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零売:処方箋なしで病院の薬が買える薬局のメリデメ


病院って、フルタイムで働いている人は受診しにくくて、営業時間が不親切だな、と思うことが多々あります。

しかし実は、病院の薬の約半数は、処方箋なしで薬局で購入することができます。

この記事は、医療従事者またはヘルスケア界隈に関心のある方向けになっているので、純粋に「処方箋なしで病院の薬が欲しい!」という読者の方は、一番最後の「9.日本の零売薬局5件」まで飛んでくださいm(__)m

医療用医薬品 = 処方箋医薬品 + 処方箋なしで購入できる医療用医薬品

▼分類

処方箋医薬品

※画像の品目数はかなり古いのでご注意ください。現在は、医療用医薬品約15,000種類のうち、処方箋なしで購入できる薬は約7,300種類


1. 零売できる薬の位置づけや法律


医療用医薬品のうち、約半数は「処方箋医薬品」と呼ばれ、高血圧、糖尿病薬、抗生物質、精神安定剤、睡眠薬、抗がん剤などは医師の診断・処方が必要。それ以外の風邪薬、鎮痛剤、胃腸薬、ビタミン剤、外用薬、漢方薬、アレルギー薬などの一部は処方箋がなくても購入可。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/211493

非処方箋医薬品:比較的安全性が高いといわれている、副作用のリスクが低いもの

「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」ともに、正当な理由がない限り、原則処方箋がなくては販売できないが、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の場合、「一般用医薬品(OTC)での対応を考慮したが、やむを得ず販売をしなくてはならない場合は、病院受診を勧めた上で処方箋がなくても使用者本人にのみ販売してもよい」と、薬機法において特例的な位置付け https://pharmabox.jp/article/1892/

「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」は、販売するにあたり、「処方箋医薬品」と同様に扱われなくてはいけないため、以下の留意点があります。

1.必要最小限の数量を販売しなければならない。
2.販売した場合は、品名、数量、販売の日時等を書面に記載し、2年間保存しなければならない。
3.薬局においては、調剤室又は備蓄倉庫において保管しなければならない。
そして、薬剤師自らにより、調剤室において必要最小限の数量を分割した上で、販売しなければならない。

「処方箋医薬品」と同様に服薬指導も行わなければならない。また、販売時には添付文書又はその写しの添付を行うなどの義務もある。


2. 広告について


医療用医薬品なので、一般人を対象に広告をしてはいけない
健康・医療医薬品等の広告規制について
【まとめ】医療広告ガイドラインに基づいたNG表現とOK表現
【2018年版】医療広告ガイドライン気をつけることまとめ


3.メリット


患者様側のメリット
・初診料(または再診料)や診察料、検査料、処方料、調剤料などがかからない分、病院へ行って調剤薬局で薬を処方してもらうより、頻度などによっては安くなる(シミュレーションサイト
・わざわざ病院に行く煩わしさがなくなり、「いつもの薬」「自分に合うと自分が一番よく分かっている薬」が簡単に手に入る
・事前に電話やメールで相談すれば、さらに受け取りがスムーズに。8割程度の顧客が、日頃から使用している薬を購入するため、説明にもさほど時間はかからず、約10分程度で購入できる(参照:日刊ゲンダイ
・来局者の8割は、遠方からやってくるくらい困っている人(オオギ薬局ブログより)
・定期薬のためだけに、緊急性の低い受診をしなくてもいい
・待ち時間が短い


事業者側のメリット
・自由価格で販売することにより、大手安売りドラッグストアの市販薬よりも、安価で効果の高い薬(医療用医薬品は、市販薬の約1.5倍量で製造)の提供することがが可能
・処方箋なしで来局してもらえるため、近隣のクリニックの来院数にかかわらず来局回数を増やすことができ、単純接触効果を見込める
・やむを得ず病院で受診できない際の新たな医薬品購入の選択肢として、健康増進や利便性向上を目指し、薬剤師と相談しながらセルフメディケーションが行える

業界全体のメリット
・2019年7月12日の日経新聞一面に「市販薬のある医療用医薬品の処方が5469億円 医療費膨張の一因」という趣旨の記事が掲載 ➡ 薬剤師と相談しながらセルフメディケーションを行うことにより、5469億円以上の医療費の削減を期待できる


4. 顧客層


顧客の中心:忙しくて診療時間内に病院に行けない30~50代のビジネスマン。遠方から来ることも。
顧客ニーズ:
「引っ越して病院を変えたら、以前飲んでいた薬を出してもらえなくなった」
「風邪や花粉症程度で、わざわざ会社を休んで病院に行くのは難しい」
「レセプト上、決まった量以上は処方してもらえなくて、いつも受診日間近になると薬を切らしてしまっていたので助かる」
「働き世代のニーズに合っている」


5.デメリット


集客
・広告が出せない。門前クリニックの招集は難しい。


零売に対する理解
・保険診療ではないので10割負担
・市販薬の含有量は少ないので、医療用医薬品の方が効果が高いことを理解しているのは医療従事者が大半ではないか?
・花粉症の薬はそもそも同じ含有量
・欲しい分だけいくらでも購入できるわけではない(副作用や乱用、転売防止のため、数量を制限)
・10割負担なので、最終的に購入に至るまでのマッチングが難しい場合がある
・零売できる薬とできない薬はどう理解してもらう?
・対面でしか購入できない(通販では購入不可)


費用
・結果的には安くなることが多いが、3割負担で受診するより安いかどうかの比較を患者さんが自分で判断することは難しい
→費用のシミュレーションを公式HPでできたらいいかも
・保険が適用されないので、自費での支払いになる
・周囲との関係(近隣のCLやHP、医師会、薬剤師会など)
・怪しいと思われてしまうことも多々あり→「零売薬局は違法に決まっている」「患者さんが零売薬局に行かないように、地域の薬剤師会としてできることはないか」などと言われたこともあるとのこと
・処方箋なしで医療用医薬品を販売するケースはあくまで救済処置に当たるかので、それを事業の柱とする営業形態は望ましくないと言われる(解釈の問題)
・珍しい事業形態だったため、卸先の病院や薬局との関係性が複雑になる可能性があるから薬を卸せないとも言われる
・患者さんを取ることになるので、門前に関連する薬は難しい


収益
調剤料や薬学管理料などを加算できないので、薬価差益と年会費が主な収益源となる


将来性
オオギ薬局の代表は、ある程度の規模の都市に、ポツリポツリとある、くらいが頭打ちになると予測


安全性
副作用被害救済制度を適応されない可能性がある


6.AIDMA(認知から購入に至るまでの消費者の行動プロセス)

A…ニュースやSNS、口コミ、看板で零売薬局の存在を知る
I…零売薬局について理解し、自分は対象である認識し、関心を持つ
D…利便性、低価格を求めて利用したくなる
M…昼休み、通勤の前後、隙間時間、土日などの時間が開いたときや、風邪をひいたけど病院に行く時間はないなどの緊急性の高い時に利用しようと記憶する
A…来店、購入、家族や友人に口コミやSNSを通して宣伝


7.疑問

・ビジネスマンが顧客なのに、なぜ営業日が火曜~土曜なのか?
→病院が開いてなくて患者さんは時間がある土日は来局が多いのかも
・処方量では足りないという患者さんが顧客例に出ていたが、一日量を守ってもらうにはどんな工夫をしている?
・製薬会社からの外圧はないのか?(零売が盛んになったら、患者さんを取られるから、愛顧にしてもらってる病院やクリニックから苦情言われるとか)


新潟の零売薬局の開局秘話が面白かった(2001年独立なので、今も通用するかは不明)
https://www.attomark.com/hpgen/HPB/entries/40.html


8.収支


・保険調剤薬局と比較して、一包化や分包機といった高額機器は必要性が低いため、固定費が小さい
・「やむを得ず販売をしなくてはならない場合は~処方箋がなくても~販売してもよい」という前提なので、保険薬局の許可は必要となり、一通りの設備投資は必要
・顧客層が明瞭であるため、開局時間を絞れる→人件費削減
・代替のないビジネスモデルかつ、現在の受診体験に不便を感じている層が来局するため、ロイヤリティの高い顧客が集まる


9.日本の零売薬局


①いこいの薬局(東京)https://pharx.co.jp/
②オオギ薬局(東京)https://ogiyakkyoku.com/
③くすりやカホン(北海道)https://www.kusuriya-cajon.com/
漢方薬局を経た薬剤師が代表
④セルフケア薬局(東京、神奈川、静岡、愛知)http://selfcare-sdc.com/
日本初の零売薬局チェーン店(7店舗)
東京都で100店舗のチェーン企業を目指すとのこと
⑤薬局アットマーク(新潟)https://www.attomark.com/

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