孤独
掴もうとして、手を伸ばした。伸ばしたけれど、人混みに流されてしまって掴めなかった。わたしの手は虚しく空中を掴んだだけで、なにも掴めなかった。
追いかけて、追いかけて、追いかけて。
呼吸ができなくなっても、追いかけて。早く掴まないと、置いて行かれてしまう。そんなことになってしまったら、またひとりぼっちになってしまう。嫌だ。嫌だ、嫌だ。孤独は嫌だ。孤独はこわい。
走った、たくさん走った。置いて行かれたくなくてしがみつこうとして、振り払われる。しがみつくことさえも許してはくれない。わたしに許されたことは、ここに留まることだけなのかもしれない。何者にもなれなかったわたしが許されるのは、留まることだけ。
体がボロボロになっても足掻いた。
ずっと先の方で、あの人がたのしそうに歩いているのが見えた。わたしのことなんか一切気にせずに。わたしのことなんか覚えていないように。わたしは覚えているのに。わたしが知らない人と、歩いてる。
なにもできなくて、留まることを決めた。わたしは今日も何者にもなれなかったみたい。わたしになれたから、何者にもなれなくてもいいや。
孤独だっていいもんだ、なんて強気になってみようと思う。
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