社内で指折りの腕を持つ職人が魅せる溶接の技。支え続けた「相棒」の存在とは
【北九州マイスター特集②】
山九(株):野﨑孝文さん
近代の産業発展とともに、モノづくりの街として色彩を帯びてきた北九州。
この街では今なお、数々の人々が多種多彩で奥深いこの街のモノづくりの担い手として日夜励んでいる。
そんなこの街には、「北九州マイスター」の称号を持つ人たちが居る。
卓越した技術と裏打ちされた経験を持つ技術者たちは、北九州のモノづくりのさらなる「進化」と「深化」に向けて欠かせない存在だ。
今回、X-BORDERチームが連載を続ける『相棒録』で4人の北九州マイスターにフォーカスした。
マイスターたちが日々扱う道具である「相棒」を切り口に仕事に対する想いやこだわりを述べる姿は、あらゆる仕事におけるプロ意識にも通じる。
第2回目は、山九(株)の野﨑孝文さんにインタビューした。
化学プラントを血管のように巡る配管を整備し続けた社内有数のスペシャリストの腕は、一心同体といえるある道具によって支えられている。
【出会い】「技術を身に付けたい」との思いがモノづくりの道へ
ーまずは北九州の街とのつながりを教えてください。
野﨑
「普通科の高校に通っていましたが、仕事を探す際に『技術を身に付けたい』と考えていました。その時にたまたまこの会社の求人を目にしたことが縁で入社する流れになり、モノづくりの道に進みました。地元でも仕事を探していましたが、社会人となってからは北九州でずっと暮らしています」
ーそんな野﨑さんが「相棒」のティグトーチと出会ったきっかけは。
野﨑
「入社以来からしばらく製缶加工や配管作業をしていましたが、4~5年経った頃にTIG溶接での作業を新たに手がけることになりました。その時、周りの先輩が既に使っていた流れで今のメーカーのものを使い始めたので、実は特にこだわって選んだわけではないんですよ」
ーティグトーチの使い方はどのようにして覚えていきましたか?
野﨑
「基本については先輩に教えてもらいましたが、現場で実際に作業を重ねることで徐々にコツを掴んでいったような感じです。自分の中で『それなりに使いこなせるようになったな』と感じるまでには、5年くらいはかかったかと思います」
【経験】難作業を乗り越えて身に付けた自信が技術の根幹に
ー相棒であるティグトーチは普段どんな場面で使っていますか?
野﨑
「アルゴンガスを吹き付けて作業をするTIG溶接は、火花が飛び散らないことが特徴です。常駐している化学プラント内の狭くて作業しづらい場所や火花を飛び散らせると事故につながる危険性のある場所で、配管などの溶接をする際に使っています」
ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
野﨑
「基本的には他のメーカーのものと使い勝手の違いはそれほどないと思います。ただ、トーチの先端部分が床やモノなどに接触していると故障の原因になります。使わない時は、直接地面に触れないように立てかけるなどして気を付けるようにしています」
ー印象に残っている思い出を教えてください。
野﨑
「約30年ほど前ですが、ボイラー設備の水管を切り替える工事での出来事が印象深いです。その時は、作業をするパイプの片側が壁に近いため回り込んでの作業ができない難しい環境でした。内側から半分ほど溶接をした後に被せパイプを施す作業で対応しましたが、その時の経験値が生きてその後も難しい作業をこなせるようになったと感じています」
【想い】『自分の思い』を持たせることを大切にする技術の継承
ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
野﨑
「あまり想像がつかないですね(笑)もしかすると、モノづくりの仕事に携わっていなかったかもしれません。長年この仕事をしていますが、モチベーションを保ち続ける上でシンプルに考え過ぎないことを意識してきました。仕事において『何事も一生懸命』をモットーにしていますが、時には『何とかなる』『次は何とかしよう』と切り替える大切さも学んだと思います」
ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
野﨑
「トーチも劣化し続けるので、部品を取り換えながら1日でも長く使いたいと思っています。あとは、若いメンバーの指導に力を入れたいです。私自身、あまり言葉で伝えるタイプではないのですが、どこが良くてダメだったかを考えさせるようにしています。言われたことだけを作業としてこなすこともできますが、仕事を通じて『自分の思い』を大切にしてほしいですね」
ー最後に今後の目標を教えてください。
野﨑
「現在は現場から離れた形で仕事をしていますが、最近は北九州市などが主催する社外の技術講師として参加する機会も頂いています。これまでは社内を中心に技術を伝えていましたが、これからは他社の方との交流も深めながら伝える役割を果たしていきたいです」
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