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2021 My Best Album レビュー

立派なタイトルのわりに、実はレビューを書くのが苦手だ。高校生の頃、君の読書感想文は読書感想文じゃないと現代文の先生に評されてから、ずっと感想文迷子になっている。私としては思ったことを思うままに書いたつもりでも、それは「思ったこと」ではなく「考察や分析」なのだという。ううむ、思いってなんなんだろう?

そんなことを思い出して、なんだかそういう気分になったので、自分が好きだった今年リリースのアルバムレビューに挑戦してみる。

本はともかく、音楽の感想って言語化が難しい。素敵な音楽に出会うと、勝手に体が動いてその後いいなあとなるものの、感じたことを言葉に変換した瞬間に、思い描いていたはずの感覚はパッと姿をくらましてしまう。平たくいうと、書いた言葉がいつもなんか全然しっくりこない。

頭を回転させてぴったりの言葉を捻り出す行為自体にも違和感があって、結局、曲をリピートさせることが私にとって一番心地よい音楽の愛し方なのかなあと思い至る。

でも、書く。書くんだ!と腹を決めて、今回は書いていく。


DPR LIVE/IITE COOL

2015年に結成された韓国・ソウルのコレクティブ、DPR(Dream Perfect Regime)は、音楽だけでなく楽曲MVなどの映像制作も自ら手がけるクルーだ。メンバーはラッパーのDPR LIVEのほかにもプロデューサーのDPR CREAMやビジュアルクリエイターのDPR IANなど、8人で活動しているらしい。

私はついこの前、秋と冬が混ざり合った季節の冷え込む日に、『IITE COOL』に収録されている「Summer Tights」に出会った。一夏の出会いを彷彿とさせるような、ちょっとチャラいこの曲が、寒くて縮こまっていた私の体をときほぐしてくれたような気がする(ちなみにさっきMVを見てみたらまさかの雪山からスタートだった)。

曲達に散りばめられた「Coming To You Live」というフレーズ(シグネチャーサウンドっていうらしい、今までずっと「ラッパー 決め台詞」、とか「曲中 名乗る ヒップホップ」とかで調べていたので恥ずかしい)も、フライト前のアナウンスみたいでドキドキさせられる。

「Summer Tights」次曲の「Boom」では、地上を蹴る飛行機のタイヤの轟音みたいなバスドラムのイントロから、離陸して高度を上げ、雲の隙間に浮上するような開放感のあるビートに包まれていく。または、目の前に現れた、まるで女神のような”彼女”が、翼を広げて広い青空へと飛び立ってしまうみたいな壮大さ。ひとり取り残された自分の存在の小ささを思い知らされる、間奏の鳥のさえずり。ちっぽけな私の体は自然と揺れている。

あっけなく終わってしまうこのアルバムのラスト曲「Awsome!」で、退屈と常識に縛られた生活に、みんなで阿呆になっておさらばしてしまいたくなる。こういうとき、共犯できそうだから、コレクティブっていいなあと思う。

DPR IANが今年リリースした「Moodswings in This Order」も最高で、どっちもベストオブ2021だった。『シャン・チー』のサントラに収録されているLIVEとIANとpeace.の「Diamonds + And Pearls」も、大好きなJusticeがサンプリングされていたり、クイーンからインスピレーションを得た「ロックアンセム」コンセプトなのがソークール。語彙力なくてほんとすみません。どのシーンだったか見直さねば。


Seiho/CAMP

音楽活動だけじゃなく、おでんやさんをやったり和菓子やさんをやったり、いつも気になるSeihoがAmazon Musicからアルバムをリリースした。

YouTubeでこのアルバムのトレイラーを見つけたときに、胸が高まった。豪華なことに、それぞれの楽曲に合わせたミニ尺のビデオクリップをまとめたもので、ダイジェスト的に全曲を聞くことができる。このトレイラーのせいで、限定配信を開始したAmazon Musicに加入する事になった。完璧に、世界一位の富豪の思う壺だ。

そしたら、1曲目「iLL」から世界一位の富豪の住う土地にまつわるあれやこれやがイースターエッグのように散りばめられたリリックを鎮座DOPNESSが展開していて、痺れた。「歴史を溶かしてったコカ・コーラ」で、私も溶けるかと思った。フックも最強に皮肉めいていて、そしてただただサウンドがカッコ良すぎて、爪先あたりが多分ちょっと溶けた。

次曲「SHAKE」の舞台は渋谷。ちなみに、スクランブル交差点を通りかかった時に、とってもキャンプなこのアルバムのアートワークが街のビルボードに流れているのを見つけて、めちゃくちゃテンションが上がった。

ASOBOiSMの「ポンデリングないのだけがsad point」というパンチラインのわかりみが深すぎる。クリスピー・クリーム・ドーナツもいいけど、クリスピーじゃ満足できない時だってあるんよ!ってずっと思っていたので。

他にも、なぜか侘び寂びを感じる(おそらくビデオクリップでお坊さんみたいな人が出てくるから)エモーショナルなメロディに託された「STAY」。意外にアップテンポでスラップっぽいビートと、囁くような「紙を火に焚べたり」のイントネーションが絶妙な「SHANTI」。さらにスケートリンクと冬の森を行き交う(衣装可愛い)クリップと「思惑通りにするのがtokyo」というKID FRESINOのリリックが渾々と響く最後の「IF YOU」。

「SHANTI」か「IF YOU」は、どちらかが私の今年ベストソングでもある。時と場合によって気持ちが揺れるので、全然決めきれない。

全曲とも別のシンガーやアーティストがコラボレーションしていて、それぞれ個性的なトンマナが展開する、溢れんばかりにてんこ盛りなアルバムだった。欲を言えば、リリイベで1曲ずつ順番に全員登場するのを生で観て叫びたかった。


小袋成彬/Strides

前作「Piercing」の美しすぎる全体感に圧倒されていた私は、新作一曲目の「Work」でかぼそい琴線をしょっぱなから撃ち抜かれた。歌詞がとにかくリアルだった。夢とか目的とか、生きがいとか、日本の労働者を切り取ったさいきんの表現物たちはいつだって輝かしくて、それが正解と掲げられているようにすら感じる。

でも、日常は実はもっと平べったくて、生活のために働くというシンプルな構造のもとで成り立っている。これは、なにも心を殺して我慢して働く、というメッセージでもなくて、ただ生きるために必要な個人の優先順位で成り立つ「仕事」のことだと思った。それが育児でも、芸術でも、大金でも余暇でもよくて、「ただ、君といたいだけ」だっていいのだ。

今回も、粒だった曲達をアルバム全体で聴くのはとても心地よかった。「Work」から「Rally」への流れだったりは、パズルのピースがしっかりとはめ込まれたように気持ちがよくて、安心する。

アルバムの中心部に添えられた曲「Butter」は、甘くて、喉元がジリジリと熱く感じるようなラブソングだった。BTSの同名の曲が、滑るようになめらかな澄ましバターだとしたら、こちらはトーストのうえでゆっくりとまだらに溶け出すバターで、焼けた小麦と混ざり合うように香ばしく匂いだっている。

そして、バターが溶けきってしまった後みたいにメロウなビートを醸しているのが、次曲でアルバムの表題でもある「Strides」。私はこの手のスローテンポにとても弱い。弱いというのはとても好きという意味で、私自身の歩みも、その向かう先も道順も、自分の好きなペースで、ゆっくりでいいんだなあと今更になってやっと気づいた。ただ、気づいただけなので、行動に移せるかどうかは来年の私に託したい。


んoon/Jargon

今年、どれだけんoonとvalkneeの「Lobby」に救われたかわからない。ロビイ活動という言葉の意味はずっと掴めずにいて、結局今も何がロビイ活動にあたるのかよくわかってないんだけれど、JCの歌声とvalkneeのラップが織りなす映画みたいなこの曲が想像力を膨らませてくれたことは間違いない。聴けば聴くほど、別のフレーズが耳に入ってきて、その度に架空のシーンが思い浮かんだりした。

ゾンビは私にとって今年の象徴的な存在だった。

これは、日本では今年発売されたイ・ランの小説『アヒル命名会議』に収録されていた短編「いち、にの、さん」にも通じていた。ゾンビが溢れる街に取り残された異常事態で、どうやって切り抜けていくかを考える切迫感とは裏腹に、頭ではわかっているんだけどあんまり現実味のない変ちくりんな気怠さが同居している。そこに、JCのボーカルとコーラスが祈りのように重なっていく。

ふたつの作品は、なぜか同じ世界線にあるような気がした。そして自分もその世界に入り込んでしまっている感じがした。もしかしてこれらは現実の出来事で、私はもう既にゾンビになりかけているのかもしれなかった。

アルバムタイトル「Jargon」の通り、今年はいつも以上に内輪を意識する一年だった。自分と身の回りのことについて真剣に考えることを迫られたり、思い知らされたりもした。自分を大切にしないと、身の回りの人のことも大切にできない。ただ、これがとても難しい。「Godot」の「見たことない物ばかりにただ憧れてる私は何様」という歌詞は、愚かな私を目覚めさせ、突き刺さるような反省を促す。おそらくゾンビになりきってしまう前に、このアルバムと出会えてよかった。


Disclosure/ Never Enough

ディスクロージャーについて書くのが、なんだかおこがましく感じる(ある視点でみればどのアーティストについて書くこともおこがましいのだけれども、それとは別の意味で)。私はダンスミュージックについて全然明るくないし、ディスクロージャーを追いかけてきたわけでもないから、これまでの作品と比べてどう、とかそういう聞き方ができない。正直にいって、このアルバムが彼らとの初めての出会いに近い。でも、聴きはじめた瞬間「これぁ最高だぁ〜」と思った。でも、それがどこから生まれたどんな「最高」なのか、言語化が一番難しくもあった。

例えば。夜中、家じゅうの明かりを全て消して、イヤフォンをつける。なにも考えずにプレイボタンを押して、さらに目を閉じる。

行ったこともないくせに、気分はどっかの国でやってる地下レイブ。「Never Enough」のイントロで階段を降りていく妄想をすると、たどり着いたフロアはもうピークタイム直近の盛り上がりを見せている。YouTubeでボイラールームを見まくって覚えたオーディエンスの熱気をせまいワンルームで勝手に作り出しながら、ひたすら流れてくる音に身を委ねる。現実では、アパート下階の人にじゅうぶん気を使いつつ、足がへろへろになってベッドに倒れ込むまで、ひたすら眠れない体をゆらす。

次曲の「In My Arms」が私のお目当てだ。お祭り騒ぎみたいな音の連鎖が続き、遅れてやってくるベースラインが高揚感を煽るこの曲で、繰り返される「I Need You In My Arms」というフレーズにたまらなくなる。ずっと聴いていると、曲の一人称「I(私)」は、誰か特定の人間とかではなく、音楽そのものなんじゃないかしらと思えてくる。

ふと曲が終わって、いちど体を落ち着かせていると、シンセの重なりがフェードインで現れれて「まだまだ終わらせん」と言わんばかりに「Happening」が始まる。その後の「Another Level」でもっと踊らされ、「Seduction」できらきらした気分のフィナーレを迎える。それでも踊りたりない時は、Editバージョンへ。

人熱みたいなものをダイレクトに感じることができない世の中で、コンサートやイベントの有観客解禁後も、まだちょっと足を運ぶのが怖い。そんな私にとって、自分ひとりの部屋で踊り尽くすのが、精一杯の抵抗だ。

これ以上はもう言語化できない。ほとんど、ただ私の行動パターンしか書けていない。このepはおそらく、私にとって絶対音楽みたいなものなのだと思う。


Clairo/Sling

もともとはビール瓶片手にライブをするお洒落なシンガー、というイメージだったけれど、「Sling」を聞きながら、ありゃ?私の歌がある、と思った。それは自分がお洒落だといっている訳でなく、実は彼女が私のどこか一部分に引っかかるくらい近い目線なのだと気づいたからだった。

アメリカの映画でよく見る、傾斜のない森林の深みを思わせるメロディだけじゃなく、「Amoeba」は歌詞に心惹かれてすぐにその全文を調べた。化学的な曲なのかなと思ったら、もっともっと有機的な話だった。

特に好きなのが「Aren’t you glad that you reside in a Hell and in disguise?(地獄で暮らして自分を偽ってるのがいいんでしょ?)」と「I can hope tonight goes diffеrently But I show up to the party just to leavе(今夜こそ違うって願いたいけど、結局私はそこを離れるためだけにパーティに顔を出す)」の部分。

なにが起因で現れたかも分からず、忘れることもできないでいる悲しみと闘いながら、ただし闘っていないふりをして、なにも期待しない素振りで手をふる、みたいな多重構造が輪切りにされて、その身を顕にしている。誰かに語りかけているようで、自分に言い聞かせている感じがして、苦しい。

「Amoeba」が刺さりすぎたので、この歌詞のことだけでもずっと考えていられそう。ただ、終盤の「Little Changes」でも「Management」でも、ピアノや弦楽器の軽やかで温かみのあるメロディとは裏腹に、小さな悲しみが悲しみとは見つからないような姿で静かに語りかけてくる。

言葉にならない感情が延々と遠回りしながら、たえず変容していって、最後にたどり着く所で見える景色が、ひょっとすると詩というものなのかもしれないけれど、これまでの人生で直接的な言葉を使って何かを獲得できなかった人たちに与えられるのが「詩」の力なんだと私は信じている。

さいごに、彼女の本当の望みを一曲目の「Bambi」で見つけたような気がする。「But what if all I want is conversation and time?(でも、もし私が本当に欲しいものが対話と時間なのだとしたら?)」。


おしまいに、今年リリースでたくさん聞いて、よいなあと思った単曲をいくつか。

cero「Nemesis」、藤井風「きらり」、bonobos「Not LOVE」、米津玄師「ゆめうつつ」、宇多田ヒカル「PINK BLOOD」、Ginger Root「Loretta」、BTS「Butter」、The Weekend「Take My Breath」、Little Simz「Introvert」、Faye Webster「I Know I'm Funny haha」、Justin Bieber「Hold On」、イ・ラン「ある名前を持った人の一日を考えてみる」、Unknown Mortal Orchestra「That Life」、Syd「Fast Car」、MICHELLE「FYO (feat. CHAI)」、Agnes Nunes「Cabelo Bagunçado」、Lorde「Solar Power」、Silk Sonic「Leave The Door Open」、Saint Vincent「Pay Your Way In Pain」、KOHH「No Makeup」など

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