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『おつむて・ん・て・ん・クリニック』で【理論家スキナー】を思い出したり

ドラマ・映画好きなキャリアコンサルタント xyzです。

今回は『おつむて・ん・て・ん・クリニック』という映画について書きます。

ふざけたタイトルだとお思いでしょうが、その通り!

これはコメディー映画、それもかなりブラックなコメディーです^^


日本公開バージョンは、ポスターの絵柄も少し違います。
医者と患者の関係性をはっきりさせるためか?レオのシルエットには聴診器と額帯鏡を付けさせてます。
オリジナルの方にはありません。

原題は『What About Bob?』
またしても邦題のセンス……。
なぜ、おつむてんてん……?


このタイトルのせいで映画の良さが広まらないんじゃないかと邪推してしまう……とても面白い映画なのにタイトルのせいで正直勧めにくいし😅

映画の概要はこちらから。
⬇︎


主人公は、ボブ・ワイリーというバツイチ男性。


潔癖症、人込み恐怖症、外出恐怖症に高速恐怖症まで!!ありとあらゆる恐怖症の患者ボブ・ワイリー(ビル・マーレイ)は、病気を克服すべく、良識ある医者レオ・マーヴィン(リチャード・ドレイファス)の所へ駆け込むが、レオはほんの数分の診察でボブにもうウンザリ!!逃げる医者、それを追っかける患者・・・。夏休みまで邪魔をされ、とうとう頭に来たレオは、ボブの追い出し作戦を開始する。 
(dTV 作品あらすじ より)

(あらすじにある「高速恐怖症」というものが調べてみても見当たらず結局よくわかりませんでした💦)


パニック障害、強迫性障害……ありとあらゆる「恐怖症」持ちのボブは、日常生活を送るのもなかなかしんどそうです。

これ迄に何人もの精神科医をハシゴしてきたボブですが、不安から医師にべったりと粘着しすぎてしまうので、どの医師もボブには辟易として治療をギブアップしてしまうという……💦
ボブ、モンスターペイシェントなのでしょうか??
(応召義務があるとはいえ、医師もお気の毒な立場ですね。)


毎朝憂鬱な気持ちで起きて、まずペットの金魚ギルに話しかけます。ボブが唯一心を許している存在です。

それから「いい気分だ、すごくいい気分だ、気分は上々〜」とお経のように唱え続けていますが、ちっとも調子良さそうじゃないボブ。


その様子をちょっと動画でご覧ください^^



いろんなクリニックをたらい回しにされ、今回ボブに紹介されたドクター・マーヴィン(レオ)は、ベストセラー本をたくさん出している有名な精神科医。ボブは「今度こそ……!」と期待してレオの診察を受けます。


しかし、レオはボブを数分診察しただけで面倒くさそうな患者だとわかり、あまり関わりたくない、という様子。

レオはこの診察の後、別荘で家族とひと夏過ごすことと、そこでTV局の取材を受けることで頭がいっぱいです。
実はレオ、マスコミ大好き、取材大好き、目立つの大好き、な人です。

休暇明けまでレオの診察が受けられないと聞いたボブが不安そうにしているのにも気がつきません。(いや、気がつかないふりか?)

映画の中でレオは最近上梓した著書『Baby Steps』を渡し「これをよく読みなさい!」と言ってボブを追い払おうとします。

そんなレオの思惑に気づかず、ボブはますますレオに感謝して、何が何でもこの人について行こう‼️と思うように。

ベイビー・ステップ

レオの著書の題名にもなっているベイビーステップ

ベイビーステップとは、出来ないと思うことを行動できるレベルまで徹底的にハードルを下げて『とりあえずやってみる』ことの大切さを説くもの。

小さなことから達成感を得て、少しずつ行動のハードルを上げていくのが特徴です。


ベイビーステップとは、目標を達成させるための、無理のない「一歩」のことです。赤ちゃんのよちよち歩きの一歩のような。
千里の道も一歩から、ですよね^^

このベイビーステップと聞いてわたしが思い出したのは、【スモールステップ】、そしてスキナーです。

スキナーの学習理論

スキナーさん、キャリコンの勉強をしていると必ず出てきますね!

アメリカの代表的な心理学者行動分析学の創始者として知られています。


スキナーといえば【オペラント条件付け】

オペラント条件づけ(operant conditioning)とは人間・動物が特定の行動をとるように条件を与えること。


箱に入れたネズミと、箱のなかにレバーを用意します(この箱をスキナー箱といいます)ネズミが偶然レバーを押したとき、ネズミにとって報酬(reward)となるエサを与えます。これを、行動を強化(reinforcing)するといいます。そして、ネズミがまたレバーを押した際にはエサを与えて……を繰り返していくと、ネズミは積極的にレバーを押すようになるのです。


このようなプロセスが【オペラント条件づけ】とよばれるものです。動物の調教に使われる手法です。

モチベーションと自発性がポイントです。


そして、この【オペラント条件づけ】を人間の教育に応用したのが【プログラム学習】といわれるものです。

プログラム学習 5つの原理


【プログラム学習】にはティーチングマシン(teaching machine)という専用のデバイスが使われます。

プログラム学習の5つの原理を紹介します。

① スモールステップの原理
➡︎段階を難易度別に細分化する
易しいものから難しいものへ

② 即時確認の原理
➡︎すぐに正答がわかる(フィードバック)

③ 積極的反応の原理
➡︎学習者が主体的に学習に取り組む

④ 自己ペースの原理
➡︎個別で学習可能、学習者の理解度に合わせて自分のペースでできる

⑤ 学習者検証の原理
➡︎プログラムの良し悪しは学習者の学習結果によって判断し、学習者の結果次第でプログラムを適宜改善する。


例えば、公文式のプリント教材や大学受験塾の四谷学院の55段階個別指導なども、このプログラム学習をベースに考えられた、指導者(マシンではない)による学習法ではないでしょうか。

いきなり大きい目標を目指すのではなく、最終目標までの行程を実現可能な小さな目標に分けて、自主的に取り組むことで、達成感を得やすくなり、挫折せず、学習意欲を保ちつつ、自分のペースでステップを上げていくことができるというものです。


プログラム学習の効果としては、目標達成も大事ですが、それよりも不安を和らげる(精神の安定)、自律的に実践することに意義があるとのことです。

実現可能なレベルまで細分化された目標をひとつひとつクリアしていくことで自己効力感が生まれ、自信がつき、自己肯定感が高まります。


二人が逆転?どっちがヘン?


ストーリーが進むにつれ、ボブ、レオともに変化が生じます。


レオのTV取材にもちゃっかり同席するボブ(笑)


さまざまな恐怖症があって日常生活に支障をきたしていたボブ。

話し相手は金魚のギルだけ、うまくコミュニケーションがとれずに他人と積極的に関われなかったボブですが、レオの家族たちとの交流から、少しずつ自分らしく他者と関わっていく術を覚えていきます

たくさんの恐怖症や極端な言動の数々も、ボブが繊細すぎて現実とまっすぐ向き合うことが辛すぎたから。

ひとたび「患者」というレッテルを貼られてしまうと、周囲も先入観や偏見のない目でボブを見ることができなくなり、ボブ自身も周囲と関わることを諦め、自分を「患者」という殻に閉じ込めてしまう……。


しかし、レオの家族(レオを除く)はボブの無邪気さや率直さを偏見なく、好意的に受け入れてくれます。
それもこれも、レオがはじめ、ボブが自分の患者であることを家族に言わなかったからなのですが。

周りにあたたかく受け入れられたことで、次第にボブの思考が変わり、行動が変わり、意識が変わり、自信が生まれ、すっかり別人のように(笑)快活に人生を楽しむようになります。

これが今まで隠れていた、本来のボブの姿なのかもしれません。


一方レオは、ボブを意識しすぎるあまり奇行に走り、すっかり挙動不審で嫌味なおじさんになっていきます。笑顔もなく、いつもイライラしてピリピリしています。

レオはボブに翻弄されていくうちに妄想に取り憑かれ、ついには常軌を逸した行動に!!(ネタバレを避ける表現)

立場がすっかり逆転してしまったかのような二人。

主治医と患者。

とかく依存を生みやすい関係であるだけに、適切な距離感を保つ必要があります。

それなのに、ボブのような距離なしの患者に昼も夜もなくずっとくっつかれていたら……!

応召義務のある医師とはいえ、これはキツい。ボブを追い払おうとしたやり方が過激すぎて問題があったとはいえ、レオにも少し同情してしまいます。

「正常」と「異常」の線引き


ところで、何が「正常」で、何が「異常」なのでしょうか。
精神医学においては、病気と健康の線引きが非常に難しいところです。

「異常」の判定は医師による診断が根拠となりますが、そもそも何を持って「正常」とするのか、診断をする側が「正常」であるかどうか、それをどう判定するのかなど、考えていくと……
こうした線引きは、国、社会や文化によって、また時代によって変わってきました。

フーコーの『狂気の歴史』という本を引き合いに出すまでもなく、狂気というものが歴史上で変容してきたことを知ると、はたして今、当たり前のように存在している枠組みや線引きもあくまで現代の都合に則ったものといえなくもなく……。そもそもの「前提の確かさ」についても考えてしまいます。

異常だと言って「患者」扱いしていいのか、それとも「悩める健康人」と考えるべきなのか。そもそも異常って?正常から「はみだした」ら異常なの?
難しすぎて答えが出ません💦

イタリア映画「人生、ここにあり!」を観た時もそんなことを考えさせられたことを思い出しました。


このあたりのことについては、また別の機会に譲りたいと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました^^