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【2023年ニンジャソン夏】オーボンについて

 ドーモ、三宅つのです。これは2023年ニンジャソン夏の自由研究コンへの提出課題です。これまでつのはニンジャスレイヤー世界におけるニンジャ伝承などについて考察して来ましたが、今回は季節柄「オーボン(お盆)」について考察してみましょう。ネタバレやNRSにご注意下さい。


オーボンとは

 我々の世界における「お盆」とは、旧暦7月13-15日頃(新暦8月13-15日頃)にあの世から現世に戻ってくる先祖の霊(祖霊)を迎えて祀る宗教行事です。起源は諸説ありますが、仏教では「盂蘭盆(うらぼん/ウランバナ)」といい、ブッダの弟子が餓鬼道に堕ちた母を救済するために僧侶たちへ施しを行った故事に基づくといいます。そのためお盆には施餓鬼会を行い、死者を供養するのです。餓鬼とは幽霊、ゴーストのことです。

 仏教の基盤となったインドの宗教でも、祖霊(ピトリ/父祖)を祀ることは重視されました。ヒンドゥー教では秋分頃にピトル・パクシャ(祖霊祭)が行われますが、これは日本のお盆、秋のお彼岸に相当します。死者の霊は子孫がきちんと祀れば祖霊となって福徳を恵み、祀られねば餓鬼(プレータ)となって祟りをなすとされます。

 盂蘭盆とはサンスクリットで「逆さ吊り」を意味するとも、僧侶が托鉢を行う飯盛りの器だとも、古代イランの霊魂(ウルヴァン)を迎える祭に遡るともいいます。イランの祖霊祭は迎え火を焚くなど似通った部分もありますが、一年の最後(春分/ノウルーズの前)に行われたといいますから、どちらかと言えば春のお彼岸です。まあいろいろ融合していたのでしょう。

 もともとチャイナの道教には「中元節」という祭があり、陰暦の7月15日(満月)の夜にあの世と現世が繋がって、祖霊が現世にやってくると信じられていました。仏教がチャイナに伝わった時、布教のためにこの祭りを取り入れたのではないかと考えられています。日本でこの頃に親類縁者が互いに贈り物をして「お中元」と呼ぶ風習はこのためです(江戸時代から)。

 暦で言う「元」とは本来は「月初め」のことで、元日・元旦といった語句に残っています。陰暦(太陰暦)では新月から次の新月までを一ヶ月としますが、望月(満月)を月初めとする風習もあったためこれと混ざり、道教では陰暦の月の中日が「元」とされました。そして新年最初の元を上元、年の半ばの元を中元、中元の三ヶ月後を下元と呼ぶようになったのです。

 日本/倭国は6世紀に仏教を受容し、その祭礼として盂蘭盆会も入ってきました。記録上は7世紀中頃に斉明天皇が飛鳥寺の西で盂蘭盆会を催したのが最古で、奈良時代以後は宮中行事となり、全国各地の寺院でも行われるようになります。日本古来の祖霊祭祀と結びつき、お盆は全国的に定着していきました。盆踊りは中世の時宗による踊り念仏が起源のようです。また日本では奇しくも8月15日が太平洋戦争の終戦記念日とされています。

 こうした祖先崇拝の風習は世界中で見られます。アジア・太平洋地域、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカでも盛んに祖先の霊を祀っていました。キリスト教やイスラム教が普及した地域でも祖先崇拝・祖霊信仰は聖人崇敬やハロウィーンなどに形を変えて生き残っていますし、死者を埋葬する風習や冥福を祈る心情は、太古のネアンデルタール人も持っていたようです。

忍殺世界のオーボン

 "ユーレイ・ゴスたちは非人間的なビートに乗って、今夜もだらしなく踊るのだった。オーボンの夜の亡霊のように。"

ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ】より

 "オーボン、クリスマス、ショーガツ……人生を楽しむことに引け目を感じがちなサラリマンたちも、重い宗教的意味を持つこの3日間だけは、次の日の仕事を忘れて行動するのだ。"
 "俺の供えるセンコは、本当にフユコやトチノキの魂を慰めているのだろうか。彼らは、オーボンの夜にも還らなかった。"

メリークリスマス・ネオサイタマ】より

 "オヒガンとは、サンズ・リヴァーの先にある死後の世界や非物質的世界を表す日本語であり、アノヨとも呼ばれる。神聖なるオーボンの夜にはモータルの世界とオヒガンが繋がるとも言われる。"

トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア】より

 "ナカニ・ストリートでは年に一度、オーボンの時期に、住人による慎ましいフェスが行われてきた。オヒガンと現世を繋ぐゲートが開き、祖先のスピリットが地上を歩むとされるオーボンの夜は、オショガツと並ぶ重要な日本伝統文化だ。それが開催されぬとは、何を意味するか。もはや言うまでもない。"

ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ】より

 小説『ニンジャスレイヤー』においては、オーボンの夜にオヒガンと現世を繋ぐゲートが開き、死者のスピリット(霊)が現世に現れるという記述がしばしば見られます。マッポーの世でも日本では(キョートでも)オーボンが重視され、正月に並ぶ重要な伝統文化として守られています。

 "それはキュウリを胴体に、ワリバシを脚に見立てたタリスマン、すなわち霊の乗る馬であった。"
 "今夜は一年の最初の満月の夜、すなわちオールド・オーボンの夜であった。オヒガンと現世を繋ぐゲートが開き、祖先のスピリットが地上を歩み、生者と共に踊るとされる、廃れて久しい伝統的祭日である。アノヨから帰るやもしれぬ弟のために、シノブはキュウリの馬を家で作り、カバンに仕舞っていたのだ。"

ネヴァーダイズ 3:ザ・ファイアスターター】より

 トリロジー第三部の最終章において「オールド・オーボン」が出てきますが、これは「一年の最初の満月の夜」ですから、夏のオーボンではなく正月のオーボン、すなわちチャイナでいう「上元」「元宵節」、日本でいう小正月にあたるはずです。

 上述の通り、本来は陰暦/旧暦1月15日の祭なので陽暦/新暦では2-3月にあたりますが、ここでは新暦1月18日頃となっています。現実世界でこの時期に死者の霊が現世に出て来るという伝承は寡聞にして聞きませんし(上元の夜に女の亡霊と遭遇する小説「牡丹燈記」はありますが)、秋ならともかく真冬にキュウリやナスはなさそうですが、まあ忍殺世界はクリスマスに節分めいて鰯の頭を飾るようなごった煮の宗教観ですし、ダイジョブでしょう。月はのちに割れましたが、引き続き満ち欠けはするようです。

 この日が最終章に設定されたのは、UNIX時間の関係で2038年1月19日にコンピューターが誤作動を起こすとされる「2038年問題」とリンクさせたためでした。2000年問題(Y2K)で世界中のUNIXが爆発した世界ですから、2038年問題は深刻でしょう。またインターネットはオヒガン、霊的世界と繋がっていますから、この繋がりは実際自然なことです。

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 ところで、ローマ・カトリック教会においては8月15日を「聖母被昇天の祝日」としています。伝承によると聖母マリアは使徒たちに看取られて眠りにつき、聖霊によって肉体ごと天へ召されたといいます。ただ東方正教会では「生神女就寝」といい、魂のみが天に召されたとします。また古くは1月18日がその日とされ、6世紀末に8月15日と定められたといいますが、この日付は奇しくもチャイナの上元・中元と同じです。チャイナや日本で盂蘭盆会が行われ始めたのも6-7世紀頃ですし、何か関係がある気もしますね。

 忍殺世界において「あの男」がいかなる存在なのか定かでありませんが、仮にカツ・ワンソーのアバターや使徒であったとすれば、聖母マリアもまた超常の存在、ニンジャだったのかも知れません。ニンジャソウルがキンカクへ昇ることをアセンション(Ascension)と呼びますが、これはキリスト教では「キリストの昇天」を指します。マリアは神ではないため自力では昇天できず、聖霊によって天に召されたことから被昇天(Assumption)とします。

『ヨハネの黙示録』では、巨大な立方体の形状をした「新しいエルサレム」が終末ののちに天から現れ、正しい信徒たちの永遠の住処になると描写されています。キンカク・テンプルのことでしょう。同書では聖母マリアめいた女性が現れ、キリストめいた男児を出産しますが、彼は「龍(サタン)」に食われそうになったところを天国へ召し上げられ、母親は「鷲の翼」を授かって荒野へ逃れると記されています。そして彼女は「教会」を表すともいいますから、これはニンジャのドージョーであり……011010101010

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 ……このようにオーボンには数多くのニンジャ真実が秘められています。歴史の闇に不用意に触れることは得策ではありませんから、今回はこのあたりにしておきましょう。

【以上です】

※この記事はフィクションです。実際のなんかとは関係ありません。

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