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誰もいない早朝はわたしだけのもの

今日も早起きした、なんて嘘。ただ、寝れないだけなんだけれども。わたしは早朝のこの時間がなによりもだいすきだ。誰にも邪魔されないこの時間が。この時間だけは、わたしのものだ。

日中なら重いと感じることが多い足を動かして、早朝のまだ少し薄暗い外にカメラと必需品だけ持って足を踏み出した。「わたし、今なら裸足で街中を歩けそう!」なんて思いながら。この世界にはわたししか存在していない気持ちになりながら。ちょっぴりひとりでクスッと笑ってしまった。こんなことも早朝ならではの話。日中ひとりでクスッと笑っていたものならばきっと後ろ指をさされてしまうだろう。

普段は早歩きになって見れない街中や、まだ明けきれていない空、少しまだ肌寒い空気、この匂い。忘れることのないようにカメラのシャッターを切っていく。この瞬間、わたしのものだけになっていく。誰にも奪われないわたしだけのもの。

昨日嫌なことがあった、とてつもなく嫌なことが。わたしの中で許せないことが。わたしが大事にしてきたものを壊された。それなのにわたし、怒れなかった。かなしかったはずなのに、わたし泣かなかった。泣かなかったじゃない、泣けなかったんだ。

あてもなく歩いていたら知らない公園にきた。こんなところに公園があったなんて知らなかった。もちろん誰もいない。ベンチに腰かけると、どこからやってきたのかいつの間にか足元に、白と茶色がきれいに配色されている美人な子猫がいた。びっくりして「どこから来たの?」なんて声かけながら思わずシャッターを切る。わたしがシャッターを切るまでわかっていたかのように動かずに止まっていてくれた、かわいい子猫ちゃん。

わたしがカメラを置いたのを見ると、それが合図かのように素晴らしいジャンプ力でベンチまで登ってきた。そして、当たり前かのようにわたしの膝の上に乗って「にゃあ」っと鳴いた。少しの重さを感じた。

そしてなぜか、涙が溢れて止まらなくなってしまった。びっくりした。自分の気持ちとは正反対のことが起こっている。その瞬間、わたしやっぱりかなしかったんだって理解した。期待もなにもしてないって言いながら期待してた。そう思ったらかなしくて仕方なくなった。

いつからか、こんなにも気持ちを抑え込むことが当たり前になってしまった。かなしいことにもかなしいって言えず。嫌なことも嫌って言えずに。言わない方が上手く世の中を渡れる気がしていた。でもそんなことなかった。

結局どちらが正しいかなんて、わからない。わかっているのはきっと神様だけなんじゃないかなって思う。そんな結論は今、必要ない。この世界からいなくなることはマリア様だって許してくれないだろう。わたしがやらなきゃいけないのは、今日も今日を生きなければいけないことだけ。

もうすぐ太陽が顔を出してくる。わたしだけの世界が終わってしまう前に帰るとする。いや、わたしだけの世界ではなかった。わたしと子猫の2人だけの世界だった。

わたしがベンチから立ち上がり歩き出すと、当たり前のように子猫も一緒についてくる。「わたしのとこ、くる?」「にゃあ」かわいい鳴き声でわかってるのか、わかっていないのかよくわからない返事をする。少し先を歩く子猫を眺めるとこんな世界もいいな、なんて思えてきた。

太陽が顔を出してきたせいで、眩しい。その光を子猫と一緒に浴びる。幻想的な風景に今日はこれで最後かなと思いながらシャッターを切る。子猫の後ろ姿と太陽の光。太陽をはじめてきれいと感じた。

ありがとう、そう心の中で呟く。誰を思って呟いたのかはわからない。子猫かもしれないし、太陽かも知れないし、わたしを傷つけたあの人かも知れないし。声に出していない呟きに当たり前のように返事をする子猫。

「キミ、名前つけなきゃだね」「にゃあ」どんな名前にしようかな。そんな話をしながらお約束のごとく、穿いていたサンダルを脱いで裸足で闊歩しながら家に帰る。

わたしは今日からこの子を守って生きていくことにする。

ファインダー越しの世界は今日もキラキラ輝いていた。

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