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映画『崖の上のポニョ』(2008年)と5歳児のリアル


娘が4歳だったときに見に行きました。そもそも、『崖の上のポニョ』は初め全く私の予定になかった映画ですが、こちらの2つのレビューがあまりにおもしろかったので、俄然興味をそそられたのが理由です。

そこにあるのは、自分がヒゲのロリコンのおじさんというのは全く何かの間違い…女の子と一緒に仲良く遊んでる小さな男の子こそが自分の本当の姿…という強いメッセージ……熟年になってもなお失われた子ども時代追い求め続けるこの映画の宮崎監督にも、同じものを感じてしまいました。身を切るような切実さってこういうことを言うのでは……常識から外れたふるまいをして他人から嘲笑されつつも、その突き抜け方によって逆に聖性を帯びてくる…っていう人を指すのに「聖なる愚者」って言葉あるけど、この映画では監督もちょっとだけそれがあてはまってきたんじゃないかとか思ったりして…   ぼんやり上手『崖の上のポニョ』の予告をみたら涙が出てきた
これが芸術アニメであれば、技術や世界観的にもしかして似たような作品があるかもしれませんが、まがりなりにも老若男女対象の、全国でロードショウ公開されるアニメ映画で、ここまでアヴァンギャルドな作品を俺は見たことがないです……俺も、『ポニョ』は宮崎駿以外には作れない作品だと思いますし、傑作と言われても否定はしません。とにかく見たことがない種類の映画だし、技術的にも世界観的にも完成度が高いことに疑いはない。
          たけくまメモ:宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢

さて、映画を見た感想はというと。
4歳の娘がとにかく喜んで、上映中も笑ったり、キャアキャア言ったり。「ポニョが一番かわいかった~」「明日も見る~!」「ポ~ニョ、ポ~ニョ♪」と超ごきげん。あんまり何度も見る、見るいうので、とうとうDVDを買う羽目に……とほほ。

私はといえば、最初の海の中のシーンのきれいさにかなり満足。予告編でさんざん見せられた、アメリカのCG映画2本の無機質さが際立ってしまいました。うーん、辛い。

そして、アニメの中の5歳児のリアルさに驚きました。4歳くらいまでの自我とかまだあんまり育っていない素直さと、他人へ全面的なやさしさ、正義感。これって6歳くらいで自分の意思を持って、それをどう周りと折り合いつけたらいいのか理解しはじめるとなくなっていくもの。場合によっては、ずるくも立ち回れるようになる。そんなになる手前の、5歳っていうピュアな感じがすっごくよく出ててびっくり。そう、子供って母親にあんなふうに優しい。そして、あの保育所の2人の女の子たち。やたらこまっしゃくれたところが、娘の保育所のRちゃんとかNちゃんたちそっくりw

夫が、「なんで妹があんなにたくさんいるのに、お姉ちゃんはポニョだけなんだ?」とか「そもそも、あのとーちゃんが、なぜあんなかーちゃんを捕まれたんだ?」とハテナマークをとばす横で、娘は「ポ~ニョ、ポニョ、ポニョ♪」とポニョのお絵かきしてご満悦でした。

追伸:
こちらのレビュー2本もとってもおもしろいです。
ネタバレしないように、映画をみてからじっくり読むのがオススメ。力作です。というか、映画そのもの以上にレビューがおもしろい映画ってめったにないような?

しかし今回の「崖の上のポニョ」は一見現代日本のように見えつつも、社会ルールが一見ありそうに見えつつも、その崩壊がほぼ一瞬で受け入れられてしまう。しかもほぼ全員に。これは最早ファンタジーでなく、童話です。「当たり前」が存在しない、もしくは「当たり前」に依存する人間がいない世界。それは、記号と象徴の究極の世界である童話です。そして「ポニョ」は劇中で、「当たり前」を全て「当たり前」とは思わず、そして「当たり前」を崩壊させる存在として存在し続けます。そして、だからこそ、子供たちは「ポニョ」に一番感情移入するでしょうし、実際劇場では、「ポニョ」が笑えば子供たちが笑い、「ポニョ」が驚けば子供たちも驚き、「ポニョ」が怖がれば赤子が泣き出したりなどしていました。
出演キャラ総マッチョ化による「宮崎ファンタジー」から「宮崎童話」への移行(おまけもあるよ!) - 映画「崖の上のポニョ」感想

私が行った映画館でも、とにかく、子供たちの喜びっぷりと、大人たちの「なんだ、あれ?」みたいな当惑ぶりが対照的で笑えました。そのあたりをクトゥルー神話とからめて圧倒的な知識で解説する以下のエントリはすごいんで、ぜひ本文を読んでいただきたいです。私はあまり詳しくないので、ラストのオチだけ引用させていただきます。

でも実際は、中学ぐらいになってポニョを女子として意識しはじめたり、逆にポニョから「オス」として意識されたり。同級生のお嬢様から「ママに新しい服買ってもらったの。ポニョには似合わないわよね?」みたいなテンプレ的アプローチを受けたり。それをみたポニョが「うちのダーリンに何するだっちゃ!」とか、水鉄砲食らわせて「毎回服を台無し」にするような楽しい毎日を過ごせるに違いありません。
         てすかとりぽか「『崖の上のポニョ』クトゥルー神話」

ところで。
私は、『ポニョ』があれだけ現代の童話+外国風のおとぎ話風に作ってあったのに、最初から最後までずーっと、「これって小川未明の”赤いろうそくと人魚”の真逆をわざわざつくってるのかも……」という印象が消えませんでした。なんでだろう?

題名:崖の上のポニョ(英題:Ponyo)
監督:宮崎駿
製作:日本(2008年)101分



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