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映画『君たちはどう生きるか』レビュー(ネタバレあり)

ジブリ作品というより宮崎駿作品。

事前の告知一切なしということで、どんな話かもまったく分からないままでの鑑賞。
告知なしだとどうなるのか?というのは、個人的に昔からどこかやってくれないかなと思っていたやり方なので、今回鈴木敏夫さんがこの手法を起用して試してみてくれて嬉しい。

ただ結果としては、「いつ公開なのかを忘れてしまう」という事態が公開前に何度か起きていたので、困ったもんだなという感想もあった。

ただしストーリーをまったく知らないまま観れたのは、なかなかいい体験になった。

キャスト情報も告知はなかったからほぼ知らずにいたけど、どこかのスポーツ紙が一時的に記事にしてしまい(現在は削除)それをたまたま見たことと、Twitterのトレンドに出演者らしき人物の名前が上がっていたこと、そして出演している女優さんのインスタをフォローしていたので、それで3人くらいは事前に知ってしまい、情報化社会の現代ではなかなか難しいものだなと思った。







(C)2023 Studio Ghibli


冒頭にも書いた通り、ジブリ作品というよりも宮崎駿作品という印象が強い作品だと思った。

というのもジブリ作品であれば、エンターテインメントな物語の奥底に、宮崎駿監督の思想であったりメッセージが含まれていることが多い。
つまり奥底のメッセージ性が分からなくても、表面にあるエンターテインメント性さえ分かれば楽しめる作品だ。

しかし今回に関しては、エンターテインメントな要素、つまり分かりやすさは少なく、「俺はこれが言いたいんだ!」というのを詰め込み、なおかつ説明を極力省いている。
チラホラと難しいという声を見かけたけど、そういうところが関係しているんだろう。

ただこの作品、要は宮崎駿版の『シン・エヴァンゲリオン』なんだと思った。
どういうことかというと、シン・エヴァンゲリオンは超簡単に説明すると、「アニメも実写(現実)もどっちもいいんだよ!」的な作品だった。

一方この作品は、解釈にもよるけど、ちょっと突き放している感じもなくはない作品にも見える。
同じようにシンエヴァ的に感じてる人いないかなーと思って探したらそこそこいて、でもシンエヴァのように寄り添った感じはしないって人もいた。

ただ個人的には、この作品もシンエヴァのようにアニメ(というかフィクション全体)も側にあっていいんだよ、という結末になっていた気がした。

それが最後のシーンで、眞人がカバンに入れた『君たちはどう生きるか』の本。
これは母親の形見であり、眞人にある種の決心をつけさせた作品。
眞人はここで本を置いていくのではなく、持っていくことにした。

これは自分を勇気づけてくれた「物語」を肯定している。つまりアニメもそうだけど、フィクションは人の支えになる。
この世界では、人を傷つけられることや、傷つけることもあるかもしれないけれど、そんな世界でも生きていこうと。
眞人の場合は、『君たちはどう生きるか』という本を支えに、あのラストのあとも生きていくのだと思う。

だから、個人的にはシンエヴァのように、アニメを始めとした物語に寄り添った作品なのではないかと思った。

宮崎駿監督も、元々は手塚治虫先生を始めとした漫画をこよなく愛していた少年で、そこから脱・手塚治虫を自分の中で掲げて、アニメの世界に飛び込んだ。
それでも監督は、自分の原点は手塚治虫先生の『新宝島』だと今でも語っているし、その他にも多数の作品を読み、なおかつ自分もクリエイターなのだから、そこを否定することは無いだろうと思う。

なので個人的には、ついに宮崎駿もこういう映画を作ったか、と思ったし、集大成的な感じはたしかにした。
けどもうちょっと何か作りそうな気もしてる。


それからスタッフ・キャストにも言及したい。
まずスタッフは、作画監督の本田雄さんをはじめ、おなじみの井上俊之さんら名アニメーターが名を連ねており、やっぱりジブリだわと思わされた。
そりゃ最初の火事のシーンとかハンパなかったもんなとか思った訳だけども。
ビッグネームが連なり壮観だなとは思いつつ、ジブリなのでむしろいつも通りではある。

特筆したいのは、アニメーターよりも助監督。
まさかの片山一良監督だった。
『風の谷のナウシカ』で演出助手を務め、ナウシカのBlu-rayでは庵野秀明監督とコメンタリーをやってた、あの片山一良。
まさかここで見られるとは思わなかった。
(片山監督の『THE ビッグオー』めっちゃ面白いからみんな観て)


そしてキャストも、名のある有名人がたくさん。
たくさんなんだけど、やはり事前情報なしの効果は大きい。
菅田将暉とあいみょんはマジで分からなかった。
(ちなみに事前に知ってしまったのは、木村拓哉・柴咲コウ・大竹しのぶの三人)

地声とは違う変な声を出すことで声の演技が下手でも隠せることや、先入観さえ無ければ余程じゃない限り誰か分からないといった様々なことから、下手とかいうよりも、違和感なく観ることができた。
まさかあいみょんが、あんな宮崎駿の趣味全開なヒロインをまっとうするとは。

それにしても、菅田将暉にあいみょん、そして主題歌が米津玄師という、完全に若者受け狙いのキャスティングは鈴木さんによるものなんだろうか。
何にしても、ジブリにしては珍しいくらい10代〜20代に人気の人を呼んでるって感じがする。


という感じで、事前の宣伝一切なしという方法での本作。
ジブリというネームバリューがあるブランドだから出来たことではあるけど、いい点が多いように感じた。
そして作品も面白かった。

宮崎駿監督が引退を撤回してまで作った作品で、集大成的な雰囲気の作品ではあるけど、なんだかもう一作くらい作るんじゃないかな、という気もしてる。

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