「自信につながった」ものづくりの世界を渡り歩く原点となった手づくりの道具とは
働く人にとって、日々扱う道具は「相棒」と言っても過言ではありません。
相棒とどのように出会い、どんな思い出を刻んできたのか。
長らく使ってきた道具に焦点を当てると、その人の個性やこだわりが滲み出てきます。
今回の「相棒」は、(株)アクアの中野秀春さんが扱い続けるケガキ針にまつわるエピソードをお届けします。
ものづくりの世界に入ったタイミングで仕上げた手づくりの道具は、四半世紀に及ぶ不思議な縁が隠されていました。
ものづくりの世界に飛び込んだ際に制作した手づくりの道具
ー「相棒」と出会ったきっかけは。
中野
「友人の親戚が営む鉄工所で働き始めた約25年前からです。本格的なものづくりの仕事をするのはその時が初めてだったのですが、先輩に『(ネジを固定する)ロングタップがケガキ針に合う』と言われて手づくりしたことがきっかけでした。タップの先端を改良して尖らせ、柄に使う部分の棒材を溶接して組み合わせて作っています」
ーどんな時に相棒は活躍していますか?
中野
「鋼材や鉄板などに穴を開ける位置を記したり、正確な線を引いたりする際に使っています。モノによっては丸1日かけて何千か所もの印を入れることもありますが、ケガキ作業を疎かにすると溶接や組み立てなどの加工をする際にズレが生じてしまいます。地味な作業ですが、正確さが大事になってきますね」
失くすことがあっても手元に戻ってくる不思議な縁
ーそんな相棒にはどんな「個性」がありますか?
中野
「市販のケガキ針よりも全体的に細めの造りなのが特徴です。革手袋をはめて印を付けることが多く、他のものと比べても最も持ちやすくて手に馴染んで作業がしやすいと感じています。材料よりも硬い材質なのですが、研ぎ方がうまくいかないと逆に使いにくい時があるのが唯一の短所ですね」
ー印象に残っている思い出を教えてください。
中野
「他にも自分で作ったり、市販のものを使ったりしたこともありますが、手元に残り続けているのが最初に作ったこのケガキ針です。これまでに何度か紛失したこともありますが、大掃除の時に見つかるなどして運よく戻ってきました。小さくて細いモノなので、切れくずに混ざって捨てられてしまう可能性もあると思いますが、ずっと手元にあることに不思議な縁を感じます」
ー扱い続けるうちに気を付けるようになったことはありますか?
中野
「作業途中にどこかに置いて無くすことがあったので、使っていない時は必ず道具箱に収納するようになりました。サシ(定規)との相性もこのケガキ針が1番合っていますし、ずっと使い続けてきたので今では手元にないと何だかモヤモヤした気分になってしまう位に欠かせないものとなっています」
仕事を続ける原点であり、自信につながった存在
ーもし相棒が現れなかったら、どんな社会人生活になっていましたか?
中野
「ケガキ針を使った作業は仕事を続ける上で原点になったと思います。ものづくりの基本でもあり、印の入れ方次第で精度に大きく影響します。30代になってから本格的なものづくりの世界に入りましたが、ケガキ作業を通じて周囲からも認められるようになってその後の自信にもつながりました」
ーこれから相棒とどのように付き合っていきますか?
中野
「最近はレーザーでケガキができるようになったので、ケガキ針を使う出番はかなり減りました。それでも最初に使い始めて思い入れがあるので、仕事を続ける限り大事にしたいです。モノづくりの環境もかなり変わり、今では海外から来た人に教える立場となりましたが、自身で考えてもらえるように心がけながらモノづくりの良さを伝えたいと思っています」
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