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「荒野のタグ・スリンガー」#5

【前回】

俺はサイモンとホルヘ、アロミアと一緒に、サルーンへ急いで戻った。
哀れ、サルーン・B…なんとかは粉々だ。こうなると電子スコップで復活させることも出来ない。より高度な術がいる。俺はマスターの死体に十字を切り、さっき掘り起こした穴に近づく。

「おいファンクル。お宝は、あれか?」
「依頼じゃあ『パルプ小説のページ』ってことだったが……」

そこにあったのは、水晶で出来たような球体だった。中に裸の美女が封じ込められている。胎児のような姿勢で、目を閉じて。俺はホルヘと顔を見合わせ、無言で掌を叩き合わせる。

「なァるほど、パルプには裸の美女がつきもんだ!」
「彩りが増えたな。俺はアロミアには興奮しないしな」
『失礼しちゃう!』
『一件落着、だな。「アーカイバー」に報告しとくぜ』

サイモンがデータをスキャンして、送信する。電子馬にはそうした機能がある。辺境だからちょっと時間がかかるが。崩壊したサルーンからバーボンの瓶と割れてないコップを掘り出し(スコップはいらなかった)、ホルヘと乾杯する。つまみや葉巻もある。眼の前には水晶球の中の美女。眼福、眼福。

「ああサイモン。このサルーンも修復できるよう、報告しといてくれよ。発掘の拠点がいる。マスターも蘇生させよう。来る途中で見てきたが、このあたり、昔は栄えてたらしい。俺以外のスコッパーも派遣してくれねえと過労死しちまうぜ」
「ダウザーとか、キュレーターもいるな。電子原人の棲み処近くで川の跡を見つけた。あいつらを追っ払って井戸を掘ろう」
『あらあらふたりとも、のんびりしないの。彼女は表紙よ。まだ下にいろいろ埋まってるわ』
「まあ一杯ぐらい飲ませろよ。ここまで長旅で疲れてんだ。この姉ちゃんにお酌してもらえるといいんだがな」

HAHAHAHAHAHA……

夜空に電子の月が浮かび、電子の星々がきらめく。この世界には星の数だけ電子遺跡があり、瞬く間に増えていく。「アーカイバー」が存続する限り、俺に食いっぱぐれはないだろう。どこかで野垂れ死にしなけりゃな。

―――――水晶球の中の美女が、ピクリと動いた。

【荒野のタグ・スリンガー ひとまずおわり】

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