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映画『フェイブルマンズ』レビュー(ネタバレなし)

いやぁ、映画って本当にいいもんですね。

説明不要のスピルバーグ監督の自伝的映画ということで観ない訳にはいかない。
てっきり映画のいいところを全面的に押し出した作品なのかと思ってたけど、自伝の側面もあるからかそれだけではなく、映画撮影(映像撮影)がもたらした功罪というか、いいところもあれば悪いところも描かれていた。


(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

撮影することで生まれてしまった人間模様は、映画撮影のひとつの現実で、特に終盤のプロムはまさに映画だからこそかもしれない。
ただ、そんなありのままを撮れるからこそ、虚構を現実かのようにスクリーンに映し出すことができるんだ。
だからやはり、映画はとてもいいものだと思う。

ちなみに随所に『E.T.』などのスピルバーグ監督作のシーンっぽい場面があったり、何なら製作作品の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で観たシーンっぽいのもちょっとあるのも面白かった。
(そうみえるかは人によるかも)


(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

映画撮影の厳しい一面もある一方で、やはりポジティブな意味の場面も多くあった。
まず冒頭。スピルバーグが最初に観た映画が『地上最大のショウ』であることは知ってたけど、まさかそれがこの作品の中で観られるとは思わなかった。
地上最大のショウは、自分もセシル・B・デミル監督の作品が好きなので観たことがあった。
でも、スケールの大きさや迫力も、この映画で流れたシーン以外は大したことがなく、あとはよくある三角関係のラブストーリーなので、デミル監督らしいスケールの大きさや映像も発揮できていなくて正直あまり好きではなかった。
ただそれでも、その唯一の迫力あるシーンを、この作品を通してスクリーンで観れたことには感動した。
これは心が掴まれても仕方ないと思う。


そしてもう一つがラストの展開。これは本当にたまらなかった。
古い映画も観る人間なら必ず知っているであろう「ある人」が出てきて、映画好きなら興奮せざるを得ない展開だった。
たしかにスピルバーグが昔会ったことがあるという話はどこかで見た記憶があるけど、ここで持ってくるのはもはや卑怯とも言いたくなる。
ただ映画好きとしては、たとえ本人じゃなくても名前が出てきただけで興奮した。

しかもそのラストに登場する「ある人」を演じたのが、これまたある人だったのが驚き。
出演する側として観るのは、親友だったというハリー・ディーン・スタントンのあの映画以来だと思う。

そしてラストカットが、これまた最高だった。「うわっ」って言いそうになるくらい好きだった。
いままでの主人公サミーの映画撮影が肯定され、さらに夢ある今後の始まりを感じさせるようなカットだった。
作中でのサミーの映画は声なしだけど、「お楽しみはこれからだ!」というあの声が聞こえてくるようなラストだった。

ひとつ欲を言えば、この人を出すのであれば、それこそこの人の映画を観て興奮するところや、そのほかたくさんの映画を観てさらに映画に魅了されるシーンもあると嬉しかった。
「キューブリックじゃん!デヴィッド・リーンじゃん!ベルイマンじゃん!フェリーニじゃん!」みたいな興奮をしたかった気持ちもある。

ただそれでも素晴らしい映画愛が溢れた、しかもただの愛だけじゃない側面からも描いたのは、非常に意味のあることだと思う。
アカデミー作品賞の可能性もあり得る作品だと思った。

サミーにとって、映画がネガティブなものに感じた瞬間があったかもしれない。
それでも映画は、人の心をポジティブに動かす力を持つ素晴らしいものなんだと、改めて伝えてくれる作品だった。

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