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大昔に習った話があざやかによみがえる。アニメ『平家物語』全11話・2022年

仕事に疲れた休日。たまたま1話みたら、そのまま一気に全部見てしまいました。すごく絵がきれいで、音楽が素敵で、登場人物たちが愛おしいアニメでした。あの『平家物語』が、こんな風にアレンジされるなんて驚きです。

主人公は琵琶を弾く娘。未来を見ることができます。琵琶法師の父親を平家の手下に殺された琵琶は、復讐として平家の頭領に「お前らは滅びるぞ!」と言いに行きますが、平清盛の息子重盛は「平家の良心」と呼ばれる誠実な人物で、琵琶を子どもたちの遊び相手として引き取ります。

最初はつっけんどんだった琵琶は、親切にしてくれる重盛の息子たちや、重盛の妹徳子たちと仲良くなっていき、彼らの悩みを聞いたり、琵琶を演奏して慰めたりする存在になっていきます。そして、未来が見えるだけで、何も出来ない自分の無力を嘆くようになり、「何もできないのなら見ない」と力を封印します。

重盛がどれほど真面目で誠実な息子でも、父親清盛とその取り巻きの横暴は止めることができません。だんだん、暴走していく清盛を抑えきれず、重盛は病で早死してしまいます。そして、そこから平家は坂道を転がるように転落していきます。

この物語がおもしろいのは、やっぱり未来を見ることができる琵琶の視点があることと、彼女の人生が平家と同じではないことです。平家にも人格者がいて、ろくでなしもいて、武芸に秀でるけど政治はだめな人物や、学芸はあっても武芸は苦手な侍もいて。そして、彼らが無自覚に踏み潰していく、下々の人たちがいて。彼らの物語の厚みが、とてもいいのです。

あと、芯の強い女性たちも魅力です。10才以上年下の天皇に入内させられて、競争相手が多い中、ようやく子宝を授かっても、「清盛の娘」では心が休まらない夫とは疎遠。病気で早逝する夫とは、最後になるまで理解しあえませんでした。でも、夫の最後の優しい言葉に力づけられた徳子は、以後「望まぬ人生が不幸とは限りません」と言い切り、高倉天皇の妻として、父の再婚話を拒み、誇り高く生きていきます。

白拍子の祇王や仏御前たち、技芸をもつ女性も、権力者たちの意のままにならない女性として、現代風にアレンジされています。仏教寺院がこの時代の社会的な避難所になっていること、そうはいっても(それだからこそ?)僧兵たちが政治にかかわってくるあたりも、すごくおもしろかったです。

個人的には、敦盛の最後で大昔に高校の授業で習った平家物語の場面が蘇りました。意外に覚えているものですね。人間の記憶はすごいし、やっぱり古典は義務教育で多少は習っておいたほうがいいっていうの実感します。

原作:古川日出男訳『平家物語』
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン: 高野文子(原案)、小島崇史
音楽:牛尾憲輔
制作:2022年・全11話


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