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香港理工大学の立てこもりを撮影したドキュメンタリー映画『理大囲城』香港、2020年

昨年の香港で起きた学生デモの過激化によって、香港理工大学へ立てこもった学生たち(高校生含む)を撮影したドキュメンタリー映画『理大囲城』。日本で最初に上映されたのは、香港インディペンデント映画祭で、その時、かなり好評だった話を聞きました。

今回、山形国際ドキュメンタリー映画祭でオンライン上映され、さらに大賞をとったので最終日の昨日夜9時30分から再上映があり、ようやく見ることができました。最近、きつい内容の映画は後に尾を引いて、精神的に振り回されることが多いので覚悟しましたが、予想よりもダメージは耐えられる範囲でした。

この映画は、夜のシーンも多く、大学内に立てこもる学生たちも、催涙弾やカメラによる顔認証を避けるためにマスクをしています。学生の顔もわざと見えないように処理している部分もあります。かなり本格的なマスクの人たちも多く、これは香港の学生運動が長期化していることを示しています。

警察側も、放水車や催涙弾を使い、完全防備で学生以上に顔が見えません。大学を包囲しつつ、脱出しようとする学生たちを2人1組で捕まえようと、動きがないときは罵ります。ある晩などはジェイ・チョウという台湾出身の歌手の「四面楚歌」という歌を流して学生側を挑発。『項羽と劉邦』の時代ですか?

学生側にしても、警察にしてもお互い顔が見えない同士なので、罵りあいもすごいです。ブタ、ネズミ、狼……。そして、香港警察(香港政庁)の背後にいる中国政府に対してはチャイナチ(=チャイナ+ナチス)。

数年前の雨傘運動のときにも思いましたが、台湾の学生運動との違いは大人が子供(学生)を守ろうとしないことです。台湾のときは、学生の議事堂立てこもりに対して、大学の先生たちが守ったし、議員たちも対話をしようとしました。子供は間違うもの、やりすぎるものとして、その後も処罰はされませんでした。

でも、香港では子供たちしか戦いません。というか、運動の過激派が理大に立てこもってしまったので、平均年齢は低いはずです。穏健派の学生たちは大学にいませんし、中にいる学生を守ろうとする大学の先生は出てきません。政治家は一人だけ出てきましたが、彼も後に逮捕されてしまったようです。

そ警察は大学から自主的に出てきた者は、救護班だろうが記者だろうがすべて逮捕しました。このドキュメンタリーの監督や撮影者の名前が明かされていないのも、逮捕の危険があるからでしょう。本当に、やりきれません。

最終的に、なんとか子供を助けようとして、最後に出てきたのは高校の校長先生たちでした。彼らは顔を隠していません。武装していない人物が画面に出てくると、ホッとします。10日以上の立てこもりは、先生たちのおかげで多くが大学を無傷で出ることができました。身分証明書のIDナンバーを控えられましたが、それでも先のない籠城をする徒労から開放されたのです。

ちゃんとした作戦も組織もなく、いきあたりばったりで理大に立てこもった若者たちが怪我をし、逮捕されたり、IDを控えられてブラックリストに乗ったあとに残ったのは、どんな反論も意見も許されない香港の中国化。暗すぎると感じるのは、ドキュメンタリーの画面だけではなさそうです。

原題:理大囲城(英題:INSIDE THE RED BRICK WALL)
制作:香港ドキュメンタリー映画工作者(Hong Kong Documentary Filmmakers)2020年(88分)

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