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虚構
2020年9月7日 10:58
この物語はフィクションです。実在の人物その他もろもろには一切関係ございません。夏盛。空が青いから人を殺した人間がいたように、暑いから人を刺すような人間がいてもいい。つけっぱなしのテレビが、昼のニュースを伝えていた。気温、エンタメ、政治。そして話題の事件。若いニュースキャスターが、まるで世界の終わりのような声で言う。『先日からお伝えしております通り魔事件ですが……』「……だってよ、キューさ
2020年8月31日 12:27
この話はフィクションです。実際の個人名その他もろもろには一切関係ございません「……そろそろ話してくれないだろうか」狭いアパルトメントの一室で、シグルス・ヴァルカスは聞く。もう何度も言った文言を繰り返しても、シグルスの目の前、窓を背にして簡素な木の椅子の肘掛と脚に両手足を縛られた男は何も言わない。ただシグルスを睨み付けるばかりだった。カーテンを締め切った部屋は段々と薄暗くなりつつあって、日が傾
2020年8月29日 03:19
取材をしたいのですがと連絡をしたところ、快く了承の返事が帰ってきた。西区でも高額な部類に入る土地の小さな屋敷だ。重いドアノッカーを叩くと、使用人か部下か、ともかく彼の関係者らしき男に出迎えられた。アンティークな内装。花瓶なんて一体幾らなのだろうか。こちらです、と案内されたドアは一際凝った装飾をされていた。失礼します、と言ってドアを開ける。10畳程の室内には、センスの良い家具が丁度よく配置されてい
2020年8月20日 10:21
この物語はフィクションです。実在の人物、団体等には一切関係ありません。嫌な音がする。すぐそこの路地。人を殴っている音だ。隣を歩くユークがにこりと笑う。「見に行く?」ユークは言って、足を止める。「そう言われちゃったしね。ちょっと待ってて」持っていた荷物を預け、音がした路地の方へ向かう事にする。多分来た道にあったカフェにでも入るつもりだろう。例の路地に入る。何か起きている時特有の湿っ
2020年8月3日 11:19
16:25 マラカイトファミリー執務室話がある、との通告がジェイドから届き、俺たち……マラカイトファミリーの人間は事務所で1番広い執務室に集まることになっていた。殆ど使われていないこの部屋は少し埃っぽくて、空気は重くて苦しい。俺から少し遅れて、執務室に入ってきかたのはユーク・アルヴェーンだった。後釜候補筆頭。この前行われた中央区との話し合いにもついて行っていたし、多分ザクセンのやり方を知ってい
2020年7月30日 01:04
「アンタのせいで、アイツは死んだんだ!」14時32分。昼下がりのカフェには相応しくない不穏な怒声が響く。水を打ったように静まり返った店内に震えた声はひどく反響していて、ワナワナと震える男に店内の視線が集まる。立ったままの男の向こうには優雅にティーカップを持ち上げかけた男が座っていた。「……俺の友達は、アンタを見て死んだ。」周囲の目を気にすることも無く、男はそんな事を言っていた。唐突に罵声を