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かつて死体は金だった『中国臓器市場』城山英巳


2000年代の中国では、死刑囚に人権はなく、臓器も取り放題の使い放題。おかげで、中国は世界第2位の移植大国になりました。ところが、北京五輪(2008年)を前に、中国当局は規制を強化しました。おかげで、その後は壮絶な臓器争奪戦が始まりました。この本は、記者だった城山さんの渾身のルポです。

夫へ移植するために、病院で自分の肝臓を摘出した主婦。なのに、せっかく提供した肝臓は、別の患者に横流しされてしまった話。誘拐されて、気がついてみたら臓器を奪われた障害者の話など。弱者が徹底的にひどい目を見る中国からのルポには、ちょっと言葉もありません。

患者と病院をつなぐのは、臓器ブローカー。彼らは街中で交通事故を見かけると、タクシーに飛び乗って救急車を追うそうです。なぜなら、負傷者が死ねば、移植に使う臓器が生まれるから。誰よりも早く死体に群がるのが、ビジネスっていうのはやりきれません。

死刑が廃止されていない中国だからこそ、若くて健康的な死刑囚の臓器が入手可能となります。移植が制限されてからは、何がなんでも手術したい外国人の金持ちが、担当医師に賄賂合戦を繰り広げたそうです。そして、臓器移植でうるおっていた病院の間では、臓器争奪戦が熾烈になり、医師は携帯電話サイトをつかってまで遺体を入手したものの、よくよく調べてみると、その遺体は誘拐されたホームレスのものだったとか。 

「速くて安くて上手い」中国の臓器移植は、人の命が軽くて、人権のない中国で可能でした。とくに、若くて健康な死刑囚が定期的にでる、中国ならではのビジネスでした。病院は外貨稼ぎになるので、大金を払う外国人の移植が中国国内の一般人より優先されたそうです。最優先はもちろん、中国共産党幹部。

中国政府が北京五輪前のイメージを考慮して禁止するまで、中国の病院には日本や韓国、中東から多くの患者がやってきたそうです。2021年の東京オリンピックを経験した身としては、オリンピック理念に夢も希望もありませんが、それでも独裁国家でオリンピックを開催する意義は、まだあるのかと思わされます。

ちなみに、移植希望の患者を中国へ駆り立てるのは、日本の側の医療の問題です。かつてはアメリカへ。その後、中国へ。中国で外国人への移植が禁止されると、日本人患者はフィリピンへ渡る患者たち。なぜ、自国で移植ができないのかという思いは、お医者さんも患者も双方にあるはず。

臓器移植が倫理の問題か、それとも患者最優先か? 簡単には答えは出ないかもしれないけれど、とりあえず拝金主義な中国医療現場の実態は恐ろしいかったです。そして、なんとか日本でも、合理的な移植制度ができることを祈ります。私はドナーカード持っていますが、もう一度チェックしておきます。


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