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素材の持つ機能性がヒントに。"ゴムの街"発のオリジナル商品が魅せるモノづくりの輪

【Create New Market】Episode.17

日頃表舞台に立つ機会が少ない製造業が、知恵と技術を凝縮して生み出した商品やサービスによって思いがけず注目の的となることがあります。
どんなきっかけで作り出し、どんな思いで世の中に送り出したのか。
1つ1つの商品が世に出るまでの舞台裏を覗くと、かけがえのないストーリーが隠されています。

今回は、(株)SING(福岡県太宰府市)が展開する日用雑貨などのオリジナル商品にまつわるストーリーをお届けします。
ある素材の可能性を追い求めた商品を展開することになった背景には、地域に根深く息づいてきたある産業が大いに関わっていました。



【Introduction】山あいの建物から発信するモノづくりの価値

竈門神社のすぐそばで営業するSINGのショールーム兼カフェ(SING提供)

古代からの歴史が色濃く息づく福岡県太宰府市。
修験道の聖地として知られる標高約830mの宝満山のふもとには、縁結びや方除けの神様を祀る竈門神社があります。
のどかな場所に佇む神社は近年、アニメ『鬼滅の刃』にゆかりのある神社として注目を集めたことで国内外から人々が訪れる観光スポットとして知られるようになりました。

そんな竈門神社の鳥居のそばにあるガラス張りのオシャレな建物。
SINGはこの建物で自社ブランドの発信拠点となるショールーム(SiNG STOCK&SERVICE)とカフェ(cafe Si)を展開しています。
カフェの店名は、自社商品に使うシリコーンゴムの主成分となるケイ素の化学記号にちなんで名づけられました。

シリコーンゴムは、その特性を生かして自動車やエレクトロニクス、建築、日用品など幅広い分野で用いられています。
SINGはこの建物からほど近い場所にシリコーンゴムの加工に特化した工場を構え、幅広い分野に向けて部品を送り出してきました。


【STEP.1】地域に根づいたモノづくりの文化がヒントに

混錬したシリコーンゴムの成形には「加熱、圧力、時間」の3要素が重要となる

現在は太宰府を拠点に事業を展開するSINGですが、「ゴムの街」として知られる福岡県久留米市に起源を持ちます。
市内にはブリヂストン、アサヒシューズ、ムーンスターの「ゴム3社」をはじめ古くから関連産業が集積し、現在も数多くの企業が営んでいます。
SINGは設立前、この街で合成ゴムの成形メーカーとして工業用部品の生産を手がけていました。

久留米の街から生み出されるゴム製品は、タイヤや靴底など黒子役として使われるものが多い傾向にあります。
そうした状況に対し、代表取締役の中野英司さんは「地べたで頑張るゴムを日常生活の中で使える形にしたい」とおぼろげに考えていました。

そんな時、知人の誘いを受けて参加したある勉強会が現在の事業展開につながるヒントをもたらします。
勉強会で挙がったテーマは、「強者」と「弱者」の視点から勝ち抜くことを説いた「ランチェスターの法則」にまつわるもの。
中野さんはこの法則を自身にとって身近なゴム産業に当てはめて考え、ある素材に可能性を見い出します。
それが、現在の事業展開で不可欠な存在となる「シリコーンゴム」でした。

シリコーンゴムは、耐熱性、耐候性、撥水性などの特性を持つ素材です。
石油を使わずケイ素を主成分としているため、他の合成ゴムのように匂いが生じないことも特徴に挙げられます。

一方、高機能な特性ゆえにコストが割高になることから、シリコーンゴム専業で手がける会社は全国的に多くありません。
ゴムの街として関連産業が集積している久留米でも当時、シリコーンゴムに特化してモノづくりを展開している会社はありませんでした。

そうしたシリコーンゴムの特性や市場環境を考えた時、「弱者」の立場から勝ち抜くヒントが隠されているのではないかと感じた中野さん。
シリコーンゴムの加工に特化した新たな会社として、2011年にSINGを立ち上げます。


【STEP.2】商品のユニークさや認知度の高まりとは裏腹な展開

SINGにとって初めての商品となった「ON THE TOPS」(SING提供)

SINGを立ち上げてまもなく、地元の高専の教授からアドバイスをもらう形でデザインやシリコーンゴムの特性を生かした商品の企画に取りかかります。
商品化は難航が予想されましたが、「最初にデザインしたモノの構造が予想以上の出来だった」(中野さん)ことからそのまま採用することにしました。

それが、最初の商品となった「ON THE TOPS」です。
有田焼の器と組み合わせたフタとしてだけでなく、段差による折り目を付けることで商品自体を深皿として使える特徴を兼ね備えています。

ON THE TOPSは落ち着いた色合いを意識したデザイン性やシリコーンゴムの特性を生かした機能性といったユニークさもあり、福岡県などが主催する福岡デザインアワードでは初エントリーで入賞を果たしました。
ただ、この時点では「作って満足の状態で売り方についてなかなか考えられていなかった」(中野さん)こともあり、認知度の高まりとは裏腹に具体的な販売に結びつけられない状況でした。


【STEP.3】キーパーソンとの出会いがもたらした「厚み」

シリコーンゴムの特性を生かしてレパートリーを広げたオリジナルブランドの商品(SING提供)

認知度は高まりつつも、思ったように売れない商品。
売り方について考える過程で、ある人物との出会いがその後の商品展開に大きな影響を与えることになります。

ON THE TOPSが福岡デザインアワードで入賞してからしばらく経った頃、あるデザイナーと出会うことになりました。
それまでパッケージデザインについて悩んでいた中野さん。
具体的にどんなアドバイスを受けるのか未知数でしたが、商品を見て真摯に語るデザイナーの姿に「本音で語ってくれるからこそ逆に信頼できた」と、この時以来商品デザインを任せることにしました。

シリコーンゴムの特性を生かしながら洗練された商品づくりの体制が整い、次に送り出したのが「FACTORY」シリーズの商品です。
日常の使い勝手を意識し、キーリングやコースター、マグネット、ペンシートなどレパートリーを一気に広げながら商品の方向性を固めていきました。

その後、取引があった同業者に後継ぎがいなかったことから事業を引き継ぎ、生産基盤を現在の太宰府の場所に移します。
生産体制が整ったことでマグカップやトレー皿などレパートリーがさらに広がり、展示会を通じたPRなども継続的に展開することで軌道に乗るようになりました。

製造に使う金型の関係もあり、「当初は(商品が)『薄物』ばかりだった」と振り返る中野さん。
一方で途中からSINGのメンバーに加わった内山美紗子さんは、時間を追うごとに「(商品自体も事業展開も)『厚み』を増していった」と語ります。


【STEP.4】「使う」「魅せる」を軸に発信する商品の価値

自社商品を器に使って焼き上げるプリンはCafe Siの看板商品となっている(SING提供)

スタイリッシュさ、ユニークさを示しながら次第に売る場所を増やしていったSINGの商品。
さらなるアクションとして、「魅せる」場所を確立することになります。

きっかけは、太宰府の工場からほど近い場所にあるハンバーグ店が移転したことを機に空き家となったことでした。
その建物を活用し、オープンさせたのが「SiNG STOCK&SERVICE」と「cafe Si」です。

カフェではSINGの商品を器として使い、建物の一角には実物の商品を製造するスペースを設けて「魅せる」ことにこだわりました。
山あいの落ち着いた立地とオシャレな雰囲気も相まり、SINGの商品は雑誌などで紹介される機会を増やしていきます。
テレビのバラエティ番組で紹介された後には、コロナ禍で飲食業界が苦境に陥っていた時期にも関わらず次々と人々が訪れるほどの盛況となりました。

開店からしばらく経て改装も実施し、より開放的な空間にすることで建物の魅力を高めてきました。
オープンから約5年、SiNG STOCK&SERVICEとCafe Siは現在も観光客を中心に各地から人々が訪れる場所として商品の魅力を発信し続けています。


【まとめ】さらなる弾みをつける「第3章」の展開

学生が実施したアンケート調査や観察調査を基に商品化した「ぺんむすび」(SING提供)

SINGは事業が進むにつれ、自社商品の展開と並行してさまざまな企業や大学などとの共同による商品化も進めてきました。
コースターやマグカップなど自社のオリジナル商品にSINGのシリコーンゴムを活用するモノづくり企業も出てくるなど、今では九州各地でさまざまな結びつきが広がっています。

久留米で活動を始め、太宰府を拠点に広がっていったSINGですが、2024年は「第3章」となる動きに乗り出しています。
その拠点となるのが、観光地として有名な広島県尾道市です。

広島県東部には取引先である部品納入先も多く、以前から尾道に頻繁に訪れていた中野さん。 
次第に尾道の独特な雰囲気に魅了され、「拠点となる場所がないか探していた」と口にします。

そんな思いを体現する場として、今春には市内にある観光宿泊施設に近い建物を活用して営業拠点を兼ねた店舗を立ち上げる予定です。
自社商品を販売する店舗には、サイクリングが盛んな地域性を生かして自転車用アクセサリーを中心に展開しようとしています。

シリコーンゴムの魅力や特性を生かすことを目指して設立されたSING。
さまざまな結びつきによって広がっていった輪は、さらなる弾みを付けながら新たな形を作り上げようとしています。



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