンバ戦は自分たちのやりたいことを表現できずに苦しみましたし、結果としては京都戦も勝ち点3を得ることはできませんでしたが、全体を通しての内容はポジティブだったと思います。「個」の部分については各ポジションでのタスクと個人の特徴が嚙み合っていました。

ここを捉える上で7/8のリカルドの定例会見が1つのヒントになると思います。

(6日の京都サンガF.C.戦では前線がいつもの縦並びではなく横並びのような2トップに見えたが、手応えはどうだったか?)
「京都によりダメージを与えるためにそのような形でプレーしました。その前のガンバ大阪戦ではワントップの難しさを少し感じていましたので、そのような形にしました。ビルドアップは3枚回しや4枚回しになりましたが、京都の場合は背後を使うことが彼らにとってより守りにくいのではないかと思いましたので、そのような形にしました」

(これからも相手によってはオプションの一つとして考えられるのか?)
「いつものやり方に少し変更を加えたというところです。ベースが3-4-2-1だとすれば、ボランチを1枚少し高い位置に上げ、シャドーを少し高い位置に上げれば、京都戦のような形になります。もう一つ変更したところは、タカ(関根貴大)を左サイドバックとして使ったところです」

リカルドは徳島時代も非保持の4-4-2から保持の3-4-2-1への可変をベースにしており、浦和でもその方針は変わっていないと思います。これはSHや2トップに入る選手のうちCFにならない選手が自分のポジションを「シャドー」と呼んでいることからもうかがえます。今の浦和の良い点は特にビルドアップ隊がこの可変をするときに誰がどこに入るかを固定しないで実行できている点だろうと思います。

後ろが3枚になるにしても、最終ラインを右上がりにすることも、左上がりにすることもありますし、はたまた両SBを押し出した上でCHが最終ラインに落ちることもあります。そして、これを試合の中で流動的に相手を見ながら試行錯誤できていますし、後ろに人数をかけなくても良いと判断できれば引用したリカルドのコメントのように3-1-5-1のようにも変化します。

これは、特に6番のポジションでプレーする岩尾がビルドアップ隊に対しての3人目としての振る舞いを出来るようになった、周りが岩尾を3人目として使えるようになった、という点が大きいと思います。ビルドアップでのキーになるのは相手FWに並ぶかその背中を取る選手がどれだけオープンにボールを持てる状況を作れるかです。

特にリカルドはピッチを縦も横も広く使うことを志向していて、横に広く使うためには岩波のように対角に発射できることはもちろんですが、そこよりももう一列前から逆サイドに振るボールを出せた方が、大外の選手はより高い位置でボールを受けやすくなります。


当たり前ですが、相手はそれをさせたくないのでビルドアップでの初手でこのポジションの選手へのボールは入れさせないように、2トップが中を閉めたり、CHの選手を1枚前に押し出したりしてきます。ここで、岩尾が消されているから代わりに別の選手が受けに下りてくるということを常態化させてしまうと、後ろに人数がかかることになりますが、CBから誰かを経由して岩尾へ渡すというパターンを共有できるようになって後ろに人数がかかりすぎることを防げていると思います。

4月末のACLではこれがなかなか共有出来ておらず、岩尾はCBからボールを受けた味方に寄ることで自分がサポートに入れていることをアピールしているように見えました。これが徐々に周囲の理解、繋がりを作ることが出来るようになってきたので岩尾が必要以上に味方に寄ってサポートをすることは減っています。

味方同士の距離を適切に保つ(寄りすぎず、離れすぎず)というのがポジショナルプレーの肝の部分であり、リカルドが昨年から何度も「全体のシンクロ」「誰かがポジションを外れるとチーム全体の機能が落ちる」と言っていることだと思います。正直言うと、このレベルに来るのは4月、遅くても5月でないと優勝には間に合わないので、それくらいが目途かなと思っていましたが。


さて、ここからLineNewsでの岩尾の記事に入っていきますが、序盤から「どのように」という点は置いておいて岩尾だけでなく、ビルドアップ隊や中盤の選手がオープンにボールを持てる場面を作れていながら、チームとしてどうしても裏を狙えないから相手を押し下げられず、相手が前向きに守備が出来て苦しめられるということが多々ありました。これは昨年から続いているチームの課題ですが、岩尾が言う通りこのスタイルこそがリカルドらしさではあります。

リカルド監督のスタイルはおっしゃる通り、相手を引きつけて、相手を動かして、相手に穴を作らせて、自分たちがそこを突くというもの。

ただ、リカルドを招聘したタイミングでフットボール本部が表明したのは、3年計画表明当初に掲げた「攻撃はとにかくスピード」というスタイルからの軌道修正として、ポゼッションとのハイブリットを志向するというものでした。5月の月報にも載せていますが、大事なことなので改めて引用しておきます。

戸苅本部長「2020年の課題と、2022のリーグ優勝を視野に、監督の選定を行いました。2020年に掲げた『即時奪回』『最短距離でゴールを目指す』サッカーに、常に『主導権』を持ち、より『攻撃的』で、ハイブリッドなサッカースタイル(カウンタースタイルとポゼッションスタイル)を実現することを目的に、リカルド ロドリゲス監督を招聘することにしました。チームの成長とともに、選手の成長、チームスタッフの成長、クラブの成長、そして、監督自身の成長を、クラブ主導で、監督の力を借りて実現していきます」

浦和がクラブとして目指した速攻の部分(常に裏/奥を狙う)と、リカルドが得意とする遅攻(手前から侵入していく)をすり合わせることで、お互いに足りない部分を補完しながら成長していこうというものだと理解しています。

なので、リカルドが浦和というクラブが求めることを理解しながらやってきた1年間での変化と、岩尾が徳島で4年間共に築き上げたきたイメージとの間にギャップがあったのは自然なことだったと思います。

(レッズは整然としたサッカーを目指しているが、2位争いのことも考えるとなるべく多くのゴールを取って勝ちたい試合だと思う。そのバランスをどう考えながら試合を進めていきたいか?)
岩尾 憲
「今の質問はぜひ監督に聞いてほしいです。前節の試合内容は外から見る形になりましたが、昨季見ていたゲーム展開では、縦にアグレッシブなスピード感のあるサッカーを展開していたイメージがあります。それはリカルド監督が志向するサッカーと多少ずれがあるように感じますが、今いる選手たちで勝利、ゴールに近づく方法はそういった形だということも学ばせていただきました。ここでゴールや勝利が求められる中で、ピッチに立つときには、自分が今の組織内でできる役割をしっかりと整理することが必要だと理解しています。今はそちらの方が勝つ確率が高いのではないかと思います」
「キャスパー(ユンカー)選手がピッチにいるときは、できるだけ縦に速い攻撃のほうがスタジアムは沸く。そういった要素によって、選手は選ぶプレーが変わってくるということを、ピッチ上で感じるわけです。
 リカルド監督のサッカーは遅攻で、ボールを繋いで相手を崩していくスタイルですが、それはファン・サポーターから求められているんだろうか、こだわり続けることが正しいのだろうか、と考えさせられた時期がありました」
「まさに、そんな感じでしたね。リカルド監督のスタイルはおっしゃる通り、相手を引きつけて、相手を動かして、相手に穴を作らせて、自分たちがそこを突くというもの。でも、今いる選手の個性やストロングポイントを生かそうとしたとき、必ずしもそのやり方がマッチするわけではない。戦術に選手をハメるのか、選手に戦術をアジャストさせるのか、このチームはどっちなんだろうと。
僕は考えると、とことん突きつめてしまうタイプなので、『このやり方なら、リカルドが監督じゃなくても成立するのではないか』とか、『このチームに自分がいる意味はなんだろう』と考えるようになっていって。このクラブが、この年齢の選手を獲得してくれたのに、先が見えないというか」
LineNewsより抜粋

そうした中で、岩尾自身がこのギャップに時間をかけて悩みながらも「手前と奥のバランス」について腹落ちする答えを掴み取ってくれたのは本当に嬉しかったです。これまで色々なインタビュー記事を読みましたが、これだけ読みながら胸が躍ったことはあったでしょうか。

「でも、レッズで求められるのは3年、4年かけることではないんだなと。だとしたら、スタイルを築き上げることと矛盾する、と最初は思ったんです。それまで僕はAかBかどちらかだと思っていたので。でもレッズでは、速いサッカーが有効ならスピードのある選手を生かして勝つ、ボールを回すことが必要なら徹底的に回して勝つ、それを90分の中で選び続けなければならないんだなって。
 どちらかではなくて、両方で結果を出すことがレッズでは求められている。つまり、これまでの自分の理論、理想、哲学にはなかったやり方で勝て、と言われているわけです。それに対して『いや、プロセスを辿ってないんだから勝てないよね』って言い訳をしていていいのか。ビビって、弱気になっているだけじゃないのか。プロセスをしっかり辿って結果を出すことしかできないなら、自分は弱いなって思ったんです。
 そこでバチッと整理できたというか。両方のプレーをして勝って、自分の存在価値を示す。両方を使い分けるのは一番難しい。でも、それこそが、逃げずに正面から向き合うことで得られた答えで、今すごく自分のエネルギーになっています」
ここが個人的にはLineNewsの記事のハイライト部分

繋いでいく志向のチームにとって手前と奥のバランスは永遠の課題ですが、手前から繋いでいくのはあくまでも相手ゴールを奪うための手段の1つでしかないということを忘れてはいけません。相手が「リカルドのチームはどうせ手前から繋ぐのだから、裏は気にせずにガンガン前にプレッシングに行こうぜ」となっているのに、それでも手前から繋ぎ続けるのは、たとえ相手のプレッシングの仕方を見ながらポジションを見つけて行っていたとしても、相手の思惑までは見られていない訳です。

それは果たしてリカルドが求めている「相手を見てプレーをする」ことが出来ていると言えるでしょうか。相手の思惑通りにプレーをしているのであれば、それこそフットボールが「相手の掌の上にある」とも言えてしまうのではないでしょうか。

常に手前と奥の両方の選択肢を持ち、相手のアクション、思惑を見た上で、より相手が困る選択(走らないといけない、頭を使わないといけない)をする、これこそが「自分たちのフットボールが掌の上にちゃんとある」という状態であり、クラブが掲げるコンセプトである「相手を休ませない」だろうと思います。


まさか、シーズンの途中でこれだけの答え合わせをさせてくれる記事が、クラブの準公式メディアで、しかも無料で読めたことに嬉しさしかないのは、1つの記事からの派生でこれだけつらつら書き連ねている熱量から感じて頂けるでしょう。

ただ、求めているレベルにはまだまだ足りません。ガンバ戦のように思惑がハマらなかったとしても試合の中で修正できないといけないし、京都戦のように上手くいく展開を作れているなら勝ち切れないといけません。クラブが目指した方向へきちんと進めていることは、なかなか勝ち点を詰めていない4月や5月も感じられましたが、今月の試合でより感じられるようになった人が増えたのではないでしょうか。

これをさらに高めていけるように、よりポジティブな空気をいろんな場所で作れて行くと良いですね。


◆8月の試合予定

7/30 (Sat) J1 第23節 (H) vs 川崎 (37pt / 11 / 4 / 5 / +9)
8/3 (Wed) ルヴァン杯QF 1stLeg (A) vs 名古屋 (25pt / 6 / 7 / 8 / -6)
8/6 (Sat) J1 第24節 (A) vs 名古屋  (25pt / 6 / 7 / 8 / -6)
8/10 (Wed) ルヴァン杯QF 2ndLeg (H) vs 名古屋 (25pt / 6 / 7 / 8 / -6)
8/13 (Sat) J1 第25節 (A) vs 磐田 (19pt / 4 / 7 / 11 / -12)
8/19 (Fri) ACL Round16 vs ジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)
8/22 (Mon) ACL QF
8/25 (Thu) ACL SF

※浦和 (29pt / 6 / 11 / 5 / +7)
※()内は7/17時点でのリーグ戦の 勝点/勝/分/負/得失点差

ACLを順調に勝ち上がれば磐田戦からACLまでの中5日が最長での9連戦となります。7月は岩尾、敦樹、岩波、ショルツというチームのセンターラインがある程度固定できたことがチーム全体でのタスク割が分かりやすくなった面がありましたが、この日程でそれは難しいはずです。

岩尾の場所は平野との併用がイメージしやすいですが、柴戸も安居も敦樹とはタイプが違います。ここのバランスが変わった時に他のポジションとどのようにバランスを取っていけるのかは気になります。それはCBにも言えて、ショルツ、岩波が主力としてプレーしながら、ようやく知念が少しずつ出場機会を得てきたのは彼のプレーの質が上がってきたというだけでなく、8月の日程をにらんでいたという要素もあるのかなと思います。

FWはリンセンの負傷の具合がどうなのか、ユンカーの復帰時期がどうなのか、シャルクは本当にもうプレーして大丈夫なのか、不安要素はいくつもありますが、彼らがいなかったからこそ松尾がCFとして居場所を掴み始めたということもあるので、誰かがいないからダメだではなくて、誰かがいなくても他にやれるやつがいるという好循環を続けて行って欲しいですね。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?